美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
何故か、かなり怒りを露わにしているショウとそれに対して焦りを見せている桔梗に、みんな何事が起きているのかと静かに二人の様子を見守っていた。
二人の事だから、大したことないケンカだろうし直ぐに仲直りするだろうからほっといて大丈夫という気持ちから、そんなに気にする者達はいなかった。
…風雷以外は…
風雷は、事の重大さに内心ハラハラしていて気が気ではなかった。これは、直接王に報告する案件だろうか?
いや、それならショウ直属の隠密であるオブシディアンが既に動いているだろう。
自分が今できる事は、何事も起こらない事を祈り二人を見守る事だけだ。もし、何かあれば直ぐに何かかしらの対処をして動かなければならないので絶対に油断してはいけないと緊張感を持って二人の様子を伺っていた。
もちろん、直属の上司であるハナには報告済みだ。
緊張感の走る風雷と、早く仲直りしてくんないかな〜と呑気な結達が見守る中、一方的に怒ってるショウと不安気な様子の桔梗との話し合いが始まっている。
「…え?何処から何処まで知ってるの?」
ショウの発言に混乱する桔梗は、ショウにどのくらいまで自分の行動が知られてしまっているのか生きた心地がしない程の不安を抱えたまま聞いた。
…どうか、いつものように的外れなバかわいい事を言って俺を安心させてくれ!という祈りを込めて。
しかし、桔梗の願いとは裏腹に
「もう一人の私の所に行ってるんでしょ?」
と、言ったショウの言葉に桔梗はドデカイ雷が落ちた衝撃を受けた。
…ドックン、ドックン…ッッッ!!?
「…え…?」
ショウの言葉が信じられず、まの抜けた声が溢れ思わずショウを凝視する桔梗。
「桔梗は、“もう一人の私”が一番大切で大事だから、その子がピンチになったり困り事がある度に“そっちの世界に行ってる”んでしょ?そこで、問題が解決したらこっちに戻ってくる。
それを二回くらい繰り返してるよね?」
ドキッーーーーッッッ!!!?
桔梗の心臓は胸から飛び出たんじゃないかというほど、ショウの言ってる事は的を得ていて驚きを隠せない桔梗。思いっきり目が泳いでいて顔色も悪い。
「…え?」
困惑しきって、まともに頭が働いてないのだろう。桔梗は、信じられないとばかりに「え?」としか言っていない。
「……私ね。どうしてかな?【見たいな、知りたいな】って、強く思うと【それ】が見えちゃうみたい。」
そんな事をショウが言った時、桔梗はハッとした顔をし何かを思い出したのか
「…嘘だろ…?“こっちのショウ”にも、そんな能力があるなんて…。向こうより、ずっと力が劣る筈だし能力だって備わってないとばかり…」
桔梗は青ざめた顔で、何やらぶつぶつと独り言を言い始めた。そこへ
「強く思っても【見えない】事の方が多いんだけど。
何がキッカケか分からないけど【実際にその場所に居て見聞きしてる感覚】になる事もあるの。
だけど、周りの人達には私は見えてなくて…まるで、透明人間になった気分になるの。
最初は、夢かな?って、思ってたんだけど何回かそんな状態を繰り返して、周りの人達の話とか聞いてるうちに夢なんかじゃないって事に気がついたんだ。」
ショウの【見える】は、いくらショウ本人が強く望んでも興味本位や好奇心では見られるものではなく、ショウが窮地に陥った時や限られた条件でのみ【見える】ものなのらしい。
なんて、ショウはとんでもない事を打ち明けてきた。それには、桔梗だけでなくそこにいた誰もが驚きを隠せなかったし信じられない話だと思った。
だけど、ショウをよく知る風雷と陽毬はショウが嘘をついてるとは思えなかったし、風雷はなるほどとも納得さえしていた。
「…桔梗は、“偽物の私”なんかより“本物の私”の方が凄く大切だし好きなんだよね?私は、本物の代わりなんだよね?桔梗にとって、本物さえ良ければ偽物の私はいつ、捨ててもいいような存在なんでしょ?
そして、本物が望むなら私を捨てて、性別を無くしてまでもずっとずっと本物の側にいようって思ってるんでしょ?」
桔梗に向かい息継ぎなく口早に自分の言いたい事を叫んだショウは、我慢してたのに堪らず涙をポロリと流し一度出た涙はどんなに踏ん張っても次から次へと流れ落ちてきた。
「……?ショウは、誰かの“レプリカ”って事なの?」
思わず、口に出てしまったフジの言葉に
「まさか、そんなバカな話あるわけないでしょ。
クローン人間や動物、キメラを作る事は禁止されてる筈だよね?大昔に、そんな研究がなされて人権も何もない酷いカオス状態、大惨事だったらしい話があるよね?」
蓮が、すぐさまあり得ないとその話を否定してきた。
「…そうかもしれないけど、隠れて違法に研究を続けてる人達がいる可能性だってあるわ。
だって、幼稚園の頃からショウちゃんと桔梗君を見てきたけど…一度もショウちゃん達のご両親を見た事がないわ。私は、いつもそれが不思議だったの。」
フジが、当時を思い出しながらショウの家は何かを隠してるような違和感を感じていたという話をした。
「それは、ワタシも感じてましたぞ!」
と、陽毬も参戦した所で、さらに外野もうるさくなってきた中
「…そっ、それは少し違う!話を聞いてくれるかな?」
桔梗は焦ったように、ショウの体を抱き締め話そうとした時だった。
…パシン!
