名前のない星座
教室の中に入ると、わざわざおれの席はあそこだと窓際の真ん中の席を指差した。
なんでもうおれの席の位置を把握してんだよ。
「で、あんたは?」
「わたしはここなのよー。うれしい?」
「勘弁してくれよ」
隣の席という、逃げ場無し。
なんでこうなるんだ?
「思い出すね、1年生のころにさ、もし同じ学年だったらって銀の助が言ってさ、わたしのこととなりの椅子に座らせて、こうだったらいいのになって言ってさ…はあ…かわいすぎて推せる。わたし、シルバースターくんのことをとても推してる!」
「あのころはまさか本当に同じ学年になる日がくるとは思ってなかったんだよ…」
「かわいいねえ。銀たろはほんとうにかわいいねえ」
あのころの自分を殴りたい。それかこのババアの頭を叩いて記憶飛ばしたい。
「なになになに、おまえらお隣さんじゃん」
「こらチャップリン、おねいさんにオマエラはないでしょ」
「おはよ、雨美おねいさん」
「タナはよろしい。ふたりの教室はB組だよ。まるたんに同じクラスにしてほしいって言っておいたのにごめんね…」
「いや、雨美と同じクラスだけは勘弁だわ」
同感だよ。逃れたオマエラがうらやましい。ご愁傷様を含んだ視線を向けてくる。同情してもらえるだけまだよかった。
あらかた、様子を見にきたんだろう。
この地獄の沼系女子に見事に沼った3人だからな…。
「うちは雨美と同じクラスでサイコー!」
それは綾野が渋木雨美と同じレベルのテンションで生きていけるタイプの人間だからだろ。
落ち込んだふりをしていた渋木雨美に飛びつく姿を見て、このふたりと同じ教室で1年を過ごすことになった苦痛を改めて感じた。