美形なら、どんなクズカスでも許されるの?〜いや、本当ムリだから!調子乗んなって話だよ!!〜
大樹の幼なじみ
テスト勉強期間、中日。
この日、社交界が行われていた。集まりは、学生のテスト期間など関係がないので。
フジはいつもの如く、真っ赤なドレスに身を包み取り巻き達を引き連れ颯爽と歩いていた。
気が強く傲慢さが滲み出ているが、圧巻の美貌で会場中の注目の的である。
フジは、いつもと違い目線だけでキョロキョロと会場中の様子を伺っていた。そうしていると陽毬の姿を見つけた。
誰にも気が付かれないよう隅っこに身を隠す様に潜んでいる。
安っぽく流行りから外れたドレスはお金の無さを表していて、何よりも化粧もドレスもアクセサリー髪型まで陽毬に似合っていなかった。
どうにかすれば、もう少しは見られる様になるだろうに。色々と台無しだ。
陽毬の所で働いてる侍女や格専門の人達は一体何をしているのか。どうして、こんなにも適当な仕事ができるのかと眉を顰めた。
そもそも大樹様は騙しているとはいえ、陽毬と恋人同士でデートにも行ってるくらいなのに陽毬に合ったドレスの一つもプレゼントさえしてないのだろうか?
偽物とはいえ、もう半年も付き合いがあるのに?
そして、フジはどうしても話を聞いてみたい相手がいた。自分同様に人集りができていて見つけやすくて助かる。
「あら、久しぶりね。元気してたかしら?」
その人集りの中心にいるのは、当然ながらの大樹と真白。もう一人の幼なじみの姿は見えない。見えないというより知らないので見つけようがない。
「私個人で気になる事があって…そういえば、二人は幼なじみなんですって?
どこかの噂好きの御令嬢から聞いたわ。」
と、フジが聞くと
「結構有名な話だと思うから、だいたいの人達は知っていると思うよ。」
むしろ、今まで色々と関わる機会があったにも関わらず、誰もが知っているような内容すら知らない事にそこにいた人達は驚き苦笑いしていた。
おそらく、自分にしか興味のないフジは人の事なんて気にしない。だから、知らなくても仕方ないか。さすが、傲慢女王様。
ブレないなとある意味、みんな感心する。
「そんなのどういでもいいけど、もう一人の幼なじみも一緒に来てるのよね?どなた?」
と、目線だけでチラチラ周りを見渡すフジに
「今日は、テスト週間で勉強したいみたいで、今回は残念ながら、ここには来ていないの。」
とても残念そうに眉を下げる白鳥 真白。
「そう。三人とても仲のいい幼なじみだから、てっきりみんなで社交界に参加してるか、社交界に来ないでテスト勉強してるかしてると思ってたわ。」
なんて、なんか突っかかる様な言い方をするフジに
「僕と真白は、一日くらいテスト勉強しなくてもテストに差し支えないけど、“ウダツ”は期間中一生懸命勉強しなければテストがキツいんだ。本当は一緒に社交界に来たかったけど、仕方ないよ。」
大樹は、そんな事言ってたけど
「大切な幼なじみなら、社交界より幼なじみに勉強を教えてあげる事を優先するべきなんじゃないかしら?」
なんて、フジからのごもっともな意見が飛び出してきて、みんな目をまん丸くしている。
「それとも、大樹様と真白嬢が心置きなく楽しむ為だけに、わざと二人にとって邪魔なウダツ一人残して二人は楽しもうとしてるのかしら?」
な〜んか、毒のある言葉に大樹と真白は不愉快な気持ちになる。
言葉は悪いし、常識のある人なら、そうだろうと思っていても心の中だけに留めるだろう。フジの様にこんなズバズバと毒吐いてこない。
だが、周りもフジの話に確かにそうだと同調していた。
「フジ、それも違うよ。僕と真白は、家の事情もあって今回の社交界に参加させてもらってる。事情がなかったら、ウダツと一緒にテスト勉強してるよ。」
と、大樹が弁明すると、日頃の大樹の評価もあり周りも大いに納得していた。
「ああ、あと気になってたんだけど。大樹様と真白は両思いなのに、どうして恋人にならないの?」
なんて、爆弾発言をしてきた。それには、大樹も真白も心臓が止まるんじゃないかって程、驚き凍り付いていた。
「い、いきなり、何を言い出すんだ?僕と真白は幼なじみだし、僕には彼女もいるんだよ?
真白にだって彼氏がいるのに、勝手な憶測で物事を言わないでほしいよ。他の人達に勘違いされるだろ?」
大樹は慌てた様子で、フジを咎め徐々に冷静さを取り戻していった。
そんな大樹の話なんてちっとも聞いてない自分勝手なフジは、大樹の直ぐ隣にいる真白を見ていた。
大樹が“彼女がいる”と発言した時、動揺した顔をしていて目が泳いでいた。
次に“真白にだって彼氏がいる”と言われた時、何か後ろめたい事でもあるのか顔は笑っているが彼女を纏う空気がどんより重くなったように感じる。
「すぐ隣に、恋する人がいるのにおかしいわ。どうして恋してる者同士が恋人にならないで、好きでもない相手と恋人になるのかしら?
