美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
「けれど、桔梗様が羨ましいです。」
と、少し寂しそうに憂いを帯びたように笑みを浮かべるロベは、見た目は女性であるが性別は男女両方持ち合わせているというロベ。
だからなのか、独特の色気があり蓮だけでなく、思わず結やフジ、陽毬達女性陣までドキリとしてしまった。
そこにヴォイドが、ロベの話に加わり
「……悔しいが、…姑息な真似をして手に入れたとはいえ、桔梗はマスターと恋人になれた。羨ましくないわけがねー。
俺はマスターが手に入らねーくらいなら、マスターの許しさえありゃ2番目でもかまわねーけどな。」
と、言ったのを聞いて、風雷はじめ結達みんなビックリしてしまった。
つまり、ショウの愛人になってもかなわないって言っているのだ。側室みたいな感じで言っているのだろうが…え?…いいの?それで?
いやいや!無理でしょ!!
なんて、それを自分に置き換えて考えた時、結達は頭の中で想像してどうしても拒否反応が出てしまった。
やっぱり、結婚、恋人ってなったら互いに一途に愛し愛されたいと思う。
それが、二人の愛の中に別の愛を入れるなんて…とんでもない話だ。異物混入としか思えないし、無理無理!絶対、無理と思い思わず気持ち悪いブルブルッと寒気が走った。
だが、蓮はそこのところは幼い頃から祖父母、両親達の多くの愛人達がいる事が当たり前の家で育った為に、結達の反応を見て、愛人がたくさんいて何が悪いのか理解に苦しんでいる最中である。
ハナ一筋の風雷、絶対的ウダツ愛のフジなんて、理解不能のあまり考える事を放棄している。
「そんな話ではなくて。その星によって、性行為がそれぞれ違いますよね?
もちろん、他の星といっても似たり寄ったりが多かったりもしますが、多種多様。その種族しかできない性行為も多く存在しますし!」
なんて、興奮したように話すロベの話に、絶賛思春期真っ只中の結達は、恥ずかしくなって俯いたり妙に挙動不審になったり動揺を隠せない。
…え?その星によって性行為って違うの?と、興味を示す蓮。興味はあっても、自分を崩したくない風雷は平然を装っていたりとみんな反応は様々である。
だが、一つ言える事は
みんな、ロベの話にめちゃくちゃ興味津々だという事である。
思春期を舐めんなって話だ。
「普段、桔梗は宇宙一気持ちが良く美しい行為とされる性行為。それをショウ様と実践なさっているらしい話ですが。
けれども、桔梗は全身くまなく愛せるこの星の性行為が大好物らしいですね。たまに、“何かのご褒美”に、この星の性行為を楽しんでいるのだとか。」
なんて、そういう話なんかじゃないとロベはヴォイドの話をぶった斬って、自分の話したいエロ話をぶっ込んできた。
「宇宙でも、お下劣で悍ましいみるに耐えないと噂のこの星の性行為。
宇宙ワースト10に数えられる程。
私はそれを見学した事もヤッてみた事もありあすが、……最高でした。」
なんて、うっとりと話すロベの内容に、みんな
………え???
知能を持った生物のいる星が、この宇宙にどれだけあるか分からないが数え切れないほど存在しているだろうと考える。
だが、その数えきれない星の生物達の性行為。その中でも、自分達の知っている性行為は…まさかのワースト10に数えられるほどお下劣で悍ましいとされてるの!?
それを知って、かなりの衝撃だしショックである。他の星の人達の性行為について知らないが、決してお下劣でも悍ましくもないよ!失礼過ぎない!?と、思う面々であった。
なんか、この星に住む自分達がバカにされたような気持ちになり、かなり不快である。
「だって、赤子も子供も女も男もあったもんじゃない。見境がない!SMとかいう素晴らしい拷問行為やら、とにかく人を痛ぶり地獄の底へ落とす、落とされる様は地獄絵図そのもの!!!
こんな素晴らしい行為をワーストと数えるなんて、このランキングを作った方の気がしれません。絶対、間違っていると思うのです!」
と、熱弁するロベに
「…………あ、赤ん坊???子供…見境がない???……マジかよ……。
なんて、悍ましい残酷な星なんだ。こんなところにマスターを置いとけねー!」
ヴォイドは、元々真っ白な肌が嘘のように真っ青に染まり、この星の連中の性行為は何の見境もなくなんて気色悪く残酷極まりないんだと身震いしていた。
「…いやいや!!ロベさんの見学した、…え?混ざった…?…いや、そこはひとまず置いておきます。
ロベさんの見学した“それ”は、この星でも気狂いの頭の狂った大犯罪者達ですよ!
絶対にまともではないし、正常では決してないです!そこだけは、絶対に勘違いしてほしくないです。
SMに関しては、そういう事が好きで…アブノーマルなプレイとして認められてもいますが…。」
と、間違った情報を元に、自分達の住むこの星の印象が悪くなるのは避けたいので、フジは必死になってそこは否定した。
すると
「……そ、そうなのか!?なら、良かったぜ。年齢や性別誰も彼も見境がないって聞いて、この星の人間を見る目が変わっちまうところだったぜ。」
と、ヴォイドはホッと胸を撫で下ろし
「…あ、そうでしたの?では、私が見て体験した“あの場所”は何だったのでしょう?」
う〜ん?と、考えるロベはその光景を思い出しているのだろう。徐々に光悦とした表情に変わっていったロベに、みんな…ゾッと身の毛が逆立っていた。
この短時間でのロベの言動をみていた面々は、絶対にロクでもない、残酷非道な恐ろしい場面を思い浮かべてるに違いないと思ったからだ。
「確かに、この国では“そういう様々な行為”は表だっては見られなかったですね。
何故か、“アレもコレも”周りにバレないように隠れてヤッますもの。堂々とヤればいいのに、この星の人達は変な人ばかりです。」
何かを伏せて話している感じはあるが、かなりの犯罪臭がする。
…コイツ狂ってる。やば過ぎる…
と、みんな、ロベに恐怖を感じた。
「それに、色んな国の“隠れた名所”を見つけるのは困難ですが。そういう、見つけるのが困難な場所でしか体験できない素晴らしい行為なのに!!あんな、素晴らしくも美しいものが、“犯罪”だったなんて!
