美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
「…そ、そんな事が…。まさか、あの大樹様がそんな…」
と、ショックを隠しきれないフジ。
結も手の届かない存在ながら、アイドルの如く大樹に憧れを抱いていたので陽毬の話を聞いて大樹のイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。…ショックが大きすぎる。
蓮も相当なクズだが、それを遥かに上回るクズofクズだ。…いや、結が知らないだけで蓮も大樹と近い事をしてる可能性もある。
ただ、大樹が理想的過ぎて、彼に夢を見てた結とフジは当分立ち直れそうにないくらいショックを受けている。
…あの鷹司 大樹が、そんなとんでもないクズだったなんて…人間不信になってしまいそうだ。
ピリついた空気の中、陽毬はジッと桔梗を見て場の雰囲気を少し壊す発言をした。
「しかし、桔梗君はプライベートと公共や公衆の場ではガラリと印象が変わりますな。」
と、大樹との出会いの話をしていた時、ショウと桔梗の事をふいに思い出し改めてそんな感想を持った。
すると、陽毬の話に乗っかって
「確かにな。桔梗はパブリックでは大人びていて紳士的なイメージが強いが、プライベートではショウのペットだな。」
と、風雷は何かを思い出したかのようにフッと笑い桔梗を見た。
………???
ぺ、ペット!?桔梗君が?
ちょっと意味が分からないんだけど。
結とフジ、ショウまでも何を言ってるのかと首を傾げている。
「上手い例えですな!確かにプライベートでの桔梗君はショウに対して、甘えん坊な仔猫であり、一緒にいれて嬉しいと尻尾を振り飼い主に尽くす事を喜びとする忠実な犬の様でもあります。」
なんて、詳しく例える陽毬に
「ハハ!分かる、分かる!」
風雷は、パンパンと手を叩きながら腹の底から笑っている。
「桔梗は自らに喜んで首輪を付けて、首輪に繋がれた鎖を無理矢理ショウに持たせてる感じがする。
ショウに命令されてこき使われたいドMなんじゃないかって思う事が多々ある。
ただ、残念ながらショウにはそんな我が儘な女王様になれる素質は無さそうだが。そこは残念だったな。」
桔梗の事をそう評する風雷に
「確かに、ショウにはもっともっと我が儘を言ってたくさん甘えてほしい。ショウが望むなら何でも叶えてあげたいけどさ。
……変態とかドMとか、やめてくれない?
全然、違うから。」
と、桔梗ニッコリ笑ってるのに、どうしてか桔梗を纏う空気がうすら寒い。
「自分の恋が上手くいかないからって、こっちに八つ当たりしてストレス発散するのは良くないと思うよ?」
笑みを浮かべたまま桔梗は、注意のように見せかけたちょっとばかりの仕返しをした。
すると、いつも冷静沈着な風雷の米神がピクリと動き
「……は?言っておくが、ハナが俺を好きな事は明らかだからな?
ただ、ハナは恋愛に疎いからそれに気付かせるのに時間が掛かってるだけだ。それは自分の計画の想定内の事だし上手くいってる。
お前こそ、下僕の如く何から何までショウの世話をしてるだけでなく、ペットよろしく四六時中ショウにベッタリだからな。」
そう言った後、軽薄な笑いを浮かべ
「ショウにとってはプライベートもプライバシーも何もあったもんじゃない。
いい加減にしてほしいとウンザリされてるんじゃないか?」
お返しとばかりに、あえて桔梗の感に触る様な事を言ってきた。
「…お前にだけは言われたくないよ。お前なんて、恋愛に対して初心なハナに様々に色仕掛けしてはハナの反応を見て興奮するイカれたドSだからね。こんな奴に好かれてしまったハナに同情するよ。」
風雷の額にビキッと青筋が浮かぶ。風雷の肌は陶器の様に白いので、くっきりと浮かぶ上がる青筋は目立っている。
「年中24時間、発情期の獣ヤローが!」
桔梗はニッコリ笑みを浮かべたまま絶対零度の視線を風雷に向けている。
「お前、それ大ブーメランだからね?
お前はまだ、恋人にもなれてないのに隙あらば既成事実を作ろうとしてるじゃないか。
もはや、犯罪者って言っても過言じゃないと思うけど?それに、色仕掛けして発情を誘発しようだなんて、まるで男娼のようだね。必死過ぎて可哀想に思えるよ。」
桔梗はスッと目を細めると
「しかも、普段は漢らしいハナに甘えるお前の姿は、付き合いたての彼女か新婚の嫁みたいに見えるよ。かわいいね?」
と、風雷に冷笑した。
「……お前、本当にムカつく。」
「それは、こっちのセリフだけど?」
二人は、バチバチ火花を飛ばすと…フ…と、いきなり姿が消えて、結達は
「…え?え?…き、消えたっ!?」
「どうなってるの?」
「ヒィィ〜〜っっっ!!!?険悪な雰囲気でいつ殴り合いの喧嘩をしてもおかしくない状況で、私達の目の前で、き…消え…えぇ〜〜〜っっっ!!!?」
と、パニックになっていた。
すると
「…あ、みんな!お、おちゅ…おちゅついて!」
ショウは、みんながパニックを起こしているのを見てパニックを起こし、みんなを落ち着かせる為に声かけて…噛んだ。…恥ずかしい。
「あ、あのね!多分、今二人は周りに被害を出さないように“異空間”っていう場所に行って…喧嘩してると思うよ?」
と、説明するショウに、みんなピタっと動きを止めショウに注目した。
「…異空間???」
不審気に、フジはショウに説明を求めるも
「…異空間…う〜ん、ちょっとよく分からないけど。二人が、殴り合いや魔道を使った喧嘩をする時、よく異空間って所に行って喧嘩してるよ?」
イマイチ、異空間というものが分からないが、今現在二人は別の場所で壮大な喧嘩をしている事だけは分かった。
そこに
「“異空間”ですとっ!!?
