美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
ーーー半年前、鷹司家主催の舞踏会にてーーー
陽毬は今日も毎回のように似合わない流行遅れのドレスに身を包み、自分の意思とは関係なくピエロになり笑われる為に上流階級の集まりに参加する。
侍女達に無駄に着飾れ、等身大の大きな鏡を目の前に鏡に映る自身を見て口元をひくつかせドン引きする。
侍女達は集まりがあり陽毬を着飾る度に
「まあ!今日も一段と可愛らしいですよ。素晴らしい方に声を掛けられるかもしれませんね。陽毬様のお父様とお母様もそれを望んでるので頑張っていい男を捕まえて下さい。応援してますね!」
と、思ってもない事を言いお膳立てし、いい男を捕まえて来いという。
…どう考えたって無理だし無駄なのに、侍女達もそれを分かってる癖にそんな事を言う。
両親は親の欲目で、陽毬の事を着飾れば愛嬌があって少し可愛いんじゃないかと思っている節穴である。
陽毬の両親は地位の低い自分達の生活の為に、色々な偉い人達に媚びへつらい顔を広げたいと集まりがあれば、ほとんどに参加し頑張っている。
…が、自分達に何の力もない、取り柄もない癖に、自分だけ美味しい思いをしたいと取り入ろうってのだから他の人達に邪険にされ嫌われるのは当たり前。
陽毬には兄と妹がいるが、オタクで見目の悪い陽毬を邪険にして近づかない。
それに、両親を見習って年の近い御子息、御令嬢の取り巻きをして忙しそうにしている。
両親はそんな陽毬達に、御子息、御令嬢と恋人、もしくは婚約を取り付け、将来家の安泰を目論み必ずと言っていいほど強制的に集まりに参加させるのだ。
現実から目を背け夢を見過ぎである。…現実逃避に近いかもしれない。
そんな夢見がちな自分の両親を哀れに思い、遠い目をしながら、今日も今日とて陽毬は推しのキャラや大好きなアニメなどの妄想をして壁の花に徹底する。
だが、この日は違った。
壁の花と化している陽毬をチラチラ見ている男性陣。それは、好意からくるものではなく、あからさまに陽毬を見て嘲笑い見下している。
ニヤニヤある意味いやらしい目で見て腹を抱えて笑っている彼らの中心にいる人物は、上流階級でも知らない人がいない程の有名人であり超大物。鷹司 大樹である。
彼の素晴らしさは有名過ぎて、もはや説明するのさえ面倒なほど。だが、彼のスキルや才能だけでなく容姿も、美女で有名なあのフジと並んでも霞む事なくその存在を主張できる程の美形である。
スラリとしたモデル体型に、青みがかった黒い髪と目。クール系イケメンの彼にその色はよく似合っていた。
その取り巻き達も選びに選ばれた人間なのだろう。美形が多い。
そんな選ばれしグループが、陽毬を見て何やらコソコソ話してる事に嫌な予感がする。気のせいだろうが。なにせ、彼らの様な上位者は自分の様な虫ケラは空気も同然だから。
むしろ、汚いもの汚物を見るような素振りも多い、面白おかしく悪口をぶつけられる格好の餌食の…ピエロだ。
そんなピエロに、話しかけてくる物好きなんていない。もし、下手くさい中途半端な優しさで声を掛けてくる人達がいたなら、その優しさを見せた人達もはじき者にされるだろう。
それか…
後者なら、陽毬は最低最悪の精神的屈辱を味わう事になるだろう。
自分が関わったせいで他の人達がはじきものにされるなんて罪悪感やら後味が悪過ぎる。そんな壁の花も多く見て来た。
だが、鷹司 大樹のような超VIPがそんな事するとは思えない。だって、彼の表向きの人柄の良さも評価される人格者だから。
壁の花を無い物として扱う事はあれど関わる事はない。今まで、そうだった。
…なのに、何故…!?
陽毬は、自分の目の前に現れたキラキラ眩しい人物。眩し過ぎて目を開けてるのが大変だった。
おそらく、友達である桔梗の美貌を見慣れてなければ、腰を抜かしていただろう美形が直ぐ近くにいるのだから。
桔梗君!君のこの世の者ならざる美貌に見慣れてなければ、たった今、私はとても大恥をかいていたでしょう。桔梗君の人の域を超えた美貌に感謝であります!