私には理解できないわ。」
と、フジが言った所で
「……へ?」
フジの後ろから、まの抜けた声変わりもまだの男子の声が聞こえた。
フジの後ろの人物を見て、真白は大きく目を見開き青ざめ、大樹はその人物と何故か陽毬を交互に見て焦っていた。
フジは二人のもう一人の幼なじみ“ウダツ”であろう人物と目処をつけ、後ろを振り返った。
そこには、驚愕で糸目の細い細い目を見開き大樹と真白を見ている背の小さい冴えない男子が立っていた。色白だが、なんだかこの国の肌の白さとは違う。キラキラ金髪は自然の色をしているのでハーフか外国人だろう。
その隣には、高身長で白金髪にピンク色と水色のアッシュの入った髪に、クリアなスカイブルーの目のチャラいイケメンが立っている。
この男子は五大美男子の中の一人、【鷹司 大地(たかつかさ だいや)】だ。鷹司と聞いてご察しがあると思うが、大樹とは年の近い従兄弟同士である。
「……どうなってんだ、これ?」
大地はスッと目を細めると、大樹と真白に説明を求めた。だが、それを制した人物がいた。
「どうもこうもないわ。何があったか分からないけど、どうもあなた達は何かで拗れてしまってるようだわ。両思い同士、きちんと話し合う事をお勧めするわ!
そして、私はあなた達に対してとても気分が悪いからお暇するわ!」
フジは大層御立腹の様で、美しいお顔をグシャリと歪め
「行くわよ!」
と、ウダツと大地の腕を掴み、勢いよくズンズンと何処かへ行ってしまった。その途中で
「あんたもよ!陽毬っ!!」
有無も言わさず、陽毬も連れて勢いのまま会場を出て行ってしまった。
会場では、みんなポカーンである。
そして、何事かとザワつき始めた所でハッとした大樹が、その回転の早い頭をフルに使って
“勘違いされているみたいだ。後で、誤解を解かなければ”
と、いう趣旨を周りの人達に伝えて、“自分の友達が勘違いにより騒ぎを起こしてしまった”事に対し深くお詫びしていた。
大樹の機転と人望のおかげで
“思春期には勘違いなんて数え切れないほどあるもんだ”
“喧嘩する程仲がいいと言いますもんね”
“それに、人の話を聞かない自己中の我が儘女王様の事だ。自分勝手に解釈して自分の妄想で物を言ったんでしょう。”
“いやはや、何とも…元気がいいと言いますか、何と言いますか。”
なんて、この騒動はフジが悪いという事で決着がついたようだ。やがて、さっきまでの騒動は大した事がなかったかの様な雰囲気になり、やがて何事もなかったかのように社交界はいつも通りを取り戻していた。
そして、微妙な雰囲気になってしまった大樹と真白も目配せで、二人きりになれるバルコニーへと移動した。
大樹は、バルコニーの手すりに寄り掛かると
…ハァァ〜〜と、疲れ切った深いため息を吐き
「フジ嬢には困ったもんだね。どこから、そんなデマ聞いてきたのか分からないけど、本当いい迷惑だったよ。」
そう言って、真白に優しく笑いかけた。
「…私と大樹がよく一緒にいるから勘違いした令嬢か子息あたりに、妙な情報でも聞かされたのかもしれないわ。
フジ様は良くも悪くもハッキリした方だから。」
困ったように笑い首を傾げる真白は、全体的に色素が薄い事もあり儚げで夜空の白い月がとても似合っていた。
そんな、真白に見惚れた大樹は
「…綺麗だ…」
と、思わず口に出し、ハッと我にかえると口元に手を当て顔ごと横を向いた。顔を赤くしている姿を見て、真白はトクンと胸が鳴った。
…もしかして…これは…!?
流行る気持ちを抑え、真白はキュッと薄い唇に力を入れると
「…すき…」
風の音に消え入りそうな声で自分の気持ちを吐き出した。そんな小さな小さな声ですら大樹の耳には届いたようだ。
「…え?」
驚いたように大きく目を開き真白を見る。
真白は下を俯き、下唇を噛み苦しそうにグッと眉間に皺を寄せると
「…ウダツもいるのに、いけないって思ってるのに。考えるのは、いつもあなたの事ばかり。
ウダツが告白してきた時、私はここで断ってしまったら私達三人の友情にヒビが入ると思ったの。私達三人の関係性が壊れる事を恐れた私は……ウダツの事を恋愛対象として見てなかったのに、いけないと思いつつもウダツの気持ちを受け入れてしまったの。」
ポロポロと大粒の涙を流しながら大樹を見てきた。
涙が月明かりに照らされキラキラと淑やかな光を放ち、泣いている姿だというのに静かに涙を流す真白は美しかった。
真白の消え入りそうに儚い姿に、思わず大樹はその華奢な体を抱き寄せた。
「…僕もだ!」
と、言った大樹の言葉に、真白は驚きの表情を浮かべ頬を赤く染めた。
「僕は、幼い頃から君が好きだった。だけど、ウダツも僕同様君の事が好きだって気付いてた。
その内、ウダツが真白に告白をするという相談を受けて、苦い思いでウダツの話を聞いてアドバイスまで送った。それから直ぐに、君達は恋人になってしまった。
だから、この気持ちはずっと心の中にしまっておくつもりだったんだ。」
なーんて、話をバルコニーの上、ルーフバルコニーから覗き込み盗み聞きしていた団体が…!