驚きを隠せません。ですが、犯罪は駄目です。そうとも知らず…。」
なんて言ってるロベは、一応は犯罪は駄目だという認識はあるらしい。
「そう言ってるテメーの星は、頭がおかしい気狂いな性行為をする星トップ3に入ってるがな!
だが、ロベの生まれ育った場所は拷問の星。
その事がロベの星の連中の性癖に強く影響してるんだろうし、それがロベ達にとっては一般的な常識なんだろうからそこは何とも言えねーが。…まあ、それはそれだ。
ロベの星は、収容した罪人達の罪状をしっかり把握し、適切かつ的確に罰する事の出来る宇宙屈指の監獄の優秀者達だ。」
つまりは、ロベの星全体が重罪人の監獄という事。その罪人達を収容し、監視、罪の重さによっては、それに見合った拷問もするようだ。
つまるところ、簡単に言えば宇宙刑務官という事なのだろう。
…しかし、いくつも収監所の星があるという事は…それだけ犯罪も多いという事。
なんだか、複雑な気持ちになる。
「…ああ、なるほど。理解した。宇宙警察、裁判などで重罪人だけを収監する星があると聞いた事がある。
その星の人達は、拷問が趣味でそれを生きがいとしている。だが、正義感は強く曲がった事が大嫌い。
だから重罪人への拷問、死刑執行人に適してるという理由からその役目を与えられ、自分達もそれに誇りを持っているのだと聞いた事がある。」
と、風雷が捕捉してきた。
…しかし、気になる。
似たり寄ったりな行為も多いらしいが、その星によって性行為が違うらしい。
下品であまり気持ち良くないと、自分達の星の性行為がワースト入りしているという事実は認めたくないしショックではあるが
逆に、宇宙一美しくも気持ちのいい性行為とはどういった感じなのだろう?
そもそも、性行為に美しいも何もあったもんじゃないと思うが。
相手が美人で色っぽく誘惑的に誘ってくるという事とは違うのだろうか?それは、こちら側としては、とても魅力的だし美しくも感じるのだが違うのか?
色々と疑問、謎だらけである。
「宇宙一、気持ちいい性行為はどんな感じでするんだ?是非とも、教えてほしいんだけど。
…実は、色んな女性と体を重ねてきて最近じゃ。マンネリになってしまって。
あんまり、気持ち良くなくて色んなプレイを試したりするんだけど、それも最初だけ興奮するけど直ぐに飽きちゃうんだ。」
と、さすがプレイボーイ。蓮は、性に妥協がなくひたすら気持ちいい事を追求したいようだ。
それには、結達はドン引きだったが
確かに、宇宙一美しくも気持ちのいい性行為。気になる。こちらの性行為とどう違うのだろうか?俄然、興味がある。
「……残念ですが、私も含めてあなた方では、その性行為に対応した体や精神ではないのです。
もちろん、それぞれ別の星の人達もできる行為とできない行為というものが存在します。
それは、受け入れらない体の作りであったり能力であったり様々な理由が挙げられますが。
その全ての性行為に対応できるショウ様と桔梗が羨ましくて仕方がないです。」
と、ロベは教えてくれたが
……はて?
おかしいな?
ショウと桔梗は、その宇宙一美しくも気持ちいいとされる性行為をしているという。
自分達と同じこの星で生まれ育っているはずなのに。
そう、結達の頭に大きな疑問が湧く。
そう、羨むように饒舌に話すロベの隣では、真っ赤になって俯きフルフル小刻みに震えているショウの姿があり
「…馬鹿か、お前はっ!?そんなデリケートな話はおっ広げに話すもんじゃねーだろっ!!」
と、焦ったようにロベを叱咤し、今にも泣きそうになっているショウになんて声を掛けたらいいのか
「マスター、気にしなくて大丈夫だ!……大丈夫だからな!!」
何が、大丈夫なのか…言葉足らずの不器用な言葉で懸命にショウを慰めようとしていた。
だが、焦りのあまりいい言葉の一つも浮かばず馬鹿みたいに大丈夫と繰り返すばかりだった。
…役に立たない男である。
だが、気持ちだけはショウに伝わったらしく
「……うん。ありがと、ヴォイド。」
と、笑みを浮かべて見せたものの、あまりの羞恥に遂にはポロリと一粒の涙を流してしまった。
それを見て
「………ッッッ!!?ショウ様!?どうかなさいましたか!?誰っ!?ショウ様を泣かせた不届き者は!許せないです!」
なんて、ロベは炎のような髪を逆立てて怒っていた。
そんなロベに、みんな思う事は一つ。
“お前のせいだよっ!!!”
で、ある。
「何が“許せないです”だっ!!?テメーのプライバシーも配慮もない言葉のせいで、マスターがショックで泣いてんだよ!!」
と、自分の胸にショウを抱き寄せながらヴォイドがロベに指摘すると
「何でもかんでも、私のせいにして罪をなすり付けるのはよくないと思います!私が何をしたって言うのです?」
なんて、心外だとばかりにプンプン怒ってるロベは、本当に何も心当たりがないのだろう。
「…ハア…。お前のその無自覚さもヤベーんだよ。そもそも、なんでお前が“あのクソヤロー”に呼ばれたんだ?