と、若干11才にして海外の某超有名大学院卒業間近である超天才のお友達に心の中で敬礼していた。
「いつも、社交界や舞踏会に参加しているよね?なのに、どうして一人なの?」
と、女性なら誰しもが目をハートにするであろう柔らかい物腰で陽毬に声を掛けて来やがったのである。
それに、嫉妬した御令嬢達の阿鼻叫喚たる甲高い声が会場中に響きうるさいし、他の参加者や大人達も好奇の眼差しでこちらに注目している。
……やめてくれ。マジで!
私から興味を無くして、さっさと去っていけよ!クソイケメン!!
そう願う陽毬を他所に、底辺の人間にも平等に接する姿勢を崩さない大樹に周りの評価も鰻登りである。
何も答えられず、俯く陽毬に
「いきなり、声を掛けたから驚いてしまうよね?ごめんね?良かったら、また僕とお話ししてくれると嬉しいよ。」
と、気遣った優しい言葉を残し大樹は去って行った。
もちろん、“せっかく大樹様がお声を掛けて下さったのに、あのブ女なに様のつもり?”そんな類の言葉のナイフが陽毬に突き刺さる。
…最悪だ。
このせいで、陰湿なイジメが始まる。
多分、鷹司 大樹が直接声を掛ける事で、私に嫉妬した御令嬢達によってネチネチと意地悪されるのを分かってやった可能性が高い。
きっと、遠くから隠れてその様子を見て取り巻き達と笑うのだろう。
そう考えると、次からの集まりが憂鬱である。
だが陽毬の予想に反して、そんな事は起こらなかった。代わりに、集まりで会う度に気さくに大樹に声を掛けられるようになった。
おかげで、周りから大樹の知り合い扱いされる陽毬なので、意地悪をして自分の株を下げたくない頭のいい御令嬢達はいつも通りであった。
だが、たまに頭の悪い御令嬢に意地悪されそうになった事があったが大樹が助けてくれた。
ここまでされたら、大樹に心惹かれて恋をしてしまうだろう。キュンキュンし過ぎて涎ものだ。
騎士の如く行動できる男子はまず居ないだろう。それを踏まえて完全無欠のいい男だ。
そりゃ、御令嬢達の憧れの的であり彼に本気で恋する子達も多い。彼の気さくさに御子息達も心許し友達も多い。大人達の評価も言わずもがなだ。
だが、陽毬は知っている。
この完璧と思える男の正体を。
陽毬に近づいた理由も、おおよそ想像ができる。
だって、大樹の愚行はショウとの電話やメールで詳しく知っていたから。
ショウの話では、大樹は社交ダンスの海外遠征などでショウと桔梗の住む街へと来る事が多いらしい。
理由は、ショウ達の住む街が社交ダンスが盛んだから。だから、そこに住む人達のほとんどの社交ダンスのレベルが平均して高いのだ。
大樹の友達も選手として社交ダンスをしてる人が多く、その友達と一緒に海外遠征に行ってるらしい。
そして、2年ほど前からだろうか?大樹が、中学生になったあたりから、隠れて悪い遊びをする様になったらしい。
どうして、そんな事が分かるのかって?