そんな所にも自在に行き来できるとは、もはや漫画やアニメの世界ですな。
ちなみに“異空間”とは、“異質な空間”でありまして、普通自分達が行く事のできない空間であります。ついでに、言えば“異空間”と“異世界”とは全く別物ですからな!間違えないように!!
異空間は、異世界同様数え切れない程存在しておりましてな。その空間によって特質や性質なども様々なのであります。
二人の様な信じがたい力を持った魔道士ならば、もしかしたら“その時の状態に合った異空間を見定め選び”行っているという事も考えられますな。」
と、ファンタジーアニメや漫画の知識を駆使して自慢気に陽毬は説明してきた。
「確かに、そんな事言ってたかも!
あと、私を待たせると可哀想だからって、こっちの世界とは時間の流れが違う異空間を選んでるんだって。」
なんて、言ってくるショウに結とフジは、あまりに現実味のない話にポカーン…である。
そして、ショウの説明が終わったあたりに急に桔梗と風雷は姿を現した。
「………でも、“首輪”と“鎖”か。よく、考えてみたら“有り”かもしれない。俺が、首輪をつけてショウが鎖を……いいかも!」
「…やめてくれ。俺の軽い冗談のせいで、親友の新たなイケナイ性癖の扉を開かせたくない。」
なんて、桔梗が恍惚とした表情で艶っぽいフェロモンをあちこちに飛ばしてるのに対し、風雷はコイツなら本当にやりかねない。頼むからやめてくれと頭を抱えていた。
喧嘩をしたというのに、無傷だし衣服の汚れさえない。そこを突っ込んだのが陽毬。
アニメや漫画の世界に入った様な気持ちになっていて興奮しているのだろう。目を輝かせ鼻息荒く
「魔道を使ったり殴り合いの喧嘩をしていたと思っていましたが、服も汚れてないどころか傷一つありませぬな。
もしかして、口喧嘩で場の雰囲気を壊さぬようにと気を使い何処か邪魔にならない所へ移動したのですかな?」
二人に、質問すると
二人は顔を見合わせ、…ック!と、笑うと
「もちろん、武術と魔道を使った喧嘩をしたよ。だけど、俺達は回復魔道と修繕魔道も使えるから、怪我もボロボロになった衣服もなおす事ができるからね。」
そう桔梗は説明してくれたが、そんな便利な事ができるのかと結とフジの頭の中には宇宙が広がっていた。
あまりに、現実離れし過ぎていて頭がついていかない。
「…それでも、喧嘩が終わるまでは、いっぱいいっぱい痛い思いしてるんだから…あんまり喧嘩してほしくないな。」
ショウは、悲しそうな顔をして桔梗と風雷に自分の気持ちを話した。
それに二人は顔を見合わせ、少し困ったような顔をすると
「…ショウ、心配かけてごめんね?もう、ショウの前で、風雷とは怪我をする様な喧嘩はしないよ?心配してくれて、ありがとう。」
…ん?と、何か引っ掛かる言い方だが、桔梗は心配するショウを優しく抱きしめ申し訳なさそうにしていたが、…なんだか、とても嬉しそうだ。
「ああ。確かに、ショウの前で喧嘩は良くないな。以後、気をつける。」
二人は、素直にショウに謝っていた。
だが、ここで
「…桔梗が、ペットのように甘える?風雷が、色仕掛け…??まっっったく、微塵も想像できないわ。だって、そんな姿なんて私、一度だって見た事ないもの!」
と、驚きを隠せないフジが口を開いた。
「…いや、こんなの知らなくて当たり前だからね?プライベートの話だし。」
そこへ、苦笑した桔梗がそれに答えた。
「そ、それを言うなら、私達だってプライベートで仲良しじゃない!なのに、私がそれを知らないなんてあり得ないわ!魔道の事だって、そう!