「ーーーッヤダ!!」
桔梗の伸ばした手を叩いて拒絶するショウの姿があった。
非力で運動音痴なショウだが、ショウが拒絶する手を避けられないのが桔梗である。
叩かれるにしろ、ショウを説得するにしろ、普段の桔梗ならば、どうにか丸くおさめる筈だ。そもそも、規格外未知数な力や能力を持っている桔梗が誰かに叩かれるなんてないだろう。
だが、桔梗は容易くショウに叩かれ、ショウの言動を最優先にしてしまっているのだ。これに対し、みんなどうしてしまったのかと驚きを隠せずいる。
ショウに拒絶され、この世の終わりとばかりにショックを隠し切れない桔梗は痛々しげに叩かれた手を自分の胸に引っ込めると絶望的な顔をしてショウの顔を見ていた。
思わず、桔梗の手を叩いてしまったショウは
「…あ…」
こんな事をするつもりじゃなかったのに、まさかの自分の行動にショックを受けて固まっている。
なんだか収集のつかなそうなこの状況に
「二人とも、しっかりしろ!」
と、風雷はショウと桔梗に一喝した。その声に、ショウはビクッと反応して思わず風雷の顔を見た。それに、釣られるように人形のように桔梗もぎこちなく風雷を見る。
「ショウ、千里眼を持つヴォイドの言葉を思い出してみろ。ヴォイドは、あなたに忠告していた筈だ。
“桔梗の話をしっかりと聞け”、“桔梗を信じろ”と。
だが、あなたは一方的に自分の気持ちばかり押し付けて桔梗の話を聞こうともせず拒絶した。」
そう諭され、ショウは
「………!!?」
ヴォイドの言っていた言葉を思い出したのであろう。目を大きく見開いて風雷を見た。
「…で、でも、私っ!桔梗が、もう一人の私に会いに行った時の事とか見えちゃって!!色々、見たり聞いたりして知ってるのに、これ以上何を聞けばいいの?もう一人の私を最優先にする桔梗の何を信じればいいの?
私が、おかしいの?…私、何か変な事言ってる?」
と、ヴォイドの言葉を疑う訳ではないが、ショウが見聞きした事実がある為、それ以上に何があるとも思えず風雷に向かって感情的になって叫んでいた。
そんなショウに、風雷は一切取り乱す事なく
「その疑問を桔梗に投げ掛ければいい。桔梗は、あなただけには嘘は付かない、絶対に裏切らない。抵抗も何もしない。あなたが望むなら、喜んで何だってしてしまうだろうね。」
そう言って、桔梗を見た。
ショックから立ち直れない桔梗は
「…どうすれば、いい?どうすれば許してくれるの?…俺を…捨てるの?」
と、全身を小刻みに震わせショウに救いを求めてきた。
「…す、捨てるって!そんな事する訳ないよ!桔梗が私の事捨てようとしてるんでしょ?」
桔梗の“捨てる”という言葉に反応して、ショウは自分の気持ちの一部を桔梗にぶつけた。
「……???なに、言ってるの?
俺が、ショウを捨てる?そんなの絶対にあり得ないよ。
どうして、そんな風に思っちゃったの?」
ショウの桔梗がショウを捨てる発言に驚いた桔梗は、驚いた表情のまま震える声でショウに聞いてきた。
「…だって、【見えた】んだもん。」
「…え?」
「桔梗が、“向こうの世界”にある“自分の本体と力”を【もう一人の私を守る為にあげる】って。
ここに居る桔梗は、魂を魔道の力で肉体を具現化してるに過ぎない。【肉体や力、魂の器】は、全部向こうの世界にあるって知ってるよ。
だけど、何があったか分からないけど、それらが世界中色んな場所に隠されてて。それをもう一人の私がバラバラになった桔梗を【完全体】にする為にあちこち探してるんでしょ?」
ショウの話は、本当の事なのか桔梗は何も言えず固まってしまった。
「そして、桔梗の魂と核以外全て揃ったら最後の仕上げで、今ここに居る桔梗(魂・核)を桔梗の本体に取り入れて完全体になるんだよね?
そしたら、私を捨てて、もう一人の私の為に性別を無くしてまでも彼女が望むなら自分の全てを捧げるつもりなんでしょ?」
そこまでショウが話すと、桔梗はハッとした。
「…まさか、そこまで理解してるとは思わなかったけど。だいたいの事は、ショウの言う通りだよ。
…け、けど…!」
その言葉に、全員が衝撃を受けた。
ここに居る桔梗は魂…あとは、よく分からないが核というものであって、肉体や力、これもよく分からないが魂の器なるものは別の世界にあるという事。
つまり、これでも桔梗は不完全な状態であり、そんな中不完全な魔道の力で人の形を保ち普通に生活していたという事になる。
あまりに、現実離れし過ぎて神話か何かを聞いている気分だ。
ならば、完全体の桔梗とは一体……だが、確実に言える事は今よりずっと力や能力を持つという末恐ろしい話になる。容姿は今のままなのだろうか?姿も変わるのか気になる所でもある。
「…や、やっぱり!私を捨てるんだ!!」
と、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら癇癪を起こしているショウに
「合ってる所もあるけど。違うよ…違うから、俺の話を聞いてほしい。…だから、近づいていい?」
何故か急に落ち着きを取り戻した桔梗は、ムスッとしているショウが小さくうなづくのを見て少し安堵した柔らかい表情を浮かべると
そっと、ショウに近づいて柔らかいティッシュやハンカチを使い鼻水や涙を拭いてあげていた。
「ショウが不安になるだろうから、俺が別の世界でもう一人のショウの手助けをしようとしてる事は内緒にしようと思ってたんだ。
…だけど、逆効果だったみたいだね。こんなに、長い間ショウを悩ませて苦しめるくらいなら最初から話しておくべきだった。」
桔梗はとても苦しそうな表情を浮かべながら、恐る恐るショウの両手を手に取り両手で包むと、今にもキスしそうなくらいにまでショウの顔に顔を近づけおでことおでこをくっ付けてきた。
「まず、これだけは覚えていてね。一番最初こそは、ショウは俺の一番ではなくて、確かに“もう一人のショウ”の代わりにしてた事は認める。」
「…や、やっぱり!」
「酷い事言ってる自覚はあるよ、ごめんね。だけど、聞いてほしい。とても、大切な話だから、ね?