無自覚でショウの事を傷つけるお前を、アイツが召喚するなんて思えねーんだが?」
と、疑わし気にロベを見るヴォイドに
「…先程から、私に対して散々な事を言ってきますね。本当に粗暴な男です、ヴォイドは。
ただ、灼 紅蓮(しゃく こうれん)がたまたま“不調”の為、代わりに私が来たまでの事です。」
なんて、ニッコリ笑うロベ。
これは、灼 紅蓮に何かしたなと思わざる得ない面々だ。
「……どうやって、今回の事を嗅ぎつけここに来れたかは分からねーが。紅蓮は、殺してはないんだな?」
そう、物騒な事を聞くヴォイド。
「犯罪者でもない。ましてや、実刑も言い渡されていない人に拷問や死刑なんてする筈はないです。ただ、少しの間、眠っていただいただけなのに、私を犯罪者のように言うなんて酷いです。」
二人の会話を聞いていて、ロベに対してますます恐ろしく感じる面々。…この人、狂人だと思った。こんな人が一般人として自由に動き回ってる事実が恐ろしい。
「……なに、しやがったか分からねーが紅蓮は無事なんだな?」
「無事も何も!勝手に私を犯罪者みたいに言うのはやめて下さい。紅蓮は無事ですし、今回のショウ様の護衛が終わるまでの間だけ“安眠できる場所で寝てもらってるだけ”です。」
「…クソが!力で捩じ伏せて封印してきたって事だな。紅蓮もタダじゃ眠らなかったんだな。衣服に隠れてるテメーの体が“穴だらけ”だもんなぁ。
しかも、紅蓮本人…桔梗にしかその穴は治せねー。相当なまでに痛みがある筈だが、その痛みさえ快楽にできちまうテメーのが恐ろしいぜ。」
とんでもない会話を始めるロベとヴォイド。
…え?
本当は、ロベはここに来る筈じゃなかったって事?
しかも、本来来る予定の人を力で捩じ伏せて封印してまで、ここに来たって!?
……ん?それも、そうと…灼 紅蓮がロベの身体中に穴を開けた???
穴は相当な痛みがある???
ここに来る間に、ロベと灼 紅蓮の壮絶な戦いがあった事が仄めかされ、面々はロベという人物を知れば知るほど恐怖の対象となっていった。
だから、一刻も早くロベにこの場から去ってほしいと願った。だって、自分達だって何をされるか分かったもんじゃない。怖すぎる。
と、その時だった。
ガッシャーーーーーーンッッッ!!!
の音と共に、ロベは人型の中身は急遽を退け、大きな棘のような大きな刃物が無数にありそれらがロベを突き刺し鉄の人型の器具に閉じ込められる。
その時のロベの悲鳴は、耳を塞ぎたくなるものでみんな全身を凍りつかせていた。
そのロベの閉じ込められた鉄でできているであろうか?人型の拷問器具の横に、一人の中年女性がいて
「この度は、我が子供が皆さまにご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません。これから、しっかりと教育し直す所存でございますので、ロベの愚行をお許し下さい。」
と、ショウに頭を下げる中年女性に
「…いっ、今、ロベの悲鳴が聞こえたんだけど!!?…だっ、だだ大丈夫なの?許してあげて!」
一体何が起きたのかと驚くも、ロベにとって良くない事が起こってる事だけは何事も少々疎いショウにでも分かる。
だから、ショウは青ざめながらロベを心配し焦った様子で、ロベの親だという中年女性にお願いをしていた。
「ロベは大丈夫です。ロベの心配をして下さり有り難く存じます。」
ロベの親は、そう言って再度ショウに頭を下げた。
「……で、でもっ!!凄く可哀想な悲鳴が聞こえたよ?」
「もう、悲鳴は聞こえてないでしょう?大丈夫です。そして、ロベが自分の欲に負け狡い手段を使い力ずくで封印した灼 紅蓮さんも解放して病院に搬送させていただきました。
灼 紅蓮さんの容態は命に別状はなく、少々怪我は酷いようですが自身の回復能力と一流の病院で処置してもらいましたので既にほぼ完治。念の為に、今日は検査入院。明日の朝には退院できるとの事です。」
あくまでもロベは大丈夫だと言い張り、ショウが知り得たい情報を先回りして話しショウが何も言えなくなったのを見計らい
中年女性はショウに頭を下げ、それから全員に向かい頭を下げた後
ロベの閉じ込められた拷問器具と共に何処かへと消えてしまった。
これから、ロベがどうなるか考えただけで身震いがする。想像するだけで恐ろし過ぎて考えたくもないと思うのはショウだけではないだろう。
その直ぐ後に、何処からともなくごく自然にショウの隣に現れ、何事もなかったかの様にショウの隣に座った桔梗の姿があった。
そして、ヴォイドの姿を見つけると
「……あれ?俺は、今戻るって話した筈なのに何故帰ってないの?」
笑みを浮かべたまま、桔梗はヴォイドに訊ねた。
「…ハア。いつも思ってたんだが、いつから俺はお前の部下になったんだよ?事あるごとに、俺らを都合よく使いやがって!…マスターの為だから致し方なく来てるだけだ。俺達だって、なるだけ長くマスターの側にいてーんだ。俺が、ここにいるからってお前にどやかく言われる筋合いはねーよ。」
今すぐ帰れと遠回しにいう桔梗に、ヴォイドはムカついて反発した。
「いやいや、今回は緊急事態だったし。何より、君達はこの星外の人間だ。許可無くして、入星は許さないよ?
