名前のない星座
うそだけど。頼むから信じてくれ。新学期早々ひとりでこの破天荒バカを相手にするのはキツい。
眉を寄せてこっちを見ている。さすがに無理か。
そう思っていたら、まるい輪郭がふと揺れた。
「朝からいっしょにいたのに気づかなかった。…大丈夫?あたまいたい?さむい? 銀星、いつも元気なのに」
白くて小さな手のひらが額にあてがわれる。
背伸びをした154センチが、30センチ先のおれに少しだけ近づく。
冷たい手。本当に風邪をひいていたら、気持ちよさそう。
今はただ居心地がわるい。
だけどわるくない、と、ばかみたいなことを思って、すぐにその手から逃げるように顔を背けた。
「銀星、歩ける?おうちまで送るよ。まるたんにもメッセージしとく」
「いやうそだっつの」
「だけど首まで赤いよ。これは熱があるよ」
ねーよ!
タナたちにはバレてるのになんでこの女はこういうのには察しが悪いんだよ。
ほんとうに心配そうに見てくるから調子がくるう。信じてほしいうそだったのに、つかなきゃよかったと思わされる。
「うそだから。放課後、ちゃんと手伝うから」
「ほんとうに?つらかったら言うんだよ」
つらいよ。つらいわ。何も伝わらなくて。というか、たぶん、伝わっていて無視されてるだけ。
ちょうどよくホームルームを知らせるチャイムが鳴り、揶揄いたげだったタナとチャップリンは自分の教室へ、百井と綾野は自分の席へ戻っていった。
教室に入ってきた丸田と目が合い睨むと、教卓で、眼鏡の内側の目が見透かしたように微笑った。ひどい教師だな。
丸田は、渋木雨美が1年の頃に担任になったらしい。2年は別で、3年で改めて受けおい、渋木雨美が卒業しなかった理由はわからないけれど卒業させれなかった責任を感じてるっぽい。なんとなく。
それからは7年、担任から離れてもこの女の面倒を見続けている。物好きだよな。