本来は、ショウも俺達“ショウの天守達”、そして、ショウの両親だけは【始まりの世界】でしか存在しない唯一無二の存在。
始まりの世界から、様々に枝分かれして色んな世界線ができていく。今も、どんどん増えているんだろうね。
だから、ここに居るみんなが色んな世界線に存在するけど、ショウと俺達だけはどの世界にもいない。【始まりの世界】でのみ存在する。」
「……?」
「ちょっと、難しい話になっちゃうね。
【始まりの世界】は、【素】。だから、始まりの世界が滅びれば必然的に枝分かれした全ての世界も滅びてしまう。」
「…え?」
「色々事情があって、本当はあってはならない事だけど。……色々と事情があってね。
向こうのショウは、自分の一部を素にして“もう一人の自分”を創った。そして、もう一つの世界線を誕生させた。同じ力やエネルギーが反発し合うから、同じ人が同じ世界では生きられないし世界もそれに影響されておかしくなってしまうから。」
「……難しくて、ちょっとよく分からないよ。」
「うん。ショウは“もう一人の一部からできた人”であって、もう一人のショウとは別に魂も肉体も心もある。同じ人間であって、また別の人間なんだ。
生まれ育った環境によって成長が違うように、同じ人間でも“心や意思、精神”が違う。ポテンシャルは一緒でも能力値も全然違う。
つまり、同じ姿形をしていても同じであって違う。もう、別人といってもいいと俺は考えてる。」
「…う〜ん?」
「だから、素は同じでも向こうのショウとここに居るショウは別人だって事だよ。
もっと簡単に言っちゃえば、例えるなら一卵双生児みたいな感じかな?」
そこで、ようやくショウと結、陽毬はピンときたようだ。
「だけど、その始まりの世界が悪い奴に滅ぼされそうになってる。」
「…えっ!?」
「そうなると、この世界もショウも俺達もみんな消えて無くなってしまう。それだけは阻止したい。
だから、最強の力を持ってる俺が力を貸してあげないといけない。
…だって、【どの世界線にも俺は存在しない。】
俺が居るのは【始まりの世界】と【この世界】に、魂と体が分裂した状態であるから。
本来なら、ショウ達と同じく俺は【始まりの世界】のみに存在するんだけど……。」
そこまで言うと、何か思い詰めた表情をしてその後の言葉を言い渋っていた。
何かを話そうとしては口をギュッと閉じて、また何かを話そうとショウを見て
「……本当は、ショウだけには知られたくない話があるんだけど…聞いてくれる?俺の“たくさんある前世での話”を…。」
と、絶望に満ちた表情する桔梗。
「…私にだけ、知られたくない?何なの?
桔梗にとって、私ってそんなに頼りないの?…もしかして、私…桔梗に嫌われてる?」
桔梗の言葉に、ショウの頭に色んな不安が浮かんできてとても嫌な気持ちになっていた。
「…俺が、ショウを嫌う?そんなの絶対にあり得ないよ!…ただ、俺の過去世があまりに酷すぎて…そんな俺を見たら、きっとショウは俺を嫌いになる。」
「…気持ち悪い、最低最悪だって俺と縁を切りたくなる。
だから、今までずっとずっと隠してきたし何があっても絶対にショウだけには知られたくない。
……過去世の俺を知ったら、俺はショウに捨てられるから!」
「…今回の騒動は、俺の過去世を知ってはじめて繋がってくる話。
どうして、【始まりの世界】のみ存在するはずのショウやショウの両親、俺が【この世界】に存在するのか。
何故、俺が始まりの世界とこの世界に、肉体と魂がバラバラに分裂しているのか。
…俺が、向こうのショウのピンチに手助けしなければならない理由も含めて。全部。」
「…ショウがそんなにも不安を感じてるなら話すしかないね?…もし、俺の過去世を知ってショウが…ううん。…今は、そんな事は後回しだね。」
そういうと、桔梗はとてもとても大切なものを触れるようにショウを抱き締めると二人は宙に浮かび
二人の周りは、色とりどり様々な形や文字のついたたくさんの陣に覆われた。
そして、徐々に二人はお互いに吸収し合い奇妙な形になっていた。しかし、二人は透明で虹色に光を輝かせていて、それをグルグルとたくさんの多種多様な陣が覆って動いている。
そんな風景に、みんな呆気に取られていた。
同化した二人の奇妙な姿は置いといて、こんなにも美しい光景は見た事がない。幻想的かつ神秘的で、あまりの神々しさに目が離せない。
二人に何が起きているのか全くもって分からないが。
ただただ美しい光景に見入っている結達に
「これは、前世全てにおいての桔梗の過去世を何の漏らしもなくショウに曝け出す魔道だ。
ここまでしなくていいとは思うが…ショウが望むなら桔梗にとってどんなに嫌な事でもやってしまうんだろうな。」
と、説明する風雷に
「前世とか、いまいちピンとこないけどさ。それが実際にあると仮定してもさ。
それって、今を生きてる桔梗じゃないんだろ?なら、関係ないって思うんだけど違うのか?」
結の意見には、フジや陽毬達も同感のようで
「前世っていったら、一度終えた人生って事だよね?
