Dr.luce
父親の声は広い救急科に響き渡り、ルーチェたちに視線が集まる。ルーチェが顔を挙げると、アーサーと共に処置に当たっていた一花と目が合った。彼女は訝しげな様子でこちらを見ている。

「お父さん、ジェニファーさん本人に聞きたいんです」

ルーチェは一花から目を逸らし、慌てて父親に笑みを向けながら言う。父親は「早く処置をしてくれ!」と吐き捨てるように言った。

「……お父さんの、言う通り、です。階段を降りていて、滑り落ちました……」

ルーチェがジェニファーの方を見ると、彼女は手を小刻みに震わせながら言う。その顔はやはり何かに怯えているように見えた。

(病院がそんなに怖いのか?救急車で搬送されたことにまだ気が動転している?)

ジェニファーの怯え具合にルーチェは何か違和感を感じ始めた。いくら救急車で搬送されたといっても、十歳の子がここまで怯えるのは不自然に思えてしまうのだ。

その時、一花が「クラル、ルーチェ、ちょっといい?」と話しかけてくる。一花とアーサーの患者の処置はもう終わっているようだった。
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