名前のない星座
「とにかく勝手に決めんな。園芸部も漫研も茶道会も天文部もスポーツ観戦会も入ってやってんだろ」
「だからまた園芸部としていっしょにがんばろうよ。新しいことをやるって気分がよくない?」
「どれもまともに活動しないでのんびりしてるだけじゃねーかよ」
「かけもちなんだから、のんびりがちょうどいいじゃない」
当たり前でしょ、みたいな口ぶりにため息が出た。
今回こそは絶対に、絶対に入ってやらねー。
「お野菜ができたら、何がたべたい? 銀星」
まるで犬になった気分。
その声に名前を呼ばれると、頸や腹、肚、そこから溶けて心臓の内側まで撫でられたような感覚になって、何も言えなくなる。
「………やきそば」
「いいね!わたしは塩味派だよ」
「おれはソース」
「バッカ、塩やきそばと日本酒の組み合わせがサイコーなんだって!」
「ジジイかよ」
「ガキかよ銀星」
こいつが名前をちゃんと呼ぶときは、決まって、ガキ扱いをやめているときだ。
だからといって心地の良いものではなく、むしろわるい。
「とりあえず教室行こ。ついてきな!」
「さすがに場所くらいわかるわ…」
慣れた足どり。勝ち気な表情。
渋木雨美はこの学校に通って8年目になる。
何も言えないのは、この背中についていくと、今まで自分だけじゃ見えなかったものが見れることを知ってしまったから。
身勝手、気まぐれ、能天気で破天荒なこの渦に巻き込まれた他人のひとりが、認めたくないけれど、おれだ。
「シルバースターくん、同じクラスになれてうれしいよ」
冷やかしにもとれる台詞を聞き流す。返事はしない。
残念だけどおれも、地獄にこれてよかったって思ってる。
心の内は何も解らない渋木雨美のことが、くやしいけど認めるしかないくらい、好きだから。