何より、君達は未成年なんだから尚更だよ。
今回は、俺がここに戻ってくると入れ替えで君達は自分の星に帰るという約束だった筈だよね?」
と、桔梗にニッコリ笑顔で法律の話をされ、何も言えなくなりグッと言葉を飲み込むヴォイドだが少し考えた後
「…桔梗。俺は、テメーがいけ好かなくて大嫌いだ。だが、マスターを大切に思う気持ちとテメーの実力だけは認めてるつもりだ。
……マスターが、テメーの行動に勘付いてる。ちゃんと話し合わねーと取り返しのつかねー大変な事になるって“予知”が出てる。ヤベーぞ?」
そう言ったヴォイドの言葉に、目を大きく見開き驚く様子を見せた桔梗。
「……ショウが勘付いてる?取り返しのつかない大変な事って何なの?」
少し、顔色の悪くなった桔梗はヴォイドに質問したのだが
「…詳しくまでは“見えねー”。ただ、分かる事は今すぐにでも、ショウとしっかり話し合う事だ。もちろん、嘘偽りなくだ。」
ヴォイドに“分かる事”は、ここまでのようだ。桔梗にそんな言葉を残してからヴォイドは、ショウを向いて
「…あ〜。本当は、もっとマスターの側に居たかったが、そうもいかねー。俺が帰る前にマスターに、一つだけ助言だ。」
と、ショウの前に膝をつき、ショウの手を取ったヴォイドはジッとショウの顔を見ると
「桔梗に対してマスターが思ってる不満があったら、遠慮なく言った方がいい。そうしないとマスターの心が壊れて大変な事になる。」
「……え?」
ヴォイドの言葉に困惑しているショウ。ヴォイドが、ショウに何を伝えたいのかが分からない。だけど、ショウの為にとても必死になってる事だけは伝わってきた。
だから、ヴォイドの必死さに圧倒されコクリとうなづくショウだが、やっぱりヴォイドが何を自分に伝えたいのかイマイチよく分かっていなかった。
そんなショウに
「そして、桔梗の事を信じてあげてくれ。桔梗はマスターにだけは嘘はつかねー。桔梗はいつだって、マスターの事が一番なんだ。とにかく、マスターは心を強くしっかり持ってくれ。俺には、それくらいしか言えねー。」
と、言ってヴォイドは、ショウをギュッと抱き締めると
「大丈夫だ!マスター、大丈夫だからな!マスターには、俺達もついてるって事を忘れるな?
マスターには、いつだって俺達がついてる。絶対的な味方だって事を忘れるなよ?
…お!そろそろ、時間いっぱいみてーだな。名残惜しいが、じゃーな!また、会えるの楽しみにしてんぜ?」
そう、言葉を残しニッと笑い
「…わ、私もヴォイドに会えるの楽しみにしてるよ!ありがとー!」
ヴォイドの謎だらけの言葉に呆気に取られるも、今すぐにもヴォイドが星に帰ってしまいそうなので、ショウは慌ててヴォイドにしばしのお別れの挨拶した所でヴォイドは消えた。
ヴォイドの姿を消してから、直ぐに桔梗は驚いた表情のままショウの顔を見てきた。
「……え?…ショウ、もしかして今、俺が行って来た場所知ってるの?」
少し探りを入れるように、どんな言い訳もできる様な狡い言い方で桔梗は恐る恐るショウに聞いてみた。
すると
「もう一つの、私がいる別の世界に行ってたんでしょ?」
もう、我慢の限界ですと言わんばかりにショウはムスーッと怒りながら答えてきた。
ショウの言葉にすかさず陽毬は
「もう一つの世界とは、まるで漫画やアニメに出てくる“パラレルワールド”ですな!」
と、興奮気味に食い付いてきた。
そんな陽毬を見て、蓮は
パラレルワールド?
何となく聞いた事あるけど、ドラマや映画とか制作するにあたって都合よく作られた想像上のものだろ?
現実にあるとか、思ってんの?
このデブスメガネ。…オタクだし、本当気持ち悪すぎるんだけど。
と、ドン引きしていた。
だが
「大学院の宇宙学、理論物理学科で学んだ事があったな。“パラレルワールド”。
元々の軸となる世界がある。そこから分岐し、更に分岐した世界からまた幾つも分岐して枝分かれしている。
同じ人物でも、一つ行動が違っただけで別の人生に変わる。それは、全てにおいて言える事。
つまり、本来の道と違った行動を起こせば違った運命になる。だが、それは一つではない。数えきれないくらいの分岐点が存在するという事。その分だけ、並行して存在する別の世界や別の並行した宇宙・時空が存在するという理論だな。」
と、それは実際にあっても、おかしくないという風雷の言葉でフジと蓮は納得してしまったし。結とショウ、陽毬は、風雷の説明が難しくて頭の中に宇宙が広がりポカーンとしていた。
おそらくパニックになっているだろう桔梗は、周りに人が居るにも関わらず我を忘れ“あまり知られてはいけない事”をどんどん言いそうな気配を風雷は感じていたが。
ここに居る面々を見て
ショウは置いといて、結と陽毬は話の内容についていけず理解できないだろう。
しかし、いずれであろうが順調に物事が進むのであれば、この話は結やフジは避けて通れない話であり知らなければならない大事な話の一部である。
あくまで、結が王直属或いはショウ直属の部下になる、フジがウダツの伴侶となるという未来を見通しての話であるが。
…蓮の場合は、この世界や国の中の常識だけで育ってきているので、ショウや桔梗の話を聞いても
“なに、言ってんだ?コイツら、頭イカれてるの?