もちろん、ショウの情報だ。
ショウの話だと、ショウと大樹はイトコらしく大樹はショウの事を妹のように可愛がってくれるという。
だから、海外遠征先がショウ達の住む近くであるとお土産を持って遊びに来てくれるショウとは兄妹のような仲らしい。
2年ほど前、ショウと桔梗がデートで美味しいと評判の店で食事を楽しみ帰る時だった。
変装した大樹と友達、そして海外でできたガラ付きが悪い怖そうな友達と露出の多い派手な美女達が、街でも危険だと悪い噂を聞くクラブへ入って行くのを目撃したのをキッカケに様々な場所で変装し偽名を使っている大樹の悪い噂を聞くようになった。
大樹の変装は完璧で誰にも分からないほどだったみたいだが、桔梗は直ぐに分かり大樹の裏の顔を知る事になったのだとか。
ショウは、そこで起きた何でもない話からとんでもない話まで色んな話をしてくれた中に、大樹の話も多く語られていた。
ショウの好奇心で桔梗を巻き込んで、どうして大樹が変装して怖そうな友達や派手な美女達と一緒なのか探偵ごっこをした事があり
そこで、大樹の裏の顔を知ってしまった。
探偵ごっこは凄く楽しかったが、大樹の愚行にショックを隠せなかったという。
その内容とは
悪い噂ばかりのクラブのVIPルームに入り、ターゲットを見つけて騙して遊ぶ事。
ずる賢い大樹は自分の手は汚さず、それを仕切りながら高みの見物。それで、賭けをしたり罰ゲームをしたりして遊ぶのだ。
最終的に騙されたと知ったターゲットの悲惨な姿を見て、みんなでゲラゲラと笑う。
そのクラブは、精神的に荒ぶった輩や性欲盛んな輩が集まっていて、あちこちで酒やタバコ、ドラッグまで手を出しているしまつ。
場所も考えず、あちこち何処でもヤッてたり、いきなり殴り合いの乱闘が始まるのも通常。乱闘が始まればギャラリーが集まり、あれこれとヤジを入れたりお祭り騒ぎ。違法な何かの悪い取り引きが行われてたりと
とにかく、とてもヤバイ所だったらしい。
そこで、大樹も酒やタバコに手を出し、その場限りの美女達とヤりながらターゲットで遊ぶ。
そんな、クズな遊びをしている。
大樹は表で、大樹にふさわしい様な素敵な彼女ができるが大樹は飽きやすく気が多いので長続きはしない。長く持って1ヶ月。短くて1日という事もザラらしいが彼女が途切れる事はない。
しかし、揉め事は面倒なので上流階級に関わることのない一般家庭の女子を選んでいる。そして、彼女がいる限りは浮気は一切しないという徹底ぶり。
上流階級の場では、“彼女がいる”という事を仄めかすだけで別れた話などしないので一途だと思われている。
うまく隠れて、悪い遊びをしながら面白おかしく生きているのだ。
その話を知ってるからこそ“何かあって自分に近づいた”と、思って当然だ。
その事を海外にいるショウにテレビ電話で話した。そしたら
『…え!?大樹君、何考えてるんだろ?そんなに陽毬ちゃんとお友達になりたいのかな?」
なんて的外れな事を言うと、すかさず
『…ショウは、いい子だね。だけど、ちょっと違うかもしれないよ?』
『どういう事なの?』
と、首を傾げて聞くショウは特大のソファーに座っており、そこにショウにべったりくっ付いている桔梗がいる。
桔梗は、かわいい!かわいいっ!!と、言いながら何度もショウを抱きしめたり頬ずりしたりして、チュッチュとあちこちにキスしまくっている。…うん、いつも通りの光景だ。
たまに、理性を失いかけてショウの唇を軽く噛んでたり…ちょっと言えない事をしようとしたり、18禁に迫りそうな雰囲気になってたりで凄くドキドキしてしまう。
いつも、思うが桔梗ってショウの事大好き過ぎない?
さすがに学校とか公共の場、他人がいる時は抑えているが。
心許した人しか居ない時やプライベートになった途端に桔梗のショウへの甘えたが凄い。
…と、言うか、艶っぽくなるっていうのか…とってもエッチだ。
テレビ電話を切った瞬間、これ以上にラブラブイチャイチャするのが容易に想像できる。
…二人って、どこまで進んでるんだろう?