それに、魔道を使えるだけでなくて、そんなとんでもない魔道士だなんて!!どうして、教えてくれなかったのっ!?酷いわっ!!」
と、興奮して怒りまくっているフジに
「それは、ごめんね?だけど、こういう事って心から信頼してる人にしか話せなくない?無闇に人に話す事ではないし。何でも話し合える相手って限られてると思うんだ。フジだって、そうじゃない?フジはどんな事も包み隠さず俺達に話してる?違うでしょ?」
ニコっと可愛らしい笑みを浮かべ、桔梗はフジを諭すようにそう言ってきた。
「確かに、親に言えない事も親友には言えたり。親友に言えない事も親友を良く知る人物に言ったり。
だから、いくら親友と言えど知らない事だってある。
どんなに仲が良くても、知らない事だって多いはずだ。誰にだって、少しくらいは秘密はあると思う。逆に自分の全てを曝け出して話す奴がいたら頭がおかしいと考えてしまうな。」
そこに、風雷の言葉も加わって更に説得力が何倍にもパワーアップし、フジは確かにそうだと丸め込まれ納得したようだった。
素晴らしいコンボだ。あのフジを言いくるめてしまうとは!さすがという他ない。
だが、桔梗と風雷は言葉にこそ出さなかったが
“フジとは幼少期からの厄介な知り合い程度”
“できるなら、関わり合いたくない面倒な顔見知り”
と、思っている事を結と陽毬は何となく察し、少しだけフジを不憫に思うのだった。ミジンコほどに少しだけどね。
「…それにしてもよ!大樹様の話が本当だとしても信じがたい話だわ。」
フジは、大樹のクズな愚行を聞き頭では理解したつもりでも、信じられない…いや、信じたくないという複雑な気持ちに苛まれていた。
…まさか…あの大樹様に限って、そんな…
けど、桔梗と風雷が嘘をつくとも思えないわ。
フジは、頭の中から陽毬の証言をすっぽり弾き出して(失礼である)モヤモヤしていた。
そんな、フジに追い討ちをかけるように
「白鳥 真白(しらとり ましろ)嬢という、フジさんと並ぶ超美少女がおりますな?」
白鳥 真白!この御令嬢も有名だ。
今、未婚の御令嬢の中でフジを筆頭とする【三大美女】というものが存在している。
その名の通り、三人が飛び抜けて美しい。彼女達に敵う美貌はないだろうと言われる程の美女達である。
もちろん、それは男性陣にも言える事で【五大美男】なるものもある。
そこには、何故か桔梗と風雷の名前はない。
理由は簡単。彼らは一度もこの国や地域などの社交界などに参加した事がないから。彼らの存在自体、知らなくて当然であろう。
その五大美男の中には、当然のように大樹がいる。もちろん、結の婚約者である九条 蓮もその中に入っている。
話は戻るが
業界でも、我が儘な“傲慢女王様”と言われているフジは言わずもがな。説明は要らないだろう。
白鳥 真白は、現在中学三年で大樹と同い年である。
彼女は、白い胡蝶蘭を思わせるような容姿で清楚でいて清純。それでいて上品で優しく立ち振る舞いも美しい美少女だ。
「それが、どうしたの?あの二人とこの私と美貌が同レベルなんて言ってる人達はどう考えたって節穴だと思うわ。だって、あの中でも私がダントツで美しいもの。」
と、真白達二人と自分が同レベルの美少女だと評されているのが納得いかず気に入らないフジである。
タイプは違えど、やっぱり真白達二人とフジは同じくらいの美人だと思う、結と陽毬だ。
「大樹様のターゲットになってしまいましたのでな。私にくる被害を最小限に抑えたいと、ショウと桔梗君に協力してもらい、大樹という人間を調べていたのです。そこで、発覚した大きな事がありましてな。
それが、白鳥 真白の存在であります。」
「その白鳥 真白がどうかしたの?
また、裏の顔があるとかそういう話なら、私は白鳥 真白には興味がないから別に聞かなくて十分よ。」
と、げんなりした顔でフジは真白には興味がないから聞きたくないと制した。
「いやいや、白鳥さんはとても素晴らしい女性らしいですぞ?」
「…なら、どうして白鳥 真白の話を出してきたの?関係ないじゃない。」
鬱陶しそうに顔を顰めているフジに
「いやいやいやいや!関係ありますぞ?
おそらく、私の見る限りではフジさんは、桔梗君や風雷君を理想の男性と感じておりどちらかと恋人になりたいと考えておられるのでしょう!二人こそ、自分に相応しいと。ですが、残念な事に二人には意中の女子がいて脈拍ない。
そこで、白羽の矢が立ったのが鷹司 大樹!
桔梗と風雷がどうしてもダメなら、次に自分に相応しい男子は大樹君と思っている筈。」
言い方はムカつくが、確かにそんな感じではあるとフジはムスッとしながら陽毬の話を聞いていた。
「そんなフジさんに教えておこうかと思いましてな。」
「……?」
「鷹司 大樹君は、白鳥 真白さんが好きなのであります!」
と、言う陽毬の話を驚愕の表情で見て言葉を失っていた。
「大樹様と真白さんは、いわゆる幼なじみでしてな。幼い頃から、大樹君はお淑やかで優しい真白さんに淡い恋心を抱いていたそうですな。
ですが、真白さんは“もう一人の幼なじみ”が好きな事に気づき、告白もできずモンモンする日々が続き…。
ついに、大樹様が中学進学と同時に真白さんともう一人の幼なじみ君が付き合う事になり、幼なじみである大樹様に報告。
それからですな。大樹様は、どうしようもない気持ちを誤魔化すかの様に徐々に悪い遊びをする様になった。それが、どんどんエスカレートして今があるという状態でしょうか?」
なんて、陽毬の説明を聞き、大樹の気持ちを考えると…完全なる悪者とも思えなくなってしまった。だからと言って、どんな理由があろうと大樹のしている愚かな行為は絶対に許されない。
「もちろん、大樹君が悪さしてるなんて知りもしない真白さんと幼なじみ君は、今も大切なお友達、もしくは親友と信じ友好がある様ですな。何とも切ない。」
普通に考えてキツイ!
