名前のない星座
名前をつけられない記憶
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「銀星はわたしのこと、最初、からかっていたでしょう。もうしないの?」
見透かしたような目と年上ぶった口調に、またか、と思ってわざと眉を顰める。
それを見てしてやったり顔をしているけど、わざとだからな。
「わたしは銀ちゃんの素直なところがかわいいと思ってるよ」
「うっせーよババア」
「世の中の23才に謝れ」
今日、おれは、知りたかったことをやっと知った。このクソババアの5回目の留年の理由と、底なしの明るさにうまく隠されていた深い悲しみを。
知りたかったのに、知りたくなかったと思ってしまった。身勝手な自分の後悔を悟られないようにさっきから何度も悪態をついているけれど、たぶん、何もかも気づかれてる。
「なあ、渋木雨美」
昏い海のなかに奪われた大切な失くしもの。
「おれが一緒に探すよ。わすれろとも思わねーよ」
愛せなくなった場所と、想いつづけている人。
「ぎんぎらぎんって……すごいドMだよね」
「まじで黙れババア」
仕方ないだろ。渋木雨美の秘密だったことを含めた全部が、ずっと、欲しかったんだから。
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