甘く痺れる恋情～華麗なる御曹司は愛しい運命をもう二度と手放さない～

そんな日々を過ごす中、もし私が逃げ出したとしても、彼が芙蓉を買収するようなことはないんじゃないか……と思えてきた。


旺志さんは、冷たい人だという噂があった。
けれど、恋人だったときの彼は、いつだって私を思いやり、愛してくれていた。


それを知っているからこそ、旺志さんの優しい瞳を見るたびに彼がそんなことをするとは思えなくなっていったのだ。


さらには、私の好みを細かく覚えてくれていたり、この家に置かせてもらっていた私の荷物を捨てずに保管してくれていたり。旺志さんのひとつひとつの行動が、私を余計に悩ませる。


私の罪に対する復讐なら優しくしなければいいのに、彼はときおり恋人だったときのような眼差しで私を見つめてくる。
その上、こんな風に手を繋いで思い出話なんてされてしまったら、あの頃の幸せだった記憶がどんどん鮮明になって胸の奥が苦しくなる。


そして、必死に押し込めていたはずの彼への想いが、少しずつ……ときに一気に溢れ出しては、私の心を覆い尽くしていくのだ。


旺志さんがなにをしたいのか、私にはわからない。
同時に、あのとき彼のことを忘れると決めてここを出ていった自分が今どうしたいのかも、私自身わからなくなっていた。