フジや陽毬達である。
大樹と真白がバルコニーに来る前に遡るが
大樹と真白に物申した時の二人の態度が気に食わなくて頭にきたフジは、勢いに任せウダツと大地、陽毬を無理矢理連れてルーフバルコニーに来たのだった。
そこで、陽毬は自分の知り得る限りの情報“大樹と真白、ウダツ”の関係性についてフジ達に話した。それで、フジは大樹と真白に対して怒っているのだと。
話を聞くまで、フジを警戒していた大地も徐々に警戒を解き、親友のウダツに関わる事なので真剣に耳を傾けていた。
フジは興味がなく全く気づかなかったがウダツと大地は、フジ達と同じ中学校で同い年だったらしい。その事実をフジは今、知ったようだった。
それに、苦笑いするしかない陽毬、ウダツ、大地だ。ブレないなぁ。
猛烈に怒っているフジに
「自分は、真白さんを信じたいでヤス。」
と、ほんわかした雰囲気でウダツはそう言ってきた。
「何を馬鹿な事言ってるの!あんた、馬鹿にされてるのよ!?」
と、ウダツを怒鳴り散らすフジに
「オイラの為に、たくさん怒ってくれてありがとう。フジさんはとても心の優しい人なんでヤスね。」
ウダツは、ニッコリと笑ってフジにお礼を言ってきた事に、大地以外みんなビックリしてしまった。
…え?え?
お礼言った?この人…
しかも、優しいって…!?
フジは、生まれてこのかた心から“優しい”なんて言われた事がなく困惑した。陽毬も、色々と困惑しかない。
「…と、当然よ!私は優しいの!」
テンパりすぎて、フジは意味不明な虚勢を張って踏ん反り返って見せた。
「だけど、もしその話が真実だったとしても、自分の目や耳でしっかりと確かめてからじゃないと受け入れられないでヤス。
もし、噂だけを鵜呑みにして、噂と真実が違っていた時、相手をとても傷付ける事になるでヤスから。」
と、言ってのけるウダツは、容姿こそ冴えないが中身は誰にも負けないくらい超絶イケメンだった。
真剣に、そんな事を話してくるウダツについ、フジのハートがギュンッ!と、した。
…な、なに!?
今まで感じた事の無いこの感覚は…!
胸が…胸が、熱い…ドキドキが止まらないわ。
気のせいか、全身火照ってる感じがするわ…風邪かしら?
と、フジが自分はどうしてしまったのかと焦っている時だった。
…ガチャ!
下のバルコニーの扉が開く音がした。
誰だろうと、何も考えず何となく下を見下ろす、フジ達。
…ギョッ!
そこに来たのは、まさかの大樹と真白だった。
思わず、みんな口を塞ぎ下にしゃがみ込み隠れた。
だが、空気を読めないウダツが、柵から身を乗り出し呑気に二人に声を掛けようとしていたので、フジと大地は内心“バカヤロー”と叫びながら、二人は大慌てでウダツの口を塞ごうと素早く動いた。
だが、大地よりもフジの方が若干反応が早かったらしくウダツの口を塞いだまま抱き抱えてサッと床に座りこんだ。
年頃の女子が男子を抱き抱えるなんてと思う所だが状況が状況なだけに、そこはウダツ以外誰も何も思わなかった。
ただ、ウダツが下手な動きをしないように、そのまま押さえ込んでいてくれ!と、いう気持ちだ。もちろん、フジもそのつもりでウダツを抱き抱え口を塞いだまま柵の隙間から下を覗き見ていた。
そして、ゆっくり静かに始まる大樹と真白の会話。
最初、フジの事を悪く言ってるのが聞こえ、
カーッ!と、なったフジが文句を言おうと立ち上がろうとした。が、それを陽毬と大地で押さえ込み二人でシーッと、静かにするよう促した。
思いの外、ウダツの小さな体がフジの体にフィットし、何だか心地いい癒しを感じたフジは、ウダツを抱き抱え口を塞いだまま下の二人の会話に耳を澄ませる。
すると、聞こえてくるのはお互いが好きで好きで仕方ないと聞こえる甘ったるい言葉だけ。
その言葉を聞き、ウダツは…え?と、いう感じに細い目を見開いている。その様子に、親友の大地がウダツの肩をポンポンと優しく叩いた。
そんな親友にウダツは、大丈夫だよと笑みで返す。大地は複雑そうに笑いながら、もう少し様子を窺ってみようと促す。
聞き耳とか卑怯だとは思うが、二人はきっと自分には話せない。だけど、自分が知らなければならない事だと感じたウダツは、聞き耳をする事に申し訳ないと心を痛めつつ大地に頷いて見せた。
そこで、聞こえる真実。
更には
「……実は、もう一つ隠してた事があるの。」
「…え?」
「…ウダツには、本当に可哀想な事してるって思ってるし罪悪感しかないけど。…ウダツと付き合う事で、大樹が少しでも私を見てくれたらって…。大樹に嫉妬してほしくて…私っ!
…本当に酷い女だわ…。
でも、後からその事実を知っても優しいウダツなら、きっと分かってくれるって思って…!」
なんて、打ち明ける真白に、大地のみならずフジや陽毬も
…コイツ、最悪だ!
ウダツが優しいから、何しても許されると思ってるのか。
ウダツの事を一体何だと思ってるんだっ!?
と、怒りをむき出しにしていた。
「…そっか…。実は俺も君に隠している事があるんだ。」
「………?」
「真白は、容姿だけでなく心も透明で綺麗だから、自分が真白に告白してしまったら真白が汚れてしまう気がして。…本当に本当に、君の事が大切だったんだ。
そして、うかうかしている内に真白とウダツが恋人になってしまった。だから、行き場のない真白への想いを誤魔化す為に、色んな女性達と体の関係を持っていた。」
苦々しく悔やむように大樹は真白に打ち明ける。
「…そんな!ごめんなさい、私のせいだわ。
私が間違った選択をしたせいで、大樹にそんな辛く苦しい思いをさせていただなんて…。」
真白は大粒の涙をポロポロ流しながら心苦しそうに謝った。
「…真白のせいじゃないよ。これは、全部僕の心の弱さが招いた事だから。」
そこで、真白は…フフ!と、小さく笑うと
「…私達って、似たもの同士なのかもしれない。」
なんて言ってきた。
「…どういう事?」
「臆病者同士って事。自分の気持ちに素直になってたら、こんな事にはならなかった。」
「…ああ。確かにそうだ。俺達は似たもの同士だね。」
二人はお互いに、遠回りしちゃったねなんてクスクス笑いあっている。
そんな会話を聞いて、フジや陽毬、大地は、
なんだ、そりゃ!