そんな事はさすがに聞けないけど、ドキドキが止まらないであります!と、あらぬ事を考えている陽毬に
『何か、裏がありそうだって事だよね?』
桔梗はショウの体に絡み付きながら聞いてきた。
「そうであります。どう、考えたっておかしいでござる!」
桔梗の声にハッと我に返り、即座にそう答える。すると
『そういう事なら大丈夫だよ!一回そっちに帰って調べてみるね。』
フンスフンスと鼻息荒くショウは張り切っている横で
『…え?ショウが、そういう言うなら仕方がないね。』
一瞬、マジで!?といった風な顔をしてから、直ぐにショウに同意した桔梗。
そんな電話をして、直ぐの事だった。
ショウ達はまた探偵ごっこをし突き止めてくれたのだ。仕事がとても早くてビックリした。
そこで、映像付きで陽毬に大樹の裏の顔を見せてくれたのにも驚かされた。
どうして、こんなに早くとき止められたのか。どうやって、こんな鮮明な映像を入手できたのか。聞いてみたが、二人に“企業秘密”だと言われた。
クラブでの悪行は、凄まじい光景で実際にこんなヤバイ所が存在するのかとビビってしまった。
また、18禁ものが多く映っており(大樹もパコパコ腰を振っていたので)桔梗の配慮でモザイクで隠してくれたが、ぶっちゃけエロい事に興味があるお年頃なので見たかったというのが本音だ。かなり。
とんでもない奴であります。人の皮を被った悪魔としか思えませぬな。…悍ましい限りでござる。
と、陽毬の大樹を見る目がガラリと変わってしまった。
そして、今一番知りたかった事。
その内容も映し出された。
そこは、大樹のセーフハウス。タワーマンションの最上階ではなく、あえて一般人が住むマンションの5階を選びそこを友達との溜まり場にしている。
そこに彼女も連れ込んでいる。彼女は清楚系の美少女だ。
そこで、陽毬の知りたかった情報が入っていた。
『ところでさ。大樹君、そのブサイクなデブに優しくして、その気にさせてメロメロにさせてから捨てるって遊び。上手くいってる?』
『ああ、順調だと思うよ?あのデブス、警戒心強くてさ。だから、ああいうタイプは一度心を開くとどっぷりとのめり込むよ。
まあ、心を開かせるまでが手強いけど、それを心開かせた時の快感を思うと楽しみだよ。』
『大樹くぅ〜ん、悪い子だぁ。』
と、彼女はクスクス笑いながら、向かい合う様にして大樹の上に乗っかって腰をうねらせている。
『そうだね。そろそろ、次の段階に進んでも良さそう。だから、今度の集まりでは“恋人になってほしい”って告白するよ。』
『おお!ついに!そして、短い夢を見せてメロメロになった所で、ドーーーンとドン底に突き落とす。その時のあのデブメガネの反応が楽しみ過ぎるんだけど!』
『ウフフ!本当、悪い人達ね。でも、面白そう!』
『けど、珍しいですね。大樹君自らが動くなんて。』
『ああ、ただ見てるだけじゃつまらなくなったんだよ。だから、手始めに恨まれても、何の害のない奴をターゲットに選んだんだ。』
『え〜?でも、恋人のフリするって事はエッチな事もしちゃうの?それは、大樹君の本物の恋人として凄く嫌かも。』
『リナ、それは無理。いくら、フリでもあんなデブス相手に、キスやエッチはできないよ。気色悪くて立つものも立たないからさ。』
『あはは!確かに!!』
なんて、最低で下品な会話がされていた。
やっぱり、そういう事だったのですな!!
陽毬は、真実を知り血が逆流しそうに怒り狂っていた。
だが、大樹が陽毬に告白してきたとして、それが嘘だと分かりつつも陽毬はそれを断る事ができない。
何故なら、相手は帝王の親戚である王族。敵に回せば、陽毬どころか家族、親戚まで被害が出る事が目に見えている。
ここは、騙されたフリをして大樹が陽毬に飽きるのを待つか、最後までクソな遊びに付き合い通してドン底に突き落とされるフリをして終了するかしかない。
本当に腹が立つが相手の思惑さえ分かっていれば、今まで大樹達のターゲットにされてきた人達のように沼にハマる事はないし、ドン底に落ちる事もない。
傷は、とても浅く済む。
とにかく、大樹が途中で飽きるかゲーム終了までの辛抱である。
そして、映像で見た大樹の宣言通り
社交の場で上手い事、人気のない場所で二人きりとなった陽毬と大樹。
おそらく、大樹の友人達と計画を立て手筈通りに事を進めているのだろう。用意周到というところか。
「…最初は、独りぼっちの君が可哀想だと気になって話しかけただけだったんだけど、君と話しているうちに段々と君の事が気になっていって…気がついたら好きになっていた。
もし、良かったら僕と付き合ってほしい。」
と、真剣な眼差しで陽毬を見てくる大樹。
おうおう。迫真の演技ですな。よく、ここまで出来るとある意味、感心しますぞ。
陽毬は内心、呆れかえりながらも自分も考えていた演技で返す。
「…わ、私なんて…大樹様には釣り合いません。」
そう言って、下を俯いた。単に、大樹の顔なんて見たくないだけなんだが。しかも、ムカつき過ぎて小刻みに震える。だが、これがいい効果をもたらしたらしい。
一瞬、ニヤリと悪い笑みを浮かべた大樹の顔を陽毬は見逃さなかった。
きっと、陽毬が大樹を好きで好きでたまらないが、身分や釣り合いがとれないという大き過ぎる壁のせいで、大樹の気持ちに答えたくても答えられない状態なのだと勘違いしたであろう。
物陰から隠れて覗いている大樹の友達も、“騙されてるとも知らないで”と、面白くてしょうがないのだろう。陽毬を馬鹿にして笑いを必死に堪えていた。
こうなると事前に分かっていたので、大樹の友人達の存在も把握。気を張って周りにも注意して見聞きしているので
些細な物音や、耐えられず漏れる小さな笑い声。“バレるだろ?”と、それを制して小突く様な衣服が擦れる音など。
分かっていれば色々見えてくる。
そんな友人達に気がついた大樹は、陽毬が俯いたり大樹を見てない時を見計らって隠れている友達達に向かって、唇に人差し指を当てしーっと楽しそうに合図してる。
…クソが!
