極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
「なに? 別れる気にでもなった?」

「いいえ、まったく。私は樹くんが好きだし、樹くんも同じ気持ちでいてくれます。あなたの言う『情に流された関係性』なんかじゃないですし、これからもずっと樹くんと一緒にいたいと思ってます」

「は? あなたねぇ、自分と樹くんが釣り合ってるとでも思ってるの?」


彼女の顔に苛立ちが浮かび、視線が鋭くなる。
私も負けじと、真っ直ぐ見据え返した。


「樹くんは将来をすごく期待されてるパイロットなの。あなたが思うよりずっと優秀で、パイロットとしての資質も才能もある。きっと、同期で一番早く機長になるわ」


私の知らない樹くんを知っている馬場園さんのことが、少しだけ羨ましくなった。


幼なじみでも、結婚していても、想いが通じ合っていても……。私は、パイロットとしての彼のことを同じ目線で見ることはできない。


パイロットである彼女の方が、樹くんのすごさを理解できるのだろう。


「そうだと思います。樹くんはパイロットになるのが夢だったし、そのために昔から努力もしてましたから」


けれど、私は馬場園さんが知らない彼を知っている。


幼なじみだったからこそ、樹くんがパイロットを目指していたことも、そのために体力づくりをしたり複数の語学に力を入れたりしていたことも見ていた。
それはきっと、彼女や同僚でも知らないこと。

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