すっごい、薄ら寒いんだけど!
と、似たような事を考えていて、…ゾワワッと鳥肌が立ってしまった。…キモッ!
「…あ、でも。ウダツには、心苦しい話だけど大樹にとっていい話もあるのよ?」
イタズラっぽく笑う真白を不思議そうに見てくる大樹に
「…ウダツと恋人同士ではあるけど、私…清い体のままなのよ?」
と、言ってきた。
「…え?付き合って、2年くらい経つよね?」
驚く、大樹に
「…大樹が中学に入学した頃、私とウダツは恋人になったけど。その当時、ウダツは小学5年生よ?だからってのもあるのかな?
…けど、やっぱりキスやそれ以上の事は好きな人とって思ってウダツとは一度もないわ。
それに、恋人のように手を繋ぐ事も抱き締め合うって事すら許さなかった。
…ウダツには酷い事をしてるって心が痛んだけど…どうしても無理だったの。」
なんて、真白は告白してきた。きっと、その事に大樹は凄く驚いたし嬉しかったに違いない。
「…ウダツと恋人だった過去をなかった事にしたい…っっっ!!!悔やんでも悔やみきれない!」
「……ッ!!?それは、僕も同じだ!君への気持ちを誤魔化す為だけに関係を持ってきた女性達との事をなかった事にしたいよ!悔いても、最低な過去は変えられない。」
もう、これ以上はウダツをはじめ、陽毬やフジ達も聞いてられなかった。
ウダツの気持ちを考えれば、なんて残酷で酷い話なのだろうと心が切り裂かれるくらいの痛みを感じた。
ウダツは、かなりのショックを受け泣きたくなったが、みんながいる手前絶対に泣けないと涙を溢さないよう上を向いて耐えていた。
泣きたくても絶対に泣くものかと耐え震えるのを直接体に伝わってきたフジは、思わずウダツを抱き締める腕に力がこもった。
そして、大樹と真白が両思い。三人の友情が崩れるのを恐れ、恋愛的に好きではないのにウダツの気持ちを受け入れてしまった真白。
その事実を受け止めるように、ウダツはギュッと握り拳を作り夜空を見上げて自分なりに考えをまとめていた。
「…さ。二人の気持ちは分かった事でヤスし、これ以上ここに居るのは野暮でヤスよ。」
と、今一番辛い筈のウダツは笑顔で、ここから出ようと声をひそめ促してきた。
みんなはウダツに従って、ルーフバルコニーから出た。暗い外から明るい中に入って気付いた事。
それは、フジと陽毬が顔を真っ赤にしてボロボロと泣いていた事。
それに驚いたウダツと大地は、それぞれハンカチを出すと
大地は「大丈夫?」と、心配そうに声を掛けて陽毬にハンカチを差し出してくれた。
ウダツは、身長の高いフジにつま先立ちをしながらフジの涙を拭いてくれていた。
陽毬が泣いてる事に驚いたフジは、ギョッとして
「どうして、陽毬が泣いてるのよ!」
と、聞いた。すると、超イケメンからハンカチを差し出されアワアワパニックになっていた陽毬はピタリと動きを止め俯くと
「…騙されてるって分かってるのに、好きになってしまったってヤツ。分かってても、あんなに優しくしてもらったら勘違いもしますぞ!!
…アレが、とんでもないドクズのドブカスヤローだって知ってたのに!分かってた筈なのに!!…なのに、悔しいでありますよぉぉ〜〜〜!!!」
陽毬は、騙されないぞと意気込んでおきながら、すっかり大樹の事が好きになってしまった自分の馬鹿さ加減が悔しくて泣いた。
「…大樹君はとても魅力的でヤスからね。」
自分も辛い筈なのに、陽毬を気にかけ労わるウダツ。そんなウダツの姿に、フジの胸は熱くなり涙がどんどん溢れる。
「ウダツさんは、馬鹿よ!自分の方が泣きたいくせに。自分より他人の事ばかり心配して!
