極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
腕時計を確認すると、そろそろ樹くんの仕事が終わる頃合いだった。
とっくに空っぽになっていたカップをゴミ箱に入れ、展望フロアからターミナルビル内に移動しようとしたとき。


「あっ……」


正面から馬場園さんが歩いてきた。
彼女も私に気づき、眉間にグッと皺が寄る。綺麗な顔には似合わない、不満いっぱいの表情だった。


「……息抜きに来たのに、見たくない顔に会うなんてツイてないわ」


わざわざ私の前で足を止めた馬場園さんが、これ見よがしにため息をつく。


私が知る限り、彼女はあの日を機にロイヤルカフェに来なくなった。
樹くんと私が抱き合うところを見たせいか、私に会いたくなかったのか。恐らく、その両方だろう。


彼から馬場園さんの話を聞くことはなかったし、私はたまに空港内で彼女を見かけることはあったものの関わる気はなかった。
けれど、広い羽田空港とはいえ、こうして鉢合わせることは今後もあるはず。


「あの……この間の件ですけど」


そう思い、馬場園さんと対峙する覚悟を決めた。

< 121 / 143 >

この作品をシェア

pagetop