それって、知る必要性を全く感じないんだけど。
そもそも、全ての過去世っての?前世を覚えてる桔梗が異常なんだよ。あの人、何なの?本当に俺達と同じ人間なの?」
蓮が、桔梗の異常性について言い出してきた。
「意見は様々あるだろうが、今回は緊急事態といってもいい事態が起きた。ショウが過去世から今現在までの桔梗を知らなければならなくなった。」
と、言って二人を見上げる風雷。
本当に、何があったのか意味不明だが
前世、自分がどんな風に生きてきたのか全てを洗いざらい他人に見られるって…。赤っ恥、青っ恥、絶対に知られたくない秘密、どんな恥ずかしい醜態や嫌な部分も全部知られるなんて考えたくない。
…嫌だ、本当に嫌だ。絶対の絶対に嫌だ。
どんなに心許した相手だろうが、誰であってもそんなの見られたくない!!リスクしかない。
想像するだけで…ゾッとするし、そんなの見られた日には絶対に相手に気持ち悪がられるか嫌われる自信しかない。
自分の過去をショウに全て曝け出しているという桔梗は、ショウの事なんて別に自分から離れていこうがどうだっていい存在なのだろうか?と、疑問まで浮かんでくる程だ。
「だけど、桔梗君は自分で“たくさんの前世がある”と言ってたわよね?一度の人生何年生きたか分からないけど、どう考えたって一生分を見るって無理があるわ。それも、“たくさん”となると…」
と、フジが疑問を口に出すと
「それが、出来てしまうのが桔梗という世界にたった一人しか居ないマスタークラスの魔道士だ。
おそらくだが、今桔梗が発動させている魔道は時間と時空も操っている。だから、ショウと桔梗が渡り歩いてる時間とこちらの時間は全く違うだろう。
例えばだが、こちらで1分が向こうでは100年単位で進んでいる。そんな感じだろう。」
なんて、とんでもない話をしてきた。
「…そもそもの話。桔梗の陣を読み取る限り、桔梗のおこなってる魔道は記憶を覗かせるものではない。
ショウと桔梗の意識を桔梗の前世まで遡りその全てを見ている状態だと俺は仮定している。
そんな術、時空や魂移動など操らなければならないから、どんな上級魔道士でもそんな芸当は不可能だ。その不可能を可能にできるのも桔梗だ。…まあ、ショウありきの話なんだが…」
と、話す風雷は、そんな力と能力を持つ桔梗に嫉妬しているのだろうかなり悔しそうに桔梗を眺めていた。
「…はあああ?そんな事ができるなんて無茶苦茶過ぎない?あり得ない話なんだけど。」
信じられないとばかりに、嘘でしょ?こんな事あっていいの?と、蓮は混乱しているし、陽毬は話についていけてない。
だが、結は何となく直感で何が起きてるか何となく分かった。
ところが…
…パリ…
と、何か嫌な予感のする音が聞こえ、みんな体に冷たいモノが走る感覚がし嫌な予感のする音がしたショウと桔梗をジッと見て見た。
すると
「…あ、あれ!?桔梗君の方に大きな亀裂が入ってないか!?」
いち早く桔梗の変化に気がついた結は、焦ったように桔梗を指差して風雷を見た。
「…え!?あれは、大丈夫なの?ショウにも小さな亀裂が何ヶ所も入ってきてるわ!」
フジも二人の異変に青ざめ風雷を見る。
「……なんだか二人の表情が険しくなってるであります!」
陽毬は、二人の表情が変わっている事に気付きあわあわと焦っている。
「…泣いてるのか…?あの二人が融合してからダイヤモンドにでもなって固まってるのか分からないけど、頬に涙ような形がついてないか?…本当に大丈夫なわけ?
二人…特に久遠(桔梗)の表情がこの世の終わりみたいに絶望的な顔してるけど。」
蓮も細かな所にまで気付き、ヤバイんじゃないの?と、いう風に風雷を見てきた。
その間にも
…ピシーーーーッッッ!!?ピシピシ…
と、氷に水を掛けた瞬間のように、二人に亀裂が入っていく。
特に、桔梗の損傷は激しく幾つも大きな亀裂が入り今にも壊れ崩れてしまいそうになっている。
あまりに桔梗の損傷が激しく見逃しがちだが、ショウもまたたくさんの傷が増えていくばかりだ。
なんだか、凄く良くない予感がする。
「…マズイな…」
二人を見上げ、険しい表情を浮かべそう呟いた風雷に、みんな、いよいよもって大きな不安に駆られた。
二人の事だから、大したことないケンカだろうし直ぐに仲直りするだろうからほっといて大丈夫という気持ちから、そんなに気にする者達はいなかった。
…風雷以外は…
風雷は、事の重大さに内心ハラハラしていて気が気ではなかった。これは、直接王に報告する案件だろうか?