もっと、自分を大切にしなさいよ!もっともっと、自分に甘えなさい!!馬鹿!馬鹿っ!!」
と、床に膝をつくのも躊躇わず、フジはウダツを抱きしめ泣いた。誰もが絶賛する美貌も台無しに泣いた。
そんなフジに、ウダツは少し驚いたが小さく笑みを浮かべ、そっとフジの肩に手を触れると
「…オイラや陽毬さんの為に、フジさんが泣いてくれるからオイラの悲しみなんてどこかに吹き飛んでしまったみたいでヤス。
…ありがとう、フジさん。フジさんのおかげでオイラの心は癒されたでヤスよ。」
なんて言われて、フジの胸はドッキューーーーーン!!と、何かに射抜かれ、ドキドキが止まらなくなってしまった。
それに、ウダツと触れていると心が落ち着いて気持ちがいい。離れがたい。
「…グスッ!でも、今吹っ切るキッカケができてラッキーですぞ!もう、あんなドクズに靡く事などありませぬ!」
陽毬も、大樹と真白の相思相愛っぷりを見聞きして、大樹に対する気持ちの決着がついたようだった。
この日、社交界が行われていた。集まりは、学生のテスト期間など関係がないので。
フジはいつもの如く、真っ赤なドレスに身を包み取り巻き達を引き連れ颯爽と歩いていた。
気が強く傲慢さが滲み出ているが、圧巻の美貌で会場中の注目の的である。
フジは、いつもと違い目線だけでキョロキョロと会場中の様子を伺っていた。そうしていると陽毬の姿を見つけた。
誰にも気が付かれないよう隅っこに身を隠す様に潜んでいる。
安っぽく流行りから外れたドレスはお金の無さを表していて、何よりも化粧もドレスもアクセサリー髪型まで陽毬に似合っていなかった。
どうにかすれば、もう少しは見られる様になるだろうに。色々と台無しだ。
陽毬の所で働いてる侍女や格専門の人達は一体何をしているのか。どうして、こんなにも適当な仕事ができるのかと眉を顰めた。
そもそも大樹様は騙しているとはいえ、陽毬と恋人同士でデートにも行ってるくらいなのに陽毬に合ったドレスの一つもプレゼントさえしてないのだろうか?
偽物とはいえ、もう半年も付き合いがあるのに?
そして、フジはどうしても話を聞いてみたい相手がいた。自分同様に人集りができていて見つけやすくて助かる。
「あら、久しぶりね。元気してたかしら?」
その人集りの中心にいるのは、当然ながらの大樹と真白。もう一人の幼なじみの姿は見えない。見えないというより知らないので見つけようがない。
「私個人で気になる事があって…そういえば、二人は幼なじみなんですって?
どこかの噂好きの御令嬢から聞いたわ。」
と、フジが聞くと
「結構有名な話だと思うから、だいたいの人達は知っていると思うよ。」
むしろ、今まで色々と関わる機会があったにも関わらず、誰もが知っているような内容すら知らない事にそこにいた人達は驚き苦笑いしていた。
おそらく、自分にしか興味のないフジは人の事なんて気にしない。だから、知らなくても仕方ないか。さすが、傲慢女王様。
ブレないなとある意味、みんな感心する。
「そんなのどういでもいいけど、もう一人の幼なじみも一緒に来てるのよね?どなた?」
と、目線だけでチラチラ周りを見渡すフジに
「今日は、テスト週間で勉強したいみたいで、今回は残念ながら、ここには来ていないの。」
とても残念そうに眉を下げる白鳥 真白。
「そう。三人とても仲のいい幼なじみだから、てっきりみんなで社交界に参加してるか、社交界に来ないでテスト勉強してるかしてると思ってたわ。」
なんて、なんか突っかかる様な言い方をするフジに
「僕と真白は、一日くらいテスト勉強しなくてもテストに差し支えないけど、“ウダツ”は期間中一生懸命勉強しなければテストがキツいんだ。本当は一緒に社交界に来たかったけど、仕方ないよ。」
大樹は、そんな事言ってたけど
「大切な幼なじみなら、社交界より幼なじみに勉強を教えてあげる事を優先するべきなんじゃないかしら?」
なんて、フジからのごもっともな意見が飛び出してきて、みんな目をまん丸くしている。
「それとも、大樹様と真白嬢が心置きなく楽しむ為だけに、わざと二人にとって邪魔なウダツ一人残して二人は楽しもうとしてるのかしら?」
な〜んか、毒のある言葉に大樹と真白は不愉快な気持ちになる。
言葉は悪いし、常識のある人なら、そうだろうと思っていても心の中だけに留めるだろう。フジの様にこんなズバズバと毒吐いてこない。
だが、周りもフジの話に確かにそうだと同調していた。
「フジ、それも違うよ。僕と真白は、家の事情もあって今回の社交界に参加させてもらってる。事情がなかったら、ウダツと一緒にテスト勉強してるよ。」
と、大樹が弁明すると、日頃の大樹の評価もあり周りも大いに納得していた。
「ああ、あと気になってたんだけど。大樹様と真白は両思いなのに、どうして恋人にならないの?」
なんて、爆弾発言をしてきた。それには、大樹も真白も心臓が止まるんじゃないかって程、驚き凍り付いていた。
「い、いきなり、何を言い出すんだ?僕と真白は幼なじみだし、僕には彼女もいるんだよ?
真白にだって彼氏がいるのに、勝手な憶測で物事を言わないでほしいよ。他の人達に勘違いされるだろ?」
大樹は慌てた様子で、フジを咎め徐々に冷静さを取り戻していった。
そんな大樹の話なんてちっとも聞いてない自分勝手なフジは、大樹の直ぐ隣にいる真白を見ていた。
大樹が“彼女がいる”と発言した時、動揺した顔をしていて目が泳いでいた。
次に“真白にだって彼氏がいる”と言われた時、何か後ろめたい事でもあるのか顔は笑っているが彼女を纏う空気がどんより重くなったように感じる。
「すぐ隣に、恋する人がいるのにおかしいわ。どうして恋してる者同士が恋人にならないで、好きでもない相手と恋人になるのかしら?