好きな人ともう一人の幼なじみ君。二人が恋人同士である事実をまざまざと見せつけられながら二人と交友関係を続ける。
好きな人と幼なじみ君が、目の前でイチャイチャしてても、昔から仲のいい友達として接しなければならない。…いやいや!ムリ!耐えられない!
自分が大樹様の立場だったら、その場から逃げ出して大泣きする!そして、そんな二人を見てられなくて二人から距離取っちゃうなぁ。
普通に考えて、そんな二人とは一緒にいられない。自分の心が持たないから。
結は大樹の気持ちを想像すると、大樹ではないが心が苦しくて苦しくてしんどかった。
「いやぁ〜、私はこの話を聞いて女という生物は強かだなぁと感心いたしましたぞ。」
と、気になる感じに結は話を続けた。
「どうも真白さんは、大樹様が自分の事を好きだという事を知っていたようなのです。」
…ピクッ!!?
「それは、どういう事ですの!?」
「……は???」
陽毬のこの見出しに、結とフジは食い付いてきた。
「どうやら、真白さんは大樹様ともう一人の幼なじみと選べない程に好きだったらしい!
だけど、同じ好きは好きでも恋愛対象に見ていたのは大樹様!驚きですな!!」
「…え?それが、どうしてもう一人の幼なじみを恋人として選んだんだ?」
と、興味津々に聞く、結。
「理由は簡単!最初に告白してきたのが、もう一人の幼なじみだったから。
真白さんは、三人の均等を崩したくなかったから、もう一人の幼なじみを受け入れて直ぐに、幼なじみである大樹君に報告したらしいですな。」
「…え?まさかの早いもの勝ち?
でも、いくら友情を壊したくないからって、恋愛対象じゃない相手と恋人になるか?分かんないなぁ〜?」
と、首を捻る、結。フジはショックで頭が付いてこれてない。
「理由は他にもありますぞ。恋愛であろうがなかろうが、真白さんにとって二人は同じくらいに好きで掛け替えのない存在らしく苦渋の判断だった様ですな。
そして、もう一つ。大樹様はあまりに理想的過ぎて、血筋も王族で帝王の親戚。あまりの格の違いに萎縮してしまったらしいのです。
それよりだったら、萎縮も引け目も感じなくていい気楽な相手の方がいいと思った様ですな。
それもあって、臆病風に吹かれた真白さんはもう一人の幼なじみの手を取った。
そんな真白さんの心情なんぞ知らない大樹様は、自分のどうしようもない複雑な気持ちをぶつけるように悪い遊びをする事で発散する様になった。
だがだが、大樹様も真白さんも両片思いなのは確かで、二人は何とも言えない悲壮感たっぷりの雰囲気になってますな。」
と、話し終わった所で
「何、それ!大樹様も真白も馬鹿みたい!
悲劇のヒーロー・ヒロイン気取りもいい所だわ。
その一番の犠牲者は、もう一人の幼なじみじゃない!
二人共、もう一人の幼なじみの事を馬鹿にしてる様にしか思えないわ!」
フジは、叶わない恋だと告白もせず、好きな気持ちを持て余し悪い遊びに耽る大樹。
二人の好意に気付きながらも、恋愛対象として好きなのは大樹なのに悲観的になって、恋してないのに気楽で居られるからともう一人の幼なじみに逃げた真白。
そんな二人に対し、もの凄く苛立ってしょうがなかった。
「そこは、俺もかなり苛立ってる。もう一人の幼なじみの事を何だと思ってるんだってな。
あまりに酷い裏切り行為だ。」
風雷もそれには憤りを感じた様だった。
「それなんですよなぁ。真白さんについては、本人はそんなつもりはないのでしょうが。
彼女の行動は人の心を弄んでると同じにしか感じないので、どうでもいいのですぞ。」
「確かに、無自覚にしろ…他に好きな人がいながら別の人と付き合うって倫理観疑うなぁ。もう一人の幼なじみの事を考えたら心が痛い。」
陽毬の話に、結はうんうん頷いている。
「そのもう一人の幼なじみさんは、まだ、大樹君と真白さんが両思いだという事を知らない様なので、もし、その事実に気付く事があれば…可哀想が過ぎる!…ヒィィ〜…!」
ここまで、話を聞くともう一人の幼なじみ君が気の毒でしかない。それに、真白に都合よく使われてる感じの幼なじみ君をみんな哀れに感じていた。
「…ですが、この問題は表面上の薄っぺらい部分しか調べてない状態なので、もしかしたら徹底的に調べれば、今の話とは全く別の真実が出てくる可能性も大いにあり得ますな。
ただ、真白さんともう一人の幼なじみ君は、私の被害には関わりが無さそうなのでこれ以上は調べれるつもりはありませぬ。」
そんな話を聞いていて、フジはある決心をしていた。
と、ショックを隠しきれないフジ。
結も手の届かない存在ながら、アイドルの如く大樹に憧れを抱いていたので陽毬の話を聞いて大樹のイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。…ショックが大きすぎる。
蓮も相当なクズだが、それを遥かに上回るクズofクズだ。…いや、結が知らないだけで蓮も大樹と近い事をしてる可能性もある。
ただ、大樹が理想的過ぎて、彼に夢を見てた結とフジは当分立ち直れそうにないくらいショックを受けている。
…あの鷹司 大樹が、そんなとんでもないクズだったなんて…人間不信になってしまいそうだ。
ピリついた空気の中、陽毬はジッと桔梗を見て場の雰囲気を少し壊す発言をした。
「しかし、桔梗君はプライベートと公共や公衆の場ではガラリと印象が変わりますな。」
と、大樹との出会いの話をしていた時、ショウと桔梗の事をふいに思い出し改めてそんな感想を持った。
すると、陽毬の話に乗っかって
「確かにな。桔梗はパブリックでは大人びていて紳士的なイメージが強いが、プライベートではショウのペットだな。」
と、風雷は何かを思い出したかのようにフッと笑い桔梗を見た。
………???