いや、それならショウ直属の隠密であるオブシディアンが既に動いているだろう。
自分が今できる事は、何事も起こらない事を祈り二人を見守る事だけだ。もし、何かあれば直ぐに何かかしらの対処をして動かなければならないので絶対に油断してはいけないと緊張感を持って二人の様子を伺っていた。
もちろん、直属の上司であるハナには報告済みだ。
緊張感の走る風雷と、早く仲直りしてくんないかな〜と呑気な結達が見守る中、一方的に怒ってるショウと不安気な様子の桔梗との話し合いが始まっている。
「…え?何処から何処まで知ってるの?」
ショウの発言に混乱する桔梗は、ショウにどのくらいまで自分の行動が知られてしまっているのか生きた心地がしない程の不安を抱えたまま聞いた。
…どうか、いつものように的外れなバかわいい事を言って俺を安心させてくれ!という祈りを込めて。
しかし、桔梗の願いとは裏腹に
「もう一人の私の所に行ってるんでしょ?」
と、言ったショウの言葉に桔梗はドデカイ雷が落ちた衝撃を受けた。
…ドックン、ドックン…ッッッ!!?
「…え…?」
ショウの言葉が信じられず、まの抜けた声が溢れ思わずショウを凝視する桔梗。
「桔梗は、“もう一人の私”が一番大切で大事だから、その子がピンチになったり困り事がある度に“そっちの世界に行ってる”んでしょ?そこで、問題が解決したらこっちに戻ってくる。
それを二回くらい繰り返してるよね?」
ドキッーーーーッッッ!!!?
桔梗の心臓は胸から飛び出たんじゃないかというほど、ショウの言ってる事は的を得ていて驚きを隠せない桔梗。思いっきり目が泳いでいて顔色も悪い。
「…え?」
困惑しきって、まともに頭が働いてないのだろう。桔梗は、信じられないとばかりに「え?」としか言っていない。
「……私ね。どうしてかな?【見たいな、知りたいな】って、強く思うと【それ】が見えちゃうみたい。」
そんな事をショウが言った時、桔梗はハッとした顔をし何かを思い出したのか
「…嘘だろ…?“こっちのショウ”にも、そんな能力があるなんて…。向こうより、ずっと力が劣る筈だし能力だって備わってないとばかり…」
桔梗は青ざめた顔で、何やらぶつぶつと独り言を言い始めた。そこへ
「強く思っても【見えない】事の方が多いんだけど。
何がキッカケか分からないけど【実際にその場所に居て見聞きしてる感覚】になる事もあるの。
だけど、周りの人達には私は見えてなくて…まるで、透明人間になった気分になるの。
最初は、夢かな?って、思ってたんだけど何回かそんな状態を繰り返して、周りの人達の話とか聞いてるうちに夢なんかじゃないって事に気がついたんだ。」
ショウの【見える】は、いくらショウ本人が強く望んでも興味本位や好奇心では見られるものではなく、ショウが窮地に陥った時や限られた条件でのみ【見える】ものなのらしい。
なんて、ショウはとんでもない事を打ち明けてきた。それには、桔梗だけでなくそこにいた誰もが驚きを隠せなかったし信じられない話だと思った。
だけど、ショウをよく知る風雷と陽毬はショウが嘘をついてるとは思えなかったし、風雷はなるほどとも納得さえしていた。
「…桔梗は、“偽物の私”なんかより“本物の私”の方が凄く大切だし好きなんだよね?私は、本物の代わりなんだよね?桔梗にとって、本物さえ良ければ偽物の私はいつ、捨ててもいいような存在なんでしょ?
そして、本物が望むなら私を捨てて、性別を無くしてまでもずっとずっと本物の側にいようって思ってるんでしょ?」
桔梗に向かい息継ぎなく口早に自分の言いたい事を叫んだショウは、我慢してたのに堪らず涙をポロリと流し一度出た涙はどんなに踏ん張っても次から次へと流れ落ちてきた。
「……?ショウは、誰かの“レプリカ”って事なの?」
思わず、口に出てしまったフジの言葉に
「まさか、そんなバカな話あるわけないでしょ。
クローン人間や動物、キメラを作る事は禁止されてる筈だよね?大昔に、そんな研究がなされて人権も何もない酷いカオス状態、大惨事だったらしい話があるよね?」
蓮が、すぐさまあり得ないとその話を否定してきた。
「…そうかもしれないけど、隠れて違法に研究を続けてる人達がいる可能性だってあるわ。
だって、幼稚園の頃からショウちゃんと桔梗君を見てきたけど…一度もショウちゃん達のご両親を見た事がないわ。私は、いつもそれが不思議だったの。」
フジが、当時を思い出しながらショウの家は何かを隠してるような違和感を感じていたという話をした。
「それは、ワタシも感じてましたぞ!」
と、陽毬も参戦した所で、さらに外野もうるさくなってきた中
「…そっ、それは少し違う!話を聞いてくれるかな?」
桔梗は焦ったように、ショウの体を抱き締め話そうとした時だった。
…パシン!