私には理解できないわ。」
と、フジが言った所で
「……へ?」
フジの後ろから、まの抜けた声変わりもまだの男子の声が聞こえた。
フジの後ろの人物を見て、真白は大きく目を見開き青ざめ、大樹はその人物と何故か陽毬を交互に見て焦っていた。
フジは二人のもう一人の幼なじみ“ウダツ”であろう人物と目処をつけ、後ろを振り返った。
そこには、驚愕で糸目の細い細い目を見開き大樹と真白を見ている背の小さい冴えない男子が立っていた。色白だが、なんだかこの国の肌の白さとは違う。キラキラ金髪は自然の色をしているのでハーフか外国人だろう。
その隣には、高身長で白金髪にピンク色と水色のアッシュの入った髪に、クリアなスカイブルーの目のチャラいイケメンが立っている。
この男子は五大美男子の中の一人、【鷹司 大地(たかつかさ だいや)】だ。鷹司と聞いてご察しがあると思うが、大樹とは年の近い従兄弟同士である。
「……どうなってんだ、これ?」
大地はスッと目を細めると、大樹と真白に説明を求めた。だが、それを制した人物がいた。
「どうもこうもないわ。何があったか分からないけど、どうもあなた達は何かで拗れてしまってるようだわ。両思い同士、きちんと話し合う事をお勧めするわ!
そして、私はあなた達に対してとても気分が悪いからお暇するわ!」
フジは大層御立腹の様で、美しいお顔をグシャリと歪め
「行くわよ!」
と、ウダツと大地の腕を掴み、勢いよくズンズンと何処かへ行ってしまった。その途中で
「あんたもよ!陽毬っ!!」
有無も言わさず、陽毬も連れて勢いのまま会場を出て行ってしまった。
会場では、みんなポカーンである。
そして、何事かとザワつき始めた所でハッとした大樹が、その回転の早い頭をフルに使って
“勘違いされているみたいだ。後で、誤解を解かなければ”
と、いう趣旨を周りの人達に伝えて、“自分の友達が勘違いにより騒ぎを起こしてしまった”事に対し深くお詫びしていた。
大樹の機転と人望のおかげで
“思春期には勘違いなんて数え切れないほどあるもんだ”
“喧嘩する程仲がいいと言いますもんね”
“それに、人の話を聞かない自己中の我が儘女王様の事だ。自分勝手に解釈して自分の妄想で物を言ったんでしょう。”
“いやはや、何とも…元気がいいと言いますか、何と言いますか。”
なんて、この騒動はフジが悪いという事で決着がついたようだ。やがて、さっきまでの騒動は大した事がなかったかの様な雰囲気になり、やがて何事もなかったかのように社交界はいつも通りを取り戻していた。
そして、微妙な雰囲気になってしまった大樹と真白も目配せで、二人きりになれるバルコニーへと移動した。
大樹は、バルコニーの手すりに寄り掛かると
…ハァァ〜〜と、疲れ切った深いため息を吐き
「フジ嬢には困ったもんだね。どこから、そんなデマ聞いてきたのか分からないけど、本当いい迷惑だったよ。」
そう言って、真白に優しく笑いかけた。
「…私と大樹がよく一緒にいるから勘違いした令嬢か子息あたりに、妙な情報でも聞かされたのかもしれないわ。
フジ様は良くも悪くもハッキリした方だから。」
困ったように笑い首を傾げる真白は、全体的に色素が薄い事もあり儚げで夜空の白い月がとても似合っていた。
そんな、真白に見惚れた大樹は
「…綺麗だ…」
と、思わず口に出し、ハッと我にかえると口元に手を当て顔ごと横を向いた。顔を赤くしている姿を見て、真白はトクンと胸が鳴った。
…もしかして…これは…!?
流行る気持ちを抑え、真白はキュッと薄い唇に力を入れると
「…すき…」
風の音に消え入りそうな声で自分の気持ちを吐き出した。そんな小さな小さな声ですら大樹の耳には届いたようだ。
「…え?」
驚いたように大きく目を開き真白を見る。
真白は下を俯き、下唇を噛み苦しそうにグッと眉間に皺を寄せると
「…ウダツもいるのに、いけないって思ってるのに。考えるのは、いつもあなたの事ばかり。
ウダツが告白してきた時、私はここで断ってしまったら私達三人の友情にヒビが入ると思ったの。私達三人の関係性が壊れる事を恐れた私は……ウダツの事を恋愛対象として見てなかったのに、いけないと思いつつもウダツの気持ちを受け入れてしまったの。」
ポロポロと大粒の涙を流しながら大樹を見てきた。
涙が月明かりに照らされキラキラと淑やかな光を放ち、泣いている姿だというのに静かに涙を流す真白は美しかった。
真白の消え入りそうに儚い姿に、思わず大樹はその華奢な体を抱き寄せた。
「…僕もだ!」
と、言った大樹の言葉に、真白は驚きの表情を浮かべ頬を赤く染めた。
「僕は、幼い頃から君が好きだった。だけど、ウダツも僕同様君の事が好きだって気付いてた。
その内、ウダツが真白に告白をするという相談を受けて、苦い思いでウダツの話を聞いてアドバイスまで送った。それから直ぐに、君達は恋人になってしまった。
だから、この気持ちはずっと心の中にしまっておくつもりだったんだ。」
なーんて、話をバルコニーの上、ルーフバルコニーから覗き込み盗み聞きしていた団体が…!
