名前のない星座
今までの2年間、渋木雨美のまわりから人が絶えたところを見たことがない。登下校も、バイト先までの道のりも、教室移動も体育の授業でも学校行事でも。広く浅く、の中に、おれも含まれているのが、癪だしゾッとする。
このあともおれの自己紹介のときになぜか知ったかぶって喋り出すし、うるさい変わり者ってイメージがついてもおかしくないのに授業と授業の合間の10分間、隣の机のまわりには人が途切れなかった。どういうギミックだよ。
「銀坊、体調はいかが?」
「だからあれはうそだって」
「どうしてうそをついたの」
「……」
放課後ふたりきりになるのがいやだったから、なんて、言ったらさすがに傷つくよな。
「まあ銀ちゃんのうそはかわいいからゆるしちゃうんだけどね」
「それはそれだな」
「人を傷つけるうそじゃなければいいのよ」
たぶんこの沼系女子は、ふたりきりになるのがいやだったって言ったら満足そうに笑うんだろうな。
100人の友達を集めて園芸部をやればいいのに、渋木雨美はおれだけを引っ張って中庭へ向かった。
「何植えるの」
「まるたんからね、トマトとにんじんとピーマンの種をもらったのよ。あと自分できゅうりを買ったから、にんじんとピーマンはやきそばにいれて、トマトときゅうりはトトロの真似をしようね」
げ。にんじんもピーマンも好きじゃねーんだけど。やきそばは麺だけ食べよう。隠れて。
「土は仕上げておいたから、今日はふたりで種をまくの。にんじんもピーマンも自分で育てたものならおいしく食べられるかもよ」
思惑がバレてる…。
「そんな話されなくても一緒にやるっつの」
「おいしい子たちをつくろーね」
土いじりなんて、野菜を自分で育てるなんて、この女と出会わなければ絶対に経験しなかったことだと思う。