どこのファンタジーの話だよ。そんなのあるわけないじゃん。バッカみたい。”
と、蓮にとってあまりに現実離れし過ぎた話だろうから、それくらいにしか思わないだろうし
妄想か何か…或いは演劇かドラマ、小説の話の内容を話してムキになっているのだろうと、くだらないとばかりに呆れてるだけだろう。
だから、ある意味安心だがいつ何処で誰が聞いてるか分からないので、このメンバー以外ショウ達の話が漏れないようにバリアーを張っておく必要があるだろうと
ヤレヤレと思いつつも、桔梗のフォローでバリアーを張ってあげる案外面倒見のいい風雷であった。
と、少し寂しそうに憂いを帯びたように笑みを浮かべるロベは、見た目は女性であるが性別は男女両方持ち合わせているというロベ。
だからなのか、独特の色気があり蓮だけでなく、思わず結やフジ、陽毬達女性陣までドキリとしてしまった。
そこにヴォイドが、ロベの話に加わり
「……悔しいが、…姑息な真似をして手に入れたとはいえ、桔梗はマスターと恋人になれた。羨ましくないわけがねー。
俺はマスターが手に入らねーくらいなら、マスターの許しさえありゃ2番目でもかまわねーけどな。」
と、言ったのを聞いて、風雷はじめ結達みんなビックリしてしまった。
つまり、ショウの愛人になってもかなわないって言っているのだ。側室みたいな感じで言っているのだろうが…え?…いいの?それで?
いやいや!無理でしょ!!
なんて、それを自分に置き換えて考えた時、結達は頭の中で想像してどうしても拒否反応が出てしまった。
やっぱり、結婚、恋人ってなったら互いに一途に愛し愛されたいと思う。
それが、二人の愛の中に別の愛を入れるなんて…とんでもない話だ。異物混入としか思えないし、無理無理!絶対、無理と思い思わず気持ち悪いブルブルッと寒気が走った。
だが、蓮はそこのところは幼い頃から祖父母、両親達の多くの愛人達がいる事が当たり前の家で育った為に、結達の反応を見て、愛人がたくさんいて何が悪いのか理解に苦しんでいる最中である。
ハナ一筋の風雷、絶対的ウダツ愛のフジなんて、理解不能のあまり考える事を放棄している。
「そんな話ではなくて。その星によって、性行為がそれぞれ違いますよね?
もちろん、他の星といっても似たり寄ったりが多かったりもしますが、多種多様。その種族しかできない性行為も多く存在しますし!」
なんて、興奮したように話すロベの話に、絶賛思春期真っ只中の結達は、恥ずかしくなって俯いたり妙に挙動不審になったり動揺を隠せない。
…え?その星によって性行為って違うの?と、興味を示す蓮。興味はあっても、自分を崩したくない風雷は平然を装っていたりとみんな反応は様々である。
だが、一つ言える事は
みんな、ロベの話にめちゃくちゃ興味津々だという事である。
思春期を舐めんなって話だ。
「普段、桔梗は宇宙一気持ちが良く美しい行為とされる性行為。それをショウ様と実践なさっているらしい話ですが。
けれども、桔梗は全身くまなく愛せるこの星の性行為が大好物らしいですね。たまに、“何かのご褒美”に、この星の性行為を楽しんでいるのだとか。」
なんて、そういう話なんかじゃないとロベはヴォイドの話をぶった斬って、自分の話したいエロ話をぶっ込んできた。
「宇宙でも、お下劣で悍ましいみるに耐えないと噂のこの星の性行為。
宇宙ワースト10に数えられる程。
私はそれを見学した事もヤッてみた事もありあすが、……最高でした。」
なんて、うっとりと話すロベの内容に、みんな
………え???
知能を持った生物のいる星が、この宇宙にどれだけあるか分からないが数え切れないほど存在しているだろうと考える。
だが、その数えきれない星の生物達の性行為。その中でも、自分達の知っている性行為は…まさかのワースト10に数えられるほどお下劣で悍ましいとされてるの!?
それを知って、かなりの衝撃だしショックである。他の星の人達の性行為について知らないが、決してお下劣でも悍ましくもないよ!失礼過ぎない!?と、思う面々であった。
なんか、この星に住む自分達がバカにされたような気持ちになり、かなり不快である。
「だって、赤子も子供も女も男もあったもんじゃない。見境がない!SMとかいう素晴らしい拷問行為やら、とにかく人を痛ぶり地獄の底へ落とす、落とされる様は地獄絵図そのもの!!!
こんな素晴らしい行為をワーストと数えるなんて、このランキングを作った方の気がしれません。絶対、間違っていると思うのです!」
と、熱弁するロベに
「…………あ、赤ん坊???子供…見境がない???……マジかよ……。
なんて、悍ましい残酷な星なんだ。こんなところにマスターを置いとけねー!」
ヴォイドは、元々真っ白な肌が嘘のように真っ青に染まり、この星の連中の性行為は何の見境もなくなんて気色悪く残酷極まりないんだと身震いしていた。
「…いやいや!!ロベさんの見学した、…え?混ざった…?…いや、そこはひとまず置いておきます。
ロベさんの見学した“それ”は、この星でも気狂いの頭の狂った大犯罪者達ですよ!
絶対にまともではないし、正常では決してないです!そこだけは、絶対に勘違いしてほしくないです。
SMに関しては、そういう事が好きで…アブノーマルなプレイとして認められてもいますが…。」
と、間違った情報を元に、自分達の住むこの星の印象が悪くなるのは避けたいので、フジは必死になってそこは否定した。
すると
「……そ、そうなのか!?なら、良かったぜ。年齢や性別誰も彼も見境がないって聞いて、この星の人間を見る目が変わっちまうところだったぜ。」
と、ヴォイドはホッと胸を撫で下ろし
「…あ、そうでしたの?では、私が見て体験した“あの場所”は何だったのでしょう?」
う〜ん?と、考えるロベはその光景を思い出しているのだろう。徐々に光悦とした表情に変わっていったロベに、みんな…ゾッと身の毛が逆立っていた。
この短時間でのロベの言動をみていた面々は、絶対にロクでもない、残酷非道な恐ろしい場面を思い浮かべてるに違いないと思ったからだ。
「確かに、この国では“そういう様々な行為”は表だっては見られなかったですね。
何故か、“アレもコレも”周りにバレないように隠れてヤッますもの。堂々とヤればいいのに、この星の人達は変な人ばかりです。」
何かを伏せて話している感じはあるが、かなりの犯罪臭がする。
…コイツ狂ってる。やば過ぎる…
と、みんな、ロベに恐怖を感じた。
「それに、色んな国の“隠れた名所”を見つけるのは困難ですが。そういう、見つけるのが困難な場所でしか体験できない素晴らしい行為なのに!!あんな、素晴らしくも美しいものが、“犯罪”だったなんて!