フジや陽毬達である。
大樹と真白がバルコニーに来る前に遡るが
大樹と真白に物申した時の二人の態度が気に食わなくて頭にきたフジは、勢いに任せウダツと大地、陽毬を無理矢理連れてルーフバルコニーに来たのだった。
そこで、陽毬は自分の知り得る限りの情報“大樹と真白、ウダツ”の関係性についてフジ達に話した。それで、フジは大樹と真白に対して怒っているのだと。
話を聞くまで、フジを警戒していた大地も徐々に警戒を解き、親友のウダツに関わる事なので真剣に耳を傾けていた。
フジは興味がなく全く気づかなかったがウダツと大地は、フジ達と同じ中学校で同い年だったらしい。その事実をフジは今、知ったようだった。
それに、苦笑いするしかない陽毬、ウダツ、大地だ。ブレないなぁ。
猛烈に怒っているフジに
「自分は、真白さんを信じたいでヤス。」
と、ほんわかした雰囲気でウダツはそう言ってきた。
「何を馬鹿な事言ってるの!あんた、馬鹿にされてるのよ!?」
と、ウダツを怒鳴り散らすフジに
「オイラの為に、たくさん怒ってくれてありがとう。フジさんはとても心の優しい人なんでヤスね。」
ウダツは、ニッコリと笑ってフジにお礼を言ってきた事に、大地以外みんなビックリしてしまった。
…え?え?
お礼言った?この人…
しかも、優しいって…!?
フジは、生まれてこのかた心から“優しい”なんて言われた事がなく困惑した。陽毬も、色々と困惑しかない。
「…と、当然よ!私は優しいの!」
テンパりすぎて、フジは意味不明な虚勢を張って踏ん反り返って見せた。
「だけど、もしその話が真実だったとしても、自分の目や耳でしっかりと確かめてからじゃないと受け入れられないでヤス。
もし、噂だけを鵜呑みにして、噂と真実が違っていた時、相手をとても傷付ける事になるでヤスから。」
と、言ってのけるウダツは、容姿こそ冴えないが中身は誰にも負けないくらい超絶イケメンだった。
真剣に、そんな事を話してくるウダツについ、フジのハートがギュンッ!と、した。
…な、なに!?
今まで感じた事の無いこの感覚は…!
胸が…胸が、熱い…ドキドキが止まらないわ。
気のせいか、全身火照ってる感じがするわ…風邪かしら?
と、フジが自分はどうしてしまったのかと焦っている時だった。
…ガチャ!
下のバルコニーの扉が開く音がした。
誰だろうと、何も考えず何となく下を見下ろす、フジ達。
…ギョッ!
そこに来たのは、まさかの大樹と真白だった。
思わず、みんな口を塞ぎ下にしゃがみ込み隠れた。
だが、空気を読めないウダツが、柵から身を乗り出し呑気に二人に声を掛けようとしていたので、フジと大地は内心“バカヤロー”と叫びながら、二人は大慌てでウダツの口を塞ごうと素早く動いた。
だが、大地よりもフジの方が若干反応が早かったらしくウダツの口を塞いだまま抱き抱えてサッと床に座りこんだ。
年頃の女子が男子を抱き抱えるなんてと思う所だが状況が状況なだけに、そこはウダツ以外誰も何も思わなかった。
ただ、ウダツが下手な動きをしないように、そのまま押さえ込んでいてくれ!と、いう気持ちだ。もちろん、フジもそのつもりでウダツを抱き抱え口を塞いだまま柵の隙間から下を覗き見ていた。
そして、ゆっくり静かに始まる大樹と真白の会話。
最初、フジの事を悪く言ってるのが聞こえ、
カーッ!と、なったフジが文句を言おうと立ち上がろうとした。が、それを陽毬と大地で押さえ込み二人でシーッと、静かにするよう促した。
思いの外、ウダツの小さな体がフジの体にフィットし、何だか心地いい癒しを感じたフジは、ウダツを抱き抱え口を塞いだまま下の二人の会話に耳を澄ませる。
すると、聞こえてくるのはお互いが好きで好きで仕方ないと聞こえる甘ったるい言葉だけ。
その言葉を聞き、ウダツは…え?と、いう感じに細い目を見開いている。その様子に、親友の大地がウダツの肩をポンポンと優しく叩いた。
そんな親友にウダツは、大丈夫だよと笑みで返す。大地は複雑そうに笑いながら、もう少し様子を窺ってみようと促す。
聞き耳とか卑怯だとは思うが、二人はきっと自分には話せない。だけど、自分が知らなければならない事だと感じたウダツは、聞き耳をする事に申し訳ないと心を痛めつつ大地に頷いて見せた。
そこで、聞こえる真実。
更には
「……実は、もう一つ隠してた事があるの。」
「…え?」
「…ウダツには、本当に可哀想な事してるって思ってるし罪悪感しかないけど。…ウダツと付き合う事で、大樹が少しでも私を見てくれたらって…。大樹に嫉妬してほしくて…私っ!
…本当に酷い女だわ…。
でも、後からその事実を知っても優しいウダツなら、きっと分かってくれるって思って…!」
なんて、打ち明ける真白に、大地のみならずフジや陽毬も
…コイツ、最悪だ!
ウダツが優しいから、何しても許されると思ってるのか。
ウダツの事を一体何だと思ってるんだっ!?
と、怒りをむき出しにしていた。
「…そっか…。実は俺も君に隠している事があるんだ。」
「………?」
「真白は、容姿だけでなく心も透明で綺麗だから、自分が真白に告白してしまったら真白が汚れてしまう気がして。…本当に本当に、君の事が大切だったんだ。
そして、うかうかしている内に真白とウダツが恋人になってしまった。だから、行き場のない真白への想いを誤魔化す為に、色んな女性達と体の関係を持っていた。」
苦々しく悔やむように大樹は真白に打ち明ける。
「…そんな!ごめんなさい、私のせいだわ。
私が間違った選択をしたせいで、大樹にそんな辛く苦しい思いをさせていただなんて…。」
真白は大粒の涙をポロポロ流しながら心苦しそうに謝った。
「…真白のせいじゃないよ。これは、全部僕の心の弱さが招いた事だから。」
そこで、真白は…フフ!と、小さく笑うと
「…私達って、似たもの同士なのかもしれない。」
なんて言ってきた。
「…どういう事?」
「臆病者同士って事。自分の気持ちに素直になってたら、こんな事にはならなかった。」
「…ああ。確かにそうだ。俺達は似たもの同士だね。」
二人はお互いに、遠回りしちゃったねなんてクスクス笑いあっている。
そんな会話を聞いて、フジや陽毬、大地は、
なんだ、そりゃ!