ぺ、ペット!?桔梗君が?
ちょっと意味が分からないんだけど。
結とフジ、ショウまでも何を言ってるのかと首を傾げている。
「上手い例えですな!確かにプライベートでの桔梗君はショウに対して、甘えん坊な仔猫であり、一緒にいれて嬉しいと尻尾を振り飼い主に尽くす事を喜びとする忠実な犬の様でもあります。」
なんて、詳しく例える陽毬に
「ハハ!分かる、分かる!」
風雷は、パンパンと手を叩きながら腹の底から笑っている。
「桔梗は自らに喜んで首輪を付けて、首輪に繋がれた鎖を無理矢理ショウに持たせてる感じがする。
ショウに命令されてこき使われたいドMなんじゃないかって思う事が多々ある。
ただ、残念ながらショウにはそんな我が儘な女王様になれる素質は無さそうだが。そこは残念だったな。」
桔梗の事をそう評する風雷に
「確かに、ショウにはもっともっと我が儘を言ってたくさん甘えてほしい。ショウが望むなら何でも叶えてあげたいけどさ。
……変態とかドMとか、やめてくれない?
全然、違うから。」
と、桔梗ニッコリ笑ってるのに、どうしてか桔梗を纏う空気がうすら寒い。
「自分の恋が上手くいかないからって、こっちに八つ当たりしてストレス発散するのは良くないと思うよ?」
笑みを浮かべたまま桔梗は、注意のように見せかけたちょっとばかりの仕返しをした。
すると、いつも冷静沈着な風雷の米神がピクリと動き
「……は?言っておくが、ハナが俺を好きな事は明らかだからな?
ただ、ハナは恋愛に疎いからそれに気付かせるのに時間が掛かってるだけだ。それは自分の計画の想定内の事だし上手くいってる。
お前こそ、下僕の如く何から何までショウの世話をしてるだけでなく、ペットよろしく四六時中ショウにベッタリだからな。」
そう言った後、軽薄な笑いを浮かべ
「ショウにとってはプライベートもプライバシーも何もあったもんじゃない。
いい加減にしてほしいとウンザリされてるんじゃないか?」
お返しとばかりに、あえて桔梗の感に触る様な事を言ってきた。
「…お前にだけは言われたくないよ。お前なんて、恋愛に対して初心なハナに様々に色仕掛けしてはハナの反応を見て興奮するイカれたドSだからね。こんな奴に好かれてしまったハナに同情するよ。」
風雷の額にビキッと青筋が浮かぶ。風雷の肌は陶器の様に白いので、くっきりと浮かぶ上がる青筋は目立っている。
「年中24時間、発情期の獣ヤローが!」
桔梗はニッコリ笑みを浮かべたまま絶対零度の視線を風雷に向けている。
「お前、それ大ブーメランだからね?
お前はまだ、恋人にもなれてないのに隙あらば既成事実を作ろうとしてるじゃないか。
もはや、犯罪者って言っても過言じゃないと思うけど?それに、色仕掛けして発情を誘発しようだなんて、まるで男娼のようだね。必死過ぎて可哀想に思えるよ。」
桔梗はスッと目を細めると
「しかも、普段は漢らしいハナに甘えるお前の姿は、付き合いたての彼女か新婚の嫁みたいに見えるよ。かわいいね?」
と、風雷に冷笑した。
「……お前、本当にムカつく。」
「それは、こっちのセリフだけど?」
二人は、バチバチ火花を飛ばすと…フ…と、いきなり姿が消えて、結達は
「…え?え?…き、消えたっ!?」
「どうなってるの?」
「ヒィィ〜〜っっっ!!!?険悪な雰囲気でいつ殴り合いの喧嘩をしてもおかしくない状況で、私達の目の前で、き…消え…えぇ〜〜〜っっっ!!!?」
と、パニックになっていた。
すると
「…あ、みんな!お、おちゅ…おちゅついて!」
ショウは、みんながパニックを起こしているのを見てパニックを起こし、みんなを落ち着かせる為に声かけて…噛んだ。…恥ずかしい。
「あ、あのね!多分、今二人は周りに被害を出さないように“異空間”っていう場所に行って…喧嘩してると思うよ?」
と、説明するショウに、みんなピタっと動きを止めショウに注目した。
「…異空間???」
不審気に、フジはショウに説明を求めるも
「…異空間…う〜ん、ちょっとよく分からないけど。二人が、殴り合いや魔道を使った喧嘩をする時、よく異空間って所に行って喧嘩してるよ?」
イマイチ、異空間というものが分からないが、今現在二人は別の場所で壮大な喧嘩をしている事だけは分かった。
そこに
「“異空間”ですとっ!!?