驚きを隠せません。ですが、犯罪は駄目です。そうとも知らず…。」
なんて言ってるロベは、一応は犯罪は駄目だという認識はあるらしい。
「そう言ってるテメーの星は、頭がおかしい気狂いな性行為をする星トップ3に入ってるがな!
だが、ロベの生まれ育った場所は拷問の星。
その事がロベの星の連中の性癖に強く影響してるんだろうし、それがロベ達にとっては一般的な常識なんだろうからそこは何とも言えねーが。…まあ、それはそれだ。
ロベの星は、収容した罪人達の罪状をしっかり把握し、適切かつ的確に罰する事の出来る宇宙屈指の監獄の優秀者達だ。」
つまりは、ロベの星全体が重罪人の監獄という事。その罪人達を収容し、監視、罪の重さによっては、それに見合った拷問もするようだ。
つまるところ、簡単に言えば宇宙刑務官という事なのだろう。
…しかし、いくつも収監所の星があるという事は…それだけ犯罪も多いという事。
なんだか、複雑な気持ちになる。
「…ああ、なるほど。理解した。宇宙警察、裁判などで重罪人だけを収監する星があると聞いた事がある。
その星の人達は、拷問が趣味でそれを生きがいとしている。だが、正義感は強く曲がった事が大嫌い。
だから重罪人への拷問、死刑執行人に適してるという理由からその役目を与えられ、自分達もそれに誇りを持っているのだと聞いた事がある。」
と、風雷が捕捉してきた。
…しかし、気になる。
似たり寄ったりな行為も多いらしいが、その星によって性行為が違うらしい。
下品であまり気持ち良くないと、自分達の星の性行為がワースト入りしているという事実は認めたくないしショックではあるが
逆に、宇宙一美しくも気持ちのいい性行為とはどういった感じなのだろう?
そもそも、性行為に美しいも何もあったもんじゃないと思うが。
相手が美人で色っぽく誘惑的に誘ってくるという事とは違うのだろうか?それは、こちら側としては、とても魅力的だし美しくも感じるのだが違うのか?
色々と疑問、謎だらけである。
「宇宙一、気持ちいい性行為はどんな感じでするんだ?是非とも、教えてほしいんだけど。
…実は、色んな女性と体を重ねてきて最近じゃ。マンネリになってしまって。
あんまり、気持ち良くなくて色んなプレイを試したりするんだけど、それも最初だけ興奮するけど直ぐに飽きちゃうんだ。」
と、さすがプレイボーイ。蓮は、性に妥協がなくひたすら気持ちいい事を追求したいようだ。
それには、結達はドン引きだったが
確かに、宇宙一美しくも気持ちのいい性行為。気になる。こちらの性行為とどう違うのだろうか?俄然、興味がある。
「……残念ですが、私も含めてあなた方では、その性行為に対応した体や精神ではないのです。
もちろん、それぞれ別の星の人達もできる行為とできない行為というものが存在します。
それは、受け入れらない体の作りであったり能力であったり様々な理由が挙げられますが。
その全ての性行為に対応できるショウ様と桔梗が羨ましくて仕方がないです。」
と、ロベは教えてくれたが
……はて?
おかしいな?
ショウと桔梗は、その宇宙一美しくも気持ちいいとされる性行為をしているという。
自分達と同じこの星で生まれ育っているはずなのに。
そう、結達の頭に大きな疑問が湧く。
そう、羨むように饒舌に話すロベの隣では、真っ赤になって俯きフルフル小刻みに震えているショウの姿があり
「…馬鹿か、お前はっ!?そんなデリケートな話はおっ広げに話すもんじゃねーだろっ!!」
と、焦ったようにロベを叱咤し、今にも泣きそうになっているショウになんて声を掛けたらいいのか
「マスター、気にしなくて大丈夫だ!……大丈夫だからな!!」
何が、大丈夫なのか…言葉足らずの不器用な言葉で懸命にショウを慰めようとしていた。
だが、焦りのあまりいい言葉の一つも浮かばず馬鹿みたいに大丈夫と繰り返すばかりだった。
…役に立たない男である。
だが、気持ちだけはショウに伝わったらしく
「……うん。ありがと、ヴォイド。」
と、笑みを浮かべて見せたものの、あまりの羞恥に遂にはポロリと一粒の涙を流してしまった。
それを見て
「………ッッッ!!?ショウ様!?どうかなさいましたか!?誰っ!?ショウ様を泣かせた不届き者は!許せないです!」
なんて、ロベは炎のような髪を逆立てて怒っていた。
そんなロベに、みんな思う事は一つ。
“お前のせいだよっ!!!”
で、ある。
「何が“許せないです”だっ!!?テメーのプライバシーも配慮もない言葉のせいで、マスターがショックで泣いてんだよ!!」
と、自分の胸にショウを抱き寄せながらヴォイドがロベに指摘すると
「何でもかんでも、私のせいにして罪をなすり付けるのはよくないと思います!私が何をしたって言うのです?」
なんて、心外だとばかりにプンプン怒ってるロベは、本当に何も心当たりがないのだろう。
「…ハア…。お前のその無自覚さもヤベーんだよ。そもそも、なんでお前が“あのクソヤロー”に呼ばれたんだ?