「ーーーッヤダ!!」
桔梗の伸ばした手を叩いて拒絶するショウの姿があった。
非力で運動音痴なショウだが、ショウが拒絶する手を避けられないのが桔梗である。
叩かれるにしろ、ショウを説得するにしろ、普段の桔梗ならば、どうにか丸くおさめる筈だ。そもそも、規格外未知数な力や能力を持っている桔梗が誰かに叩かれるなんてないだろう。
だが、桔梗は容易くショウに叩かれ、ショウの言動を最優先にしてしまっているのだ。これに対し、みんなどうしてしまったのかと驚きを隠せずいる。
ショウに拒絶され、この世の終わりとばかりにショックを隠し切れない桔梗は痛々しげに叩かれた手を自分の胸に引っ込めると絶望的な顔をしてショウの顔を見ていた。
思わず、桔梗の手を叩いてしまったショウは
「…あ…」
こんな事をするつもりじゃなかったのに、まさかの自分の行動にショックを受けて固まっている。
なんだか収集のつかなそうなこの状況に
「二人とも、しっかりしろ!」
と、風雷はショウと桔梗に一喝した。その声に、ショウはビクッと反応して思わず風雷の顔を見た。それに、釣られるように人形のように桔梗もぎこちなく風雷を見る。
「ショウ、千里眼を持つヴォイドの言葉を思い出してみろ。ヴォイドは、あなたに忠告していた筈だ。
“桔梗の話をしっかりと聞け”、“桔梗を信じろ”と。
だが、あなたは一方的に自分の気持ちばかり押し付けて桔梗の話を聞こうともせず拒絶した。」
そう諭され、ショウは
「………!!?」
ヴォイドの言っていた言葉を思い出したのであろう。目を大きく見開いて風雷を見た。
「…で、でも、私っ!桔梗が、もう一人の私に会いに行った時の事とか見えちゃって!!色々、見たり聞いたりして知ってるのに、これ以上何を聞けばいいの?もう一人の私を最優先にする桔梗の何を信じればいいの?
私が、おかしいの?…私、何か変な事言ってる?」
と、ヴォイドの言葉を疑う訳ではないが、ショウが見聞きした事実がある為、それ以上に何があるとも思えず風雷に向かって感情的になって叫んでいた。
そんなショウに、風雷は一切取り乱す事なく
「その疑問を桔梗に投げ掛ければいい。桔梗は、あなただけには嘘は付かない、絶対に裏切らない。抵抗も何もしない。あなたが望むなら、喜んで何だってしてしまうだろうね。」
そう言って、桔梗を見た。
ショックから立ち直れない桔梗は
「…どうすれば、いい?どうすれば許してくれるの?…俺を…捨てるの?」
と、全身を小刻みに震わせショウに救いを求めてきた。
「…す、捨てるって!そんな事する訳ないよ!桔梗が私の事捨てようとしてるんでしょ?」
桔梗の“捨てる”という言葉に反応して、ショウは自分の気持ちの一部を桔梗にぶつけた。
「……???なに、言ってるの?
俺が、ショウを捨てる?そんなの絶対にあり得ないよ。
どうして、そんな風に思っちゃったの?」
ショウの桔梗がショウを捨てる発言に驚いた桔梗は、驚いた表情のまま震える声でショウに聞いてきた。
「…だって、【見えた】んだもん。」
「…え?」
「桔梗が、“向こうの世界”にある“自分の本体と力”を【もう一人の私を守る為にあげる】って。
ここに居る桔梗は、魂を魔道の力で肉体を具現化してるに過ぎない。【肉体や力、魂の器】は、全部向こうの世界にあるって知ってるよ。
だけど、何があったか分からないけど、それらが世界中色んな場所に隠されてて。それをもう一人の私がバラバラになった桔梗を【完全体】にする為にあちこち探してるんでしょ?」
ショウの話は、本当の事なのか桔梗は何も言えず固まってしまった。
「そして、桔梗の魂と核以外全て揃ったら最後の仕上げで、今ここに居る桔梗(魂・核)を桔梗の本体に取り入れて完全体になるんだよね?
そしたら、私を捨てて、もう一人の私の為に性別を無くしてまでも彼女が望むなら自分の全てを捧げるつもりなんでしょ?」
そこまでショウが話すと、桔梗はハッとした。
「…まさか、そこまで理解してるとは思わなかったけど。だいたいの事は、ショウの言う通りだよ。
…け、けど…!」
その言葉に、全員が衝撃を受けた。
ここに居る桔梗は魂…あとは、よく分からないが核というものであって、肉体や力、これもよく分からないが魂の器なるものは別の世界にあるという事。
つまり、これでも桔梗は不完全な状態であり、そんな中不完全な魔道の力で人の形を保ち普通に生活していたという事になる。
あまりに、現実離れし過ぎて神話か何かを聞いている気分だ。
ならば、完全体の桔梗とは一体……だが、確実に言える事は今よりずっと力や能力を持つという末恐ろしい話になる。容姿は今のままなのだろうか?姿も変わるのか気になる所でもある。
「…や、やっぱり!私を捨てるんだ!!」
と、涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながら癇癪を起こしているショウに
「合ってる所もあるけど。違うよ…違うから、俺の話を聞いてほしい。…だから、近づいていい?」
何故か急に落ち着きを取り戻した桔梗は、ムスッとしているショウが小さくうなづくのを見て少し安堵した柔らかい表情を浮かべると
そっと、ショウに近づいて柔らかいティッシュやハンカチを使い鼻水や涙を拭いてあげていた。
「ショウが不安になるだろうから、俺が別の世界でもう一人のショウの手助けをしようとしてる事は内緒にしようと思ってたんだ。
…だけど、逆効果だったみたいだね。こんなに、長い間ショウを悩ませて苦しめるくらいなら最初から話しておくべきだった。」
桔梗はとても苦しそうな表情を浮かべながら、恐る恐るショウの両手を手に取り両手で包むと、今にもキスしそうなくらいにまでショウの顔に顔を近づけおでことおでこをくっ付けてきた。
「まず、これだけは覚えていてね。一番最初こそは、ショウは俺の一番ではなくて、確かに“もう一人のショウ”の代わりにしてた事は認める。」
「…や、やっぱり!」
「酷い事言ってる自覚はあるよ、ごめんね。だけど、聞いてほしい。とても、大切な話だから、ね?
