甘く痺れる恋情~華麗なる御曹司は愛しい運命をもう二度と手放さない~
ルームウェアは着心地が好く、久しぶりに使うスキンケア用品は上質な香りや感覚を思い出させてくれた。
タオルやドライヤーの場所も変わっていないことに、なぜかホッとしてしまう。


その理由がわからないままリビングに戻れば、交代でバスルームに行った旺志さんが十分ほどで戻ってきた。


「真白」


呼ばれてついていくと、そこは何度も入ったことがある寝室で。

「あのっ……」

たじろいだ私より一瞬早く、彼が私の手を引いてベッドに縫い留めた。


「待って! 私はもう――」

「起きたら真白がいなくなるんじゃないかと思って、昨日は一睡もできなかった」


拒絶を見せかけた私に、どこか弱ったような声が降ってくる。


私に覆い被さっている旺志さんが、泣きそうな顔をしているように見えて。

「なにもしないから、今夜は俺の傍にいてくれ」

その懇願を前に、私は自分がどれだけ大きなトラウマを彼に植えつけたのかを思い知らされてしまった。


罪悪感でズキズキと痛んだ胸が、拒否する言葉を紡がせてくれない。
無言を承諾と捉えたのか、程なくして旺志さんが隣に横たわった。


「手を……」


差し出された左手に触れることをためらったのは、わずかな時間。
彼を、その手を、どうしても突き離せなかった。
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