無自覚でショウの事を傷つけるお前を、アイツが召喚するなんて思えねーんだが?」
と、疑わし気にロベを見るヴォイドに
「…先程から、私に対して散々な事を言ってきますね。本当に粗暴な男です、ヴォイドは。
ただ、灼 紅蓮(しゃく こうれん)がたまたま“不調”の為、代わりに私が来たまでの事です。」
なんて、ニッコリ笑うロベ。
これは、灼 紅蓮に何かしたなと思わざる得ない面々だ。
「……どうやって、今回の事を嗅ぎつけここに来れたかは分からねーが。紅蓮は、殺してはないんだな?」
そう、物騒な事を聞くヴォイド。
「犯罪者でもない。ましてや、実刑も言い渡されていない人に拷問や死刑なんてする筈はないです。ただ、少しの間、眠っていただいただけなのに、私を犯罪者のように言うなんて酷いです。」
二人の会話を聞いていて、ロベに対してますます恐ろしく感じる面々。…この人、狂人だと思った。こんな人が一般人として自由に動き回ってる事実が恐ろしい。
「……なに、しやがったか分からねーが紅蓮は無事なんだな?」
「無事も何も!勝手に私を犯罪者みたいに言うのはやめて下さい。紅蓮は無事ですし、今回のショウ様の護衛が終わるまでの間だけ“安眠できる場所で寝てもらってるだけ”です。」
「…クソが!力で捩じ伏せて封印してきたって事だな。紅蓮もタダじゃ眠らなかったんだな。衣服に隠れてるテメーの体が“穴だらけ”だもんなぁ。
しかも、紅蓮本人…桔梗にしかその穴は治せねー。相当なまでに痛みがある筈だが、その痛みさえ快楽にできちまうテメーのが恐ろしいぜ。」
とんでもない会話を始めるロベとヴォイド。
…え?
本当は、ロベはここに来る筈じゃなかったって事?
しかも、本来来る予定の人を力で捩じ伏せて封印してまで、ここに来たって!?
……ん?それも、そうと…灼 紅蓮がロベの身体中に穴を開けた???
穴は相当な痛みがある???
ここに来る間に、ロベと灼 紅蓮の壮絶な戦いがあった事が仄めかされ、面々はロベという人物を知れば知るほど恐怖の対象となっていった。
だから、一刻も早くロベにこの場から去ってほしいと願った。だって、自分達だって何をされるか分かったもんじゃない。怖すぎる。
と、その時だった。
ガッシャーーーーーーンッッッ!!!
の音と共に、ロベは人型の中身は急遽を退け、大きな棘のような大きな刃物が無数にありそれらがロベを突き刺し鉄の人型の器具に閉じ込められる。
その時のロベの悲鳴は、耳を塞ぎたくなるものでみんな全身を凍りつかせていた。
そのロベの閉じ込められた鉄でできているであろうか?人型の拷問器具の横に、一人の中年女性がいて
「この度は、我が子供が皆さまにご迷惑をお掛けしたようで、申し訳ありません。これから、しっかりと教育し直す所存でございますので、ロベの愚行をお許し下さい。」
と、ショウに頭を下げる中年女性に
「…いっ、今、ロベの悲鳴が聞こえたんだけど!!?…だっ、だだ大丈夫なの?許してあげて!」
一体何が起きたのかと驚くも、ロベにとって良くない事が起こってる事だけは何事も少々疎いショウにでも分かる。
だから、ショウは青ざめながらロベを心配し焦った様子で、ロベの親だという中年女性にお願いをしていた。
「ロベは大丈夫です。ロベの心配をして下さり有り難く存じます。」
ロベの親は、そう言って再度ショウに頭を下げた。
「……で、でもっ!!凄く可哀想な悲鳴が聞こえたよ?」
「もう、悲鳴は聞こえてないでしょう?大丈夫です。そして、ロベが自分の欲に負け狡い手段を使い力ずくで封印した灼 紅蓮さんも解放して病院に搬送させていただきました。
灼 紅蓮さんの容態は命に別状はなく、少々怪我は酷いようですが自身の回復能力と一流の病院で処置してもらいましたので既にほぼ完治。念の為に、今日は検査入院。明日の朝には退院できるとの事です。」
あくまでもロベは大丈夫だと言い張り、ショウが知り得たい情報を先回りして話しショウが何も言えなくなったのを見計らい
中年女性はショウに頭を下げ、それから全員に向かい頭を下げた後
ロベの閉じ込められた拷問器具と共に何処かへと消えてしまった。
これから、ロベがどうなるか考えただけで身震いがする。想像するだけで恐ろし過ぎて考えたくもないと思うのはショウだけではないだろう。
その直ぐ後に、何処からともなくごく自然にショウの隣に現れ、何事もなかったかの様にショウの隣に座った桔梗の姿があった。
そして、ヴォイドの姿を見つけると
「……あれ?俺は、今戻るって話した筈なのに何故帰ってないの?」
笑みを浮かべたまま、桔梗はヴォイドに訊ねた。
「…ハア。いつも思ってたんだが、いつから俺はお前の部下になったんだよ?事あるごとに、俺らを都合よく使いやがって!…マスターの為だから致し方なく来てるだけだ。俺達だって、なるだけ長くマスターの側にいてーんだ。俺が、ここにいるからってお前にどやかく言われる筋合いはねーよ。」
今すぐ帰れと遠回しにいう桔梗に、ヴォイドはムカついて反発した。
「いやいや、今回は緊急事態だったし。何より、君達はこの星外の人間だ。許可無くして、入星は許さないよ?