本来は、ショウも俺達“ショウの天守達”、そして、ショウの両親だけは【始まりの世界】でしか存在しない唯一無二の存在。
始まりの世界から、様々に枝分かれして色んな世界線ができていく。今も、どんどん増えているんだろうね。
だから、ここに居るみんなが色んな世界線に存在するけど、ショウと俺達だけはどの世界にもいない。【始まりの世界】でのみ存在する。」
「……?」
「ちょっと、難しい話になっちゃうね。
【始まりの世界】は、【素】。だから、始まりの世界が滅びれば必然的に枝分かれした全ての世界も滅びてしまう。」
「…え?」
「色々事情があって、本当はあってはならない事だけど。……色々と事情があってね。
向こうのショウは、自分の一部を素にして“もう一人の自分”を創った。そして、もう一つの世界線を誕生させた。同じ力やエネルギーが反発し合うから、同じ人が同じ世界では生きられないし世界もそれに影響されておかしくなってしまうから。」
「……難しくて、ちょっとよく分からないよ。」
「うん。ショウは“もう一人の一部からできた人”であって、もう一人のショウとは別に魂も肉体も心もある。同じ人間であって、また別の人間なんだ。
生まれ育った環境によって成長が違うように、同じ人間でも“心や意思、精神”が違う。ポテンシャルは一緒でも能力値も全然違う。
つまり、同じ姿形をしていても同じであって違う。もう、別人といってもいいと俺は考えてる。」
「…う〜ん?」
「だから、素は同じでも向こうのショウとここに居るショウは別人だって事だよ。
もっと簡単に言っちゃえば、例えるなら一卵双生児みたいな感じかな?」
そこで、ようやくショウと結、陽毬はピンときたようだ。
「だけど、その始まりの世界が悪い奴に滅ぼされそうになってる。」
「…えっ!?」
「そうなると、この世界もショウも俺達もみんな消えて無くなってしまう。それだけは阻止したい。
だから、最強の力を持ってる俺が力を貸してあげないといけない。
…だって、【どの世界線にも俺は存在しない。】
俺が居るのは【始まりの世界】と【この世界】に、魂と体が分裂した状態であるから。
本来なら、ショウ達と同じく俺は【始まりの世界】のみに存在するんだけど……。」
そこまで言うと、何か思い詰めた表情をしてその後の言葉を言い渋っていた。
何かを話そうとしては口をギュッと閉じて、また何かを話そうとショウを見て
「……本当は、ショウだけには知られたくない話があるんだけど…聞いてくれる?俺の“たくさんある前世での話”を…。」
と、絶望に満ちた表情する桔梗。
「…私にだけ、知られたくない?何なの?
桔梗にとって、私ってそんなに頼りないの?…もしかして、私…桔梗に嫌われてる?」
桔梗の言葉に、ショウの頭に色んな不安が浮かんできてとても嫌な気持ちになっていた。
「…俺が、ショウを嫌う?そんなの絶対にあり得ないよ!…ただ、俺の過去世があまりに酷すぎて…そんな俺を見たら、きっとショウは俺を嫌いになる。」
「…気持ち悪い、最低最悪だって俺と縁を切りたくなる。
だから、今までずっとずっと隠してきたし何があっても絶対にショウだけには知られたくない。
……過去世の俺を知ったら、俺はショウに捨てられるから!」
「…今回の騒動は、俺の過去世を知ってはじめて繋がってくる話。
どうして、【始まりの世界】のみ存在するはずのショウやショウの両親、俺が【この世界】に存在するのか。
何故、俺が始まりの世界とこの世界に、肉体と魂がバラバラに分裂しているのか。
…俺が、向こうのショウのピンチに手助けしなければならない理由も含めて。全部。」
「…ショウがそんなにも不安を感じてるなら話すしかないね?…もし、俺の過去世を知ってショウが…ううん。…今は、そんな事は後回しだね。」
そういうと、桔梗はとてもとても大切なものを触れるようにショウを抱き締めると二人は宙に浮かび
二人の周りは、色とりどり様々な形や文字のついたたくさんの陣に覆われた。
そして、徐々に二人はお互いに吸収し合い奇妙な形になっていた。しかし、二人は透明で虹色に光を輝かせていて、それをグルグルとたくさんの多種多様な陣が覆って動いている。
そんな風景に、みんな呆気に取られていた。
同化した二人の奇妙な姿は置いといて、こんなにも美しい光景は見た事がない。幻想的かつ神秘的で、あまりの神々しさに目が離せない。
二人に何が起きているのか全くもって分からないが。
ただただ美しい光景に見入っている結達に
「これは、前世全てにおいての桔梗の過去世を何の漏らしもなくショウに曝け出す魔道だ。
ここまでしなくていいとは思うが…ショウが望むなら桔梗にとってどんなに嫌な事でもやってしまうんだろうな。」
と、説明する風雷に
「前世とか、いまいちピンとこないけどさ。それが実際にあると仮定してもさ。
それって、今を生きてる桔梗じゃないんだろ?なら、関係ないって思うんだけど違うのか?」
結の意見には、フジや陽毬達も同感のようで
「前世っていったら、一度終えた人生って事だよね?
