極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
「だったら、なおのことわかるでしょ? 樹くんみたいな優秀なパイロットに、あなたみたいなただのカフェ店員が釣り合うはずがないって。身の程をわきまえて、さっさと別れなさいよ!」


馬場園さんが語気を強め、怒りも不満も目一杯あらわにした瞬間――。

「どうして別れなければいけないんだ」

静かに、けれどしっかりと怒気を孕んだ声が響いた。


「樹くん……!」


数メートル先からこちらに歩いてきた私服姿の樹くんが、まるで私を庇うように隣に立つ。彼女を真っ直ぐ見た彼は、苛立ち混じりに息を吐いた。


「ロスのフライト前に馬場園から告白されたとき、俺の気持ちは伝えたよな?」

「それは……っ」

「えっ?」


告白という単語に目を見開けば、樹くんが申し訳なさそうに微笑んだ。きっと、帰国してから話してくれるつもりだったんだろう。


こんな形で知ってしまい、思わず動揺してしまう。
ただ、彼の気持ちは信じられるからこそ、すぐに冷静さを取り戻した。


「俺は芽衣を愛してるし、芽衣と別れる気なんてさらさらない。せっかく手に入れた好きな子を、みすみす手放すわけがないだろ」


樹くんもそれを証明するように、きっぱりと言い切ってくれた。

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