全部、筒抜けですぞ!
このクズ共めがっ!!
と、陽毬はずっと怒りでイライラしている。
「……っ!!?そんな悲しい事言わないで?君は、僕にとって素敵な女の子だよ?もっと、自分に自信を持ってほしい。
でも、身分は…そうだね。なら、周りにバレない様に内緒で付き合おう。」
は〜〜〜!凄いでありますな。
そういう風に持っていくとは、詐欺師の才能がございますぞ。ある意味感心して鳥肌が立ちましたぞ。
「………え?」
と、陽毬も負けじと演技する。
「大丈夫!僕を信じて?」
誰が、お前みたいな詐欺師を信じるかぁぁーーーーー!このクズがぁぁーーーーー!!
なんて、陽毬の心の中は荒れ狂っていたが、ここは我慢だ。
「…い、いいんですか?」
「もちろん!」
「…あ、ありがとうございます!」
「…プッ!お礼を言うのはこっちの方だよ。これから、よろしくね。」
なんて鳥肌ものの面倒くせーやり取りをして、二人は秘密の恋人(偽物)になる事となった。
それから、二人は連絡先を交換して毎日のようにメールをしている。人目を避けるように、一般の人達が集まる街などでしたくもないデートも重ねている。
あ〜あ、早くこの茶番終わってほしいであります。
大樹様の目的さえ知らなければ、なんと素晴らしくも楽しいデートだったろう。メールもウキウキソワソワときめいていたでしょうな。
それほどまでに、女性の心を掴むのが上手い!
回を重ねるごとに、あまりにナチュラルに恋人として接してくるから
うっかり、楽しんだりトキめいたりしてしまってる私がいるぅぅぅ〜〜〜!!!
騙されてはいけないのに、大樹様のあまりの魅力に負けそうでありますぅぅぅ〜〜〜。
あのクラブでの悪魔のような姿や、私をターゲットに騙して遊ぶクズと同一人物とは思えなくなってきてる自分が怖いであります。
大樹に心惹かれそうになる度に、陽毬は例の映像を見て…スンッと現実に引き戻され自分を保つ事ができたのだった。
…ああ、ショウ様、桔梗様様でござるな!
この映像は私を守るお守り!ありがたやぁ〜、ありがたやぁ〜!
現実に戻ってこられた陽毬は、怒りが込み上げてきて
それを無双ゲームで、バッタンバタンと敵を倒しまくり
「あんのクズ男がぁぁーーーー!純情な乙女の心を踏みにじりやがってぇーーーーッッ!許さないでありますゾォォーーーーーッッ!ぶっ倒してやるでござる!!」
大樹への恨みつらみをぶつける日々なのだった。
ーーーーーー
「…と、今現在の状況はそんな所ですかな?」
と、喋りきった陽毬はスッキリした顔をしていた。
もちろん、陽毬の思惑通り、話を聞いたフジは、信じられないとばかりに絶句。雪の様に真っ白なお顔が真っ青に変わっていく。
その姿を見て、陽毬はしてやったりとフフンっと鼻を鳴らしていた。