それって、知る必要性を全く感じないんだけど。
そもそも、全ての過去世っての?前世を覚えてる桔梗が異常なんだよ。あの人、何なの?本当に俺達と同じ人間なの?」
蓮が、桔梗の異常性について言い出してきた。
「意見は様々あるだろうが、今回は緊急事態といってもいい事態が起きた。ショウが過去世から今現在までの桔梗を知らなければならなくなった。」
と、言って二人を見上げる風雷。
本当に、何があったのか意味不明だが
前世、自分がどんな風に生きてきたのか全てを洗いざらい他人に見られるって…。赤っ恥、青っ恥、絶対に知られたくない秘密、どんな恥ずかしい醜態や嫌な部分も全部知られるなんて考えたくない。
…嫌だ、本当に嫌だ。絶対の絶対に嫌だ。
どんなに心許した相手だろうが、誰であってもそんなの見られたくない!!リスクしかない。
想像するだけで…ゾッとするし、そんなの見られた日には絶対に相手に気持ち悪がられるか嫌われる自信しかない。
自分の過去をショウに全て曝け出しているという桔梗は、ショウの事なんて別に自分から離れていこうがどうだっていい存在なのだろうか?と、疑問まで浮かんでくる程だ。
「だけど、桔梗君は自分で“たくさんの前世がある”と言ってたわよね?一度の人生何年生きたか分からないけど、どう考えたって一生分を見るって無理があるわ。それも、“たくさん”となると…」
と、フジが疑問を口に出すと
「それが、出来てしまうのが桔梗という世界にたった一人しか居ないマスタークラスの魔道士だ。
おそらくだが、今桔梗が発動させている魔道は時間と時空も操っている。だから、ショウと桔梗が渡り歩いてる時間とこちらの時間は全く違うだろう。
例えばだが、こちらで1分が向こうでは100年単位で進んでいる。そんな感じだろう。」
なんて、とんでもない話をしてきた。
「…そもそもの話。桔梗の陣を読み取る限り、桔梗のおこなってる魔道は記憶を覗かせるものではない。
ショウと桔梗の意識を桔梗の前世まで遡りその全てを見ている状態だと俺は仮定している。
そんな術、時空や魂移動など操らなければならないから、どんな上級魔道士でもそんな芸当は不可能だ。その不可能を可能にできるのも桔梗だ。…まあ、ショウありきの話なんだが…」
と、話す風雷は、そんな力と能力を持つ桔梗に嫉妬しているのだろうかなり悔しそうに桔梗を眺めていた。
「…はあああ?そんな事ができるなんて無茶苦茶過ぎない?あり得ない話なんだけど。」
信じられないとばかりに、嘘でしょ?こんな事あっていいの?と、蓮は混乱しているし、陽毬は話についていけてない。
だが、結は何となく直感で何が起きてるか何となく分かった。
ところが…
…パリ…
と、何か嫌な予感のする音が聞こえ、みんな体に冷たいモノが走る感覚がし嫌な予感のする音がしたショウと桔梗をジッと見て見た。
すると
「…あ、あれ!?桔梗君の方に大きな亀裂が入ってないか!?」
いち早く桔梗の変化に気がついた結は、焦ったように桔梗を指差して風雷を見た。
「…え!?あれは、大丈夫なの?ショウにも小さな亀裂が何ヶ所も入ってきてるわ!」
フジも二人の異変に青ざめ風雷を見る。
「……なんだか二人の表情が険しくなってるであります!」
陽毬は、二人の表情が変わっている事に気付きあわあわと焦っている。
「…泣いてるのか…?あの二人が融合してからダイヤモンドにでもなって固まってるのか分からないけど、頬に涙ような形がついてないか?…本当に大丈夫なわけ?
二人…特に久遠(桔梗)の表情がこの世の終わりみたいに絶望的な顔してるけど。」
蓮も細かな所にまで気付き、ヤバイんじゃないの?と、いう風に風雷を見てきた。
その間にも
…ピシーーーーッッッ!!?ピシピシ…
と、氷に水を掛けた瞬間のように、二人に亀裂が入っていく。
特に、桔梗の損傷は激しく幾つも大きな亀裂が入り今にも壊れ崩れてしまいそうになっている。
あまりに桔梗の損傷が激しく見逃しがちだが、ショウもまたたくさんの傷が増えていくばかりだ。
なんだか、凄く良くない予感がする。
「…マズイな…」
二人を見上げ、険しい表情を浮かべそう呟いた風雷に、みんな、いよいよもって大きな不安に駆られた。