カフェオレでも飲みながら。
お茶と煎餅
「朝田さん」
学校の帰り、伊織の家の前でまた伊織が言った。
順番的には伊織の家が手前で、私の家は奥にある。
「親戚の家から煎餅が来てるから、食べていかない?」
「えっいいの?」
私が聞いた。
「うん、入って」
伊織の家は共働きで、この時間両親とも帰って来ない。
靴を脱いで上がると、伊織が先に立ってリビングのドアを開けた。
「お茶にするね」
「うん」
「朝田さん、先食べてて」
ソファの前に横座りして座ると、伊織が大きい立派な箱を出してきて、テーブルの上にどでんと置いた。
お土産の煎餅のセットだった。
「立派」
「ね。貰い物」
鞄を置いて、蓋を開けて、私は煎餅の袋を1枚開けて齧った。
「美味しい」
「本当?」
伊織はかわいいオレンジの急須と、煎餅の盆を出してきていた。
学校で私と伊織は付き合っていると噂されている。
私は困惑した。
伊織はご近所さんだ。付き合ってはいない。
もっと困惑したのは伊織の態度だった。
二人で居て友達にからかわれた時、伊織は普通にこう返事をした。
「お前、朝田の事好きなんだろ」
「うん。まあ。」
さらに困ったことに、伊織はその後、朝田さん聞いてた?と私に尋ねた。
私はその場から逃げ出したい衝動に駆られた。
そういえば、伊織は私を朝田さんと呼ぶ。
呼び捨てでいいよ、と言うと、なんか似合うんだもんと笑って言われた。
「僕はこの煎餅を食べてる時に幸せを感じるよ」
伊織が言った。
「寛ぐし、朝田さんも居るし」
「大げさじゃない?」
「まあ、ちょっとは言い過ぎかもね。でも本当に。」
誰と食べるかは重要かもしれない。
伊織は私のコップにお茶を注いでくれた。