そんな所にも自在に行き来できるとは、もはや漫画やアニメの世界ですな。
ちなみに“異空間”とは、“異質な空間”でありまして、普通自分達が行く事のできない空間であります。ついでに、言えば“異空間”と“異世界”とは全く別物ですからな!間違えないように!!
異空間は、異世界同様数え切れない程存在しておりましてな。その空間によって特質や性質なども様々なのであります。
二人の様な信じがたい力を持った魔道士ならば、もしかしたら“その時の状態に合った異空間を見定め選び”行っているという事も考えられますな。」
と、ファンタジーアニメや漫画の知識を駆使して自慢気に陽毬は説明してきた。
「確かに、そんな事言ってたかも!
あと、私を待たせると可哀想だからって、こっちの世界とは時間の流れが違う異空間を選んでるんだって。」
なんて、言ってくるショウに結とフジは、あまりに現実味のない話にポカーン…である。
そして、ショウの説明が終わったあたりに急に桔梗と風雷は姿を現した。
「………でも、“首輪”と“鎖”か。よく、考えてみたら“有り”かもしれない。俺が、首輪をつけてショウが鎖を……いいかも!」
「…やめてくれ。俺の軽い冗談のせいで、親友の新たなイケナイ性癖の扉を開かせたくない。」
なんて、桔梗が恍惚とした表情で艶っぽいフェロモンをあちこちに飛ばしてるのに対し、風雷はコイツなら本当にやりかねない。頼むからやめてくれと頭を抱えていた。
喧嘩をしたというのに、無傷だし衣服の汚れさえない。そこを突っ込んだのが陽毬。
アニメや漫画の世界に入った様な気持ちになっていて興奮しているのだろう。目を輝かせ鼻息荒く
「魔道を使ったり殴り合いの喧嘩をしていたと思っていましたが、服も汚れてないどころか傷一つありませぬな。
もしかして、口喧嘩で場の雰囲気を壊さぬようにと気を使い何処か邪魔にならない所へ移動したのですかな?」
二人に、質問すると
二人は顔を見合わせ、…ック!と、笑うと
「もちろん、武術と魔道を使った喧嘩をしたよ。だけど、俺達は回復魔道と修繕魔道も使えるから、怪我もボロボロになった衣服もなおす事ができるからね。」
そう桔梗は説明してくれたが、そんな便利な事ができるのかと結とフジの頭の中には宇宙が広がっていた。
あまりに、現実離れし過ぎていて頭がついていかない。
「…それでも、喧嘩が終わるまでは、いっぱいいっぱい痛い思いしてるんだから…あんまり喧嘩してほしくないな。」
ショウは、悲しそうな顔をして桔梗と風雷に自分の気持ちを話した。
それに二人は顔を見合わせ、少し困ったような顔をすると
「…ショウ、心配かけてごめんね?もう、ショウの前で、風雷とは怪我をする様な喧嘩はしないよ?心配してくれて、ありがとう。」
…ん?と、何か引っ掛かる言い方だが、桔梗は心配するショウを優しく抱きしめ申し訳なさそうにしていたが、…なんだか、とても嬉しそうだ。
「ああ。確かに、ショウの前で喧嘩は良くないな。以後、気をつける。」
二人は、素直にショウに謝っていた。
だが、ここで
「…桔梗が、ペットのように甘える?風雷が、色仕掛け…??まっっったく、微塵も想像できないわ。だって、そんな姿なんて私、一度だって見た事ないもの!」
と、驚きを隠せないフジが口を開いた。
「…いや、こんなの知らなくて当たり前だからね?プライベートの話だし。」
そこへ、苦笑した桔梗がそれに答えた。
「そ、それを言うなら、私達だってプライベートで仲良しじゃない!なのに、私がそれを知らないなんてあり得ないわ!魔道の事だって、そう!
