名前のない星座
「もしさ、うわさがほんとうなら、誰のなんだろうね」
昨年卒業した、渋木雨美に一途に構い続けていた学園の王子様も、
今年卒業した、スクープ命で渋木雨美を暴こうとした結果返り討ちにあい信者になった新聞部部長も、
他の誰も、あの星がモチーフの、少しだけ緩い輪の正体がわからないまま。
「昔の恋人、家族、おばあちゃん……魔法つかい説も好きだけど」
「ぎんせーはそれ1番押してるんだよね」
「バカだねぎんせー」
ぐうの音も出ない。
藤堂さんも真辺さんも他のひとも最後はおれに託していったけど、正直自信は無し。
みんなと同じようにあいつに送り出されて、来年の今ごろは何も手にしないまま半端な大学生になってそうだよ。
「みんなおはよー」
「新学期早々遅刻かよ」
とぼけた顔で昼休み前に教室に入ってきたうわさの的。来ないからいろいろ聞かれたじゃねえかよ。
「まるたんには連絡したよ」
「来ないかと思った」
おれには連絡ないし。まあみんなにもないけど。
「ちゃんと来るよ。銀と園芸部の活動しなきゃだもん」
べつに約束した覚えない。
「つぎから、連絡するね。同じクラスになれたもんね」
ああ、本当に、底がない重たい沼だ。
おれが欲しい気持ちは何もくれないのに、欲しい言葉は簡単に言ってくる。
ずるくて、だけど、ゆるしたい。全部。
惚れたほうが負け、では済まされない。
渋木雨美に出会っていなかったら、今のおれは存在していないから。
魔法使いの指輪をしていると言われたほうが、おれにとって都合がいいんだ。