名前のない星座
「お花を育てるのにはまったぎんのすけがさ、クリスマスイブに花束をプレゼントしてくれたときと同じくらい今感動してるんだよ」
「いやあれはべつに花にはまったわけじゃねーよ」
「じゃあどうして?花束なんて人生ではじめてもらったのよ」
「渋木雨美が花好きだからだよ。ただそれだけ。他のプレゼントが思いつかなかった」
あれ、なんでこんな話させられてんだろう。
話していると、いつもそうだ。言おうと思っていなかった格好つかないことも、いつの間にか口から出ている。
渋木雨美はおれにうそをつくけれど、おれはこのひとに、本当のことしか言えないんだ。
「とてもうれしかったよ。お水にお砂糖を入れると長持ちするって聞いてやってみたりして、だけど残せないのがいやで、枯れちゃう前にドライフラワーにして、今はハーバリウムにして飾ってる」
「なにそれ。初めて聞いた」
「はずかしくて言えなかったの。でも銀星が顔赤くしながら話してくれるから思わず言っちゃったよ」
「あんたってひと言ふた言いらないよな」
それにおれは、ほんとうは、ちゃんと残るものを渡したかったんだ。
外された軍手の中から出てきた左手のくすり指に、出会ったころから宿る指輪。
誰から贈られたものなのかも、いつからつけているのかも、どういう思いで片時も離さないのかも、何も知らないそれに勝るものをおれだって渡したかった。
だけど何も知らないからどう対抗すればいいかもわからなくて、けっきょく、おれが知ってる花を買った。