それに、魔道を使えるだけでなくて、そんなとんでもない魔道士だなんて!!どうして、教えてくれなかったのっ!?酷いわっ!!」
と、興奮して怒りまくっているフジに
「それは、ごめんね?だけど、こういう事って心から信頼してる人にしか話せなくない?無闇に人に話す事ではないし。何でも話し合える相手って限られてると思うんだ。フジだって、そうじゃない?フジはどんな事も包み隠さず俺達に話してる?違うでしょ?」
ニコっと可愛らしい笑みを浮かべ、桔梗はフジを諭すようにそう言ってきた。
「確かに、親に言えない事も親友には言えたり。親友に言えない事も親友を良く知る人物に言ったり。
だから、いくら親友と言えど知らない事だってある。
どんなに仲が良くても、知らない事だって多いはずだ。誰にだって、少しくらいは秘密はあると思う。逆に自分の全てを曝け出して話す奴がいたら頭がおかしいと考えてしまうな。」
そこに、風雷の言葉も加わって更に説得力が何倍にもパワーアップし、フジは確かにそうだと丸め込まれ納得したようだった。
素晴らしいコンボだ。あのフジを言いくるめてしまうとは!さすがという他ない。
だが、桔梗と風雷は言葉にこそ出さなかったが
“フジとは幼少期からの厄介な知り合い程度”
“できるなら、関わり合いたくない面倒な顔見知り”
と、思っている事を結と陽毬は何となく察し、少しだけフジを不憫に思うのだった。ミジンコほどに少しだけどね。
「…それにしてもよ!大樹様の話が本当だとしても信じがたい話だわ。」
フジは、大樹のクズな愚行を聞き頭では理解したつもりでも、信じられない…いや、信じたくないという複雑な気持ちに苛まれていた。
…まさか…あの大樹様に限って、そんな…
けど、桔梗と風雷が嘘をつくとも思えないわ。
フジは、頭の中から陽毬の証言をすっぽり弾き出して(失礼である)モヤモヤしていた。
そんな、フジに追い討ちをかけるように
「白鳥 真白(しらとり ましろ)嬢という、フジさんと並ぶ超美少女がおりますな?」
白鳥 真白!この御令嬢も有名だ。
今、未婚の御令嬢の中でフジを筆頭とする【三大美女】というものが存在している。
その名の通り、三人が飛び抜けて美しい。彼女達に敵う美貌はないだろうと言われる程の美女達である。
もちろん、それは男性陣にも言える事で【五大美男】なるものもある。
そこには、何故か桔梗と風雷の名前はない。
理由は簡単。彼らは一度もこの国や地域などの社交界などに参加した事がないから。彼らの存在自体、知らなくて当然であろう。
その五大美男の中には、当然のように大樹がいる。もちろん、結の婚約者である九条 蓮もその中に入っている。
話は戻るが
業界でも、我が儘な“傲慢女王様”と言われているフジは言わずもがな。説明は要らないだろう。
白鳥 真白は、現在中学三年で大樹と同い年である。
彼女は、白い胡蝶蘭を思わせるような容姿で清楚でいて清純。それでいて上品で優しく立ち振る舞いも美しい美少女だ。
「それが、どうしたの?あの二人とこの私と美貌が同レベルなんて言ってる人達はどう考えたって節穴だと思うわ。だって、あの中でも私がダントツで美しいもの。」
と、真白達二人と自分が同レベルの美少女だと評されているのが納得いかず気に入らないフジである。
タイプは違えど、やっぱり真白達二人とフジは同じくらいの美人だと思う、結と陽毬だ。
「大樹様のターゲットになってしまいましたのでな。私にくる被害を最小限に抑えたいと、ショウと桔梗君に協力してもらい、大樹という人間を調べていたのです。そこで、発覚した大きな事がありましてな。
それが、白鳥 真白の存在であります。」
「その白鳥 真白がどうかしたの?
また、裏の顔があるとかそういう話なら、私は白鳥 真白には興味がないから別に聞かなくて十分よ。」
と、げんなりした顔でフジは真白には興味がないから聞きたくないと制した。
「いやいや、白鳥さんはとても素晴らしい女性らしいですぞ?」
「…なら、どうして白鳥 真白の話を出してきたの?関係ないじゃない。」
鬱陶しそうに顔を顰めているフジに
「いやいやいやいや!関係ありますぞ?
おそらく、私の見る限りではフジさんは、桔梗君や風雷君を理想の男性と感じておりどちらかと恋人になりたいと考えておられるのでしょう!二人こそ、自分に相応しいと。ですが、残念な事に二人には意中の女子がいて脈拍ない。
そこで、白羽の矢が立ったのが鷹司 大樹!
桔梗と風雷がどうしてもダメなら、次に自分に相応しい男子は大樹君と思っている筈。」
言い方はムカつくが、確かにそんな感じではあるとフジはムスッとしながら陽毬の話を聞いていた。
「そんなフジさんに教えておこうかと思いましてな。」
「……?」
「鷹司 大樹君は、白鳥 真白さんが好きなのであります!」
と、言う陽毬の話を驚愕の表情で見て言葉を失っていた。
「大樹様と真白さんは、いわゆる幼なじみでしてな。幼い頃から、大樹君はお淑やかで優しい真白さんに淡い恋心を抱いていたそうですな。
ですが、真白さんは“もう一人の幼なじみ”が好きな事に気づき、告白もできずモンモンする日々が続き…。
ついに、大樹様が中学進学と同時に真白さんともう一人の幼なじみ君が付き合う事になり、幼なじみである大樹様に報告。
それからですな。大樹様は、どうしようもない気持ちを誤魔化すかの様に徐々に悪い遊びをする様になった。それが、どんどんエスカレートして今があるという状態でしょうか?」
なんて、陽毬の説明を聞き、大樹の気持ちを考えると…完全なる悪者とも思えなくなってしまった。だからと言って、どんな理由があろうと大樹のしている愚かな行為は絶対に許されない。
「もちろん、大樹君が悪さしてるなんて知りもしない真白さんと幼なじみ君は、今も大切なお友達、もしくは親友と信じ友好がある様ですな。何とも切ない。」
普通に考えてキツイ!
