甘く痺れる恋情~華麗なる御曹司は愛しい運命をもう二度と手放さない~
泣きたくなるほど嬉しくて、幸せだった記憶ばかりが鮮明に蘇ってくる。
私だってたくさん覚えている、と伝えたくて仕方がない。


「旺志さんらしいね。でも、私はもう忘れたことが多いと思う。私にとって、旺志さんとのことは過去だから」


それでも、私は揺れてはいけない。


神室を背負っている旺志さんの重荷にならないように……と離れたあの日、もう二度と彼に会えなくなる覚悟を決めた。


詐欺まがいの投資事業に失敗した兄の借金を抱えている私では、旺志さんとはあまりにも釣り合わない。
彼の名誉や将来を傷つけないためにも、あのときこの恋を捨てたのだから。


「だったら、どうしてそんなに泣きそうな顔をするんだ」


眉を寄せた旺志さんが近づいてきたかと思うと、私の視界が黒で覆われた。
それが彼の着ているコートの色だと気づいたとき、私は力強い腕の中に閉じ込めれていた。


あの夜以来の感覚と香り。
懐かしいそれらが、私の心を戦慄かせる。
< 22 / 66 >

この作品をシェア

pagetop