極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
「でも、ちょっと変な感じだな。芽衣とこんな風に飲むことなんてなかったし」

「そういえばそうだね。樹くんは大学から実家を出てたし、就職してからはほとんど会えなくなったし……。昔は、毎月家族ぐるみで出掛けてたのにね」

「動物園に、遊園地に、水族館な。あと、夏休みは海とか旅行にも行ったよな」

「そうそう。でも、途中から樹くんがあんまり参加しなくなったんだよね。家でご飯を食べるときくらいしか一緒に過ごせなくなって、実は寂しかったなぁ」


お酒のせいか、昔話に花が咲いているせいか、それとも樹くんとふたりきりで飲むのは初めてだからか……。気づけば、当時の本音を吐露していた。
彼は眉を下げ、「