好きな人ともう一人の幼なじみ君。二人が恋人同士である事実をまざまざと見せつけられながら二人と交友関係を続ける。
好きな人と幼なじみ君が、目の前でイチャイチャしてても、昔から仲のいい友達として接しなければならない。…いやいや!ムリ!耐えられない!
自分が大樹様の立場だったら、その場から逃げ出して大泣きする!そして、そんな二人を見てられなくて二人から距離取っちゃうなぁ。
普通に考えて、そんな二人とは一緒にいられない。自分の心が持たないから。
結は大樹の気持ちを想像すると、大樹ではないが心が苦しくて苦しくてしんどかった。
「いやぁ〜、私はこの話を聞いて女という生物は強かだなぁと感心いたしましたぞ。」
と、気になる感じに結は話を続けた。
「どうも真白さんは、大樹様が自分の事を好きだという事を知っていたようなのです。」
…ピクッ!!?
「それは、どういう事ですの!?」
「……は???」
陽毬のこの見出しに、結とフジは食い付いてきた。
「どうやら、真白さんは大樹様ともう一人の幼なじみと選べない程に好きだったらしい!
だけど、同じ好きは好きでも恋愛対象に見ていたのは大樹様!驚きですな!!」
「…え?それが、どうしてもう一人の幼なじみを恋人として選んだんだ?」
と、興味津々に聞く、結。
「理由は簡単!最初に告白してきたのが、もう一人の幼なじみだったから。
真白さんは、三人の均等を崩したくなかったから、もう一人の幼なじみを受け入れて直ぐに、幼なじみである大樹君に報告したらしいですな。」
「…え?まさかの早いもの勝ち?
でも、いくら友情を壊したくないからって、恋愛対象じゃない相手と恋人になるか?分かんないなぁ〜?」
と、首を捻る、結。フジはショックで頭が付いてこれてない。
「理由は他にもありますぞ。恋愛であろうがなかろうが、真白さんにとって二人は同じくらいに好きで掛け替えのない存在らしく苦渋の判断だった様ですな。
そして、もう一つ。大樹様はあまりに理想的過ぎて、血筋も王族で帝王の親戚。あまりの格の違いに萎縮してしまったらしいのです。
それよりだったら、萎縮も引け目も感じなくていい気楽な相手の方がいいと思った様ですな。
それもあって、臆病風に吹かれた真白さんはもう一人の幼なじみの手を取った。
そんな真白さんの心情なんぞ知らない大樹様は、自分のどうしようもない複雑な気持ちをぶつけるように悪い遊びをする事で発散する様になった。
だがだが、大樹様も真白さんも両片思いなのは確かで、二人は何とも言えない悲壮感たっぷりの雰囲気になってますな。」
と、話し終わった所で
「何、それ!大樹様も真白も馬鹿みたい!
悲劇のヒーロー・ヒロイン気取りもいい所だわ。
その一番の犠牲者は、もう一人の幼なじみじゃない!
二人共、もう一人の幼なじみの事を馬鹿にしてる様にしか思えないわ!」
フジは、叶わない恋だと告白もせず、好きな気持ちを持て余し悪い遊びに耽る大樹。
二人の好意に気付きながらも、恋愛対象として好きなのは大樹なのに悲観的になって、恋してないのに気楽で居られるからともう一人の幼なじみに逃げた真白。
そんな二人に対し、もの凄く苛立ってしょうがなかった。
「そこは、俺もかなり苛立ってる。もう一人の幼なじみの事を何だと思ってるんだってな。
あまりに酷い裏切り行為だ。」
風雷もそれには憤りを感じた様だった。
「それなんですよなぁ。真白さんについては、本人はそんなつもりはないのでしょうが。
彼女の行動は人の心を弄んでると同じにしか感じないので、どうでもいいのですぞ。」
「確かに、無自覚にしろ…他に好きな人がいながら別の人と付き合うって倫理観疑うなぁ。もう一人の幼なじみの事を考えたら心が痛い。」
陽毬の話に、結はうんうん頷いている。
「そのもう一人の幼なじみさんは、まだ、大樹君と真白さんが両思いだという事を知らない様なので、もし、その事実に気付く事があれば…可哀想が過ぎる!…ヒィィ〜…!」
ここまで、話を聞くともう一人の幼なじみ君が気の毒でしかない。それに、真白に都合よく使われてる感じの幼なじみ君をみんな哀れに感じていた。
「…ですが、この問題は表面上の薄っぺらい部分しか調べてない状態なので、もしかしたら徹底的に調べれば、今の話とは全く別の真実が出てくる可能性も大いにあり得ますな。
ただ、真白さんともう一人の幼なじみ君は、私の被害には関わりが無さそうなのでこれ以上は調べれるつもりはありませぬ。」
そんな話を聞いていて、フジはある決心をしていた。