何より、君達は未成年なんだから尚更だよ。
今回は、俺がここに戻ってくると入れ替えで君達は自分の星に帰るという約束だった筈だよね?」
と、桔梗にニッコリ笑顔で法律の話をされ、何も言えなくなりグッと言葉を飲み込むヴォイドだが少し考えた後
「…桔梗。俺は、テメーがいけ好かなくて大嫌いだ。だが、マスターを大切に思う気持ちとテメーの実力だけは認めてるつもりだ。
……マスターが、テメーの行動に勘付いてる。ちゃんと話し合わねーと取り返しのつかねー大変な事になるって“予知”が出てる。ヤベーぞ?」
そう言ったヴォイドの言葉に、目を大きく見開き驚く様子を見せた桔梗。
「……ショウが勘付いてる?取り返しのつかない大変な事って何なの?」
少し、顔色の悪くなった桔梗はヴォイドに質問したのだが
「…詳しくまでは“見えねー”。ただ、分かる事は今すぐにでも、ショウとしっかり話し合う事だ。もちろん、嘘偽りなくだ。」
ヴォイドに“分かる事”は、ここまでのようだ。桔梗にそんな言葉を残してからヴォイドは、ショウを向いて
「…あ〜。本当は、もっとマスターの側に居たかったが、そうもいかねー。俺が帰る前にマスターに、一つだけ助言だ。」
と、ショウの前に膝をつき、ショウの手を取ったヴォイドはジッとショウの顔を見ると
「桔梗に対してマスターが思ってる不満があったら、遠慮なく言った方がいい。そうしないとマスターの心が壊れて大変な事になる。」
「……え?」
ヴォイドの言葉に困惑しているショウ。ヴォイドが、ショウに何を伝えたいのかが分からない。だけど、ショウの為にとても必死になってる事だけは伝わってきた。
だから、ヴォイドの必死さに圧倒されコクリとうなづくショウだが、やっぱりヴォイドが何を自分に伝えたいのかイマイチよく分かっていなかった。
そんなショウに
「そして、桔梗の事を信じてあげてくれ。桔梗はマスターにだけは嘘はつかねー。桔梗はいつだって、マスターの事が一番なんだ。とにかく、マスターは心を強くしっかり持ってくれ。俺には、それくらいしか言えねー。」
と、言ってヴォイドは、ショウをギュッと抱き締めると
「大丈夫だ!マスター、大丈夫だからな!マスターには、俺達もついてるって事を忘れるな?
マスターには、いつだって俺達がついてる。絶対的な味方だって事を忘れるなよ?
…お!そろそろ、時間いっぱいみてーだな。名残惜しいが、じゃーな!また、会えるの楽しみにしてんぜ?」
そう、言葉を残しニッと笑い
「…わ、私もヴォイドに会えるの楽しみにしてるよ!ありがとー!」
ヴォイドの謎だらけの言葉に呆気に取られるも、今すぐにもヴォイドが星に帰ってしまいそうなので、ショウは慌ててヴォイドにしばしのお別れの挨拶した所でヴォイドは消えた。
ヴォイドの姿を消してから、直ぐに桔梗は驚いた表情のままショウの顔を見てきた。
「……え?…ショウ、もしかして今、俺が行って来た場所知ってるの?」
少し探りを入れるように、どんな言い訳もできる様な狡い言い方で桔梗は恐る恐るショウに聞いてみた。
すると
「もう一つの、私がいる別の世界に行ってたんでしょ?」
もう、我慢の限界ですと言わんばかりにショウはムスーッと怒りながら答えてきた。
ショウの言葉にすかさず陽毬は
「もう一つの世界とは、まるで漫画やアニメに出てくる“パラレルワールド”ですな!」
と、興奮気味に食い付いてきた。
そんな陽毬を見て、蓮は
パラレルワールド?
何となく聞いた事あるけど、ドラマや映画とか制作するにあたって都合よく作られた想像上のものだろ?
現実にあるとか、思ってんの?
このデブスメガネ。…オタクだし、本当気持ち悪すぎるんだけど。
と、ドン引きしていた。
だが
「大学院の宇宙学、理論物理学科で学んだ事があったな。“パラレルワールド”。
元々の軸となる世界がある。そこから分岐し、更に分岐した世界からまた幾つも分岐して枝分かれしている。
同じ人物でも、一つ行動が違っただけで別の人生に変わる。それは、全てにおいて言える事。
つまり、本来の道と違った行動を起こせば違った運命になる。だが、それは一つではない。数えきれないくらいの分岐点が存在するという事。その分だけ、並行して存在する別の世界や別の並行した宇宙・時空が存在するという理論だな。」
と、それは実際にあっても、おかしくないという風雷の言葉でフジと蓮は納得してしまったし。結とショウ、陽毬は、風雷の説明が難しくて頭の中に宇宙が広がりポカーンとしていた。
おそらくパニックになっているだろう桔梗は、周りに人が居るにも関わらず我を忘れ“あまり知られてはいけない事”をどんどん言いそうな気配を風雷は感じていたが。
ここに居る面々を見て
ショウは置いといて、結と陽毬は話の内容についていけず理解できないだろう。
しかし、いずれであろうが順調に物事が進むのであれば、この話は結やフジは避けて通れない話であり知らなければならない大事な話の一部である。
あくまで、結が王直属或いはショウ直属の部下になる、フジがウダツの伴侶となるという未来を見通しての話であるが。
…蓮の場合は、この世界や国の中の常識だけで育ってきているので、ショウや桔梗の話を聞いても
“なに、言ってんだ?コイツら、頭イカれてるの?
どこのファンタジーの話だよ。そんなのあるわけないじゃん。バッカみたい。”
と、蓮にとってあまりに現実離れし過ぎた話だろうから、それくらいにしか思わないだろうし
妄想か何か…或いは演劇かドラマ、小説の話の内容を話してムキになっているのだろうと、くだらないとばかりに呆れてるだけだろう。
だから、ある意味安心だがいつ何処で誰が聞いてるか分からないので、このメンバー以外ショウ達の話が漏れないようにバリアーを張っておく必要があるだろうと
ヤレヤレと思いつつも、桔梗のフォローでバリアーを張ってあげる案外面倒見のいい風雷であった。