すっごい、薄ら寒いんだけど!
と、似たような事を考えていて、…ゾワワッと鳥肌が立ってしまった。…キモッ!
「…あ、でも。ウダツには、心苦しい話だけど大樹にとっていい話もあるのよ?」
イタズラっぽく笑う真白を不思議そうに見てくる大樹に
「…ウダツと恋人同士ではあるけど、私…清い体のままなのよ?」
と、言ってきた。
「…え?付き合って、2年くらい経つよね?」
驚く、大樹に
「…大樹が中学に入学した頃、私とウダツは恋人になったけど。その当時、ウダツは小学5年生よ?だからってのもあるのかな?
…けど、やっぱりキスやそれ以上の事は好きな人とって思ってウダツとは一度もないわ。
それに、恋人のように手を繋ぐ事も抱き締め合うって事すら許さなかった。
…ウダツには酷い事をしてるって心が痛んだけど…どうしても無理だったの。」
なんて、真白は告白してきた。きっと、その事に大樹は凄く驚いたし嬉しかったに違いない。
「…ウダツと恋人だった過去をなかった事にしたい…っっっ!!!悔やんでも悔やみきれない!」
「……ッ!!?それは、僕も同じだ!君への気持ちを誤魔化す為だけに関係を持ってきた女性達との事をなかった事にしたいよ!悔いても、最低な過去は変えられない。」
もう、これ以上はウダツをはじめ、陽毬やフジ達も聞いてられなかった。
ウダツの気持ちを考えれば、なんて残酷で酷い話なのだろうと心が切り裂かれるくらいの痛みを感じた。
ウダツは、かなりのショックを受け泣きたくなったが、みんながいる手前絶対に泣けないと涙を溢さないよう上を向いて耐えていた。
泣きたくても絶対に泣くものかと耐え震えるのを直接体に伝わってきたフジは、思わずウダツを抱き締める腕に力がこもった。
そして、大樹と真白が両思い。三人の友情が崩れるのを恐れ、恋愛的に好きではないのにウダツの気持ちを受け入れてしまった真白。
その事実を受け止めるように、ウダツはギュッと握り拳を作り夜空を見上げて自分なりに考えをまとめていた。
「…さ。二人の気持ちは分かった事でヤスし、これ以上ここに居るのは野暮でヤスよ。」
と、今一番辛い筈のウダツは笑顔で、ここから出ようと声をひそめ促してきた。
みんなはウダツに従って、ルーフバルコニーから出た。暗い外から明るい中に入って気付いた事。
それは、フジと陽毬が顔を真っ赤にしてボロボロと泣いていた事。
それに驚いたウダツと大地は、それぞれハンカチを出すと
大地は「大丈夫?」と、心配そうに声を掛けて陽毬にハンカチを差し出してくれた。
ウダツは、身長の高いフジにつま先立ちをしながらフジの涙を拭いてくれていた。
陽毬が泣いてる事に驚いたフジは、ギョッとして
「どうして、陽毬が泣いてるのよ!」
と、聞いた。すると、超イケメンからハンカチを差し出されアワアワパニックになっていた陽毬はピタリと動きを止め俯くと
「…騙されてるって分かってるのに、好きになってしまったってヤツ。分かってても、あんなに優しくしてもらったら勘違いもしますぞ!!
…アレが、とんでもないドクズのドブカスヤローだって知ってたのに!分かってた筈なのに!!…なのに、悔しいでありますよぉぉ〜〜〜!!!」
陽毬は、騙されないぞと意気込んでおきながら、すっかり大樹の事が好きになってしまった自分の馬鹿さ加減が悔しくて泣いた。
「…大樹君はとても魅力的でヤスからね。」
自分も辛い筈なのに、陽毬を気にかけ労わるウダツ。そんなウダツの姿に、フジの胸は熱くなり涙がどんどん溢れる。
「ウダツさんは、馬鹿よ!自分の方が泣きたいくせに。自分より他人の事ばかり心配して!
もっと、自分を大切にしなさいよ!もっともっと、自分に甘えなさい!!馬鹿!馬鹿っ!!」
と、床に膝をつくのも躊躇わず、フジはウダツを抱きしめ泣いた。誰もが絶賛する美貌も台無しに泣いた。
そんなフジに、ウダツは少し驚いたが小さく笑みを浮かべ、そっとフジの肩に手を触れると
「…オイラや陽毬さんの為に、フジさんが泣いてくれるからオイラの悲しみなんてどこかに吹き飛んでしまったみたいでヤス。
…ありがとう、フジさん。フジさんのおかげでオイラの心は癒されたでヤスよ。」
なんて言われて、フジの胸はドッキューーーーーン!!と、何かに射抜かれ、ドキドキが止まらなくなってしまった。
それに、ウダツと触れていると心が落ち着いて気持ちがいい。離れがたい。
「…グスッ!でも、今吹っ切るキッカケができてラッキーですぞ!もう、あんなドクズに靡く事などありませぬ!」
陽毬も、大樹と真白の相思相愛っぷりを見聞きして、大樹に対する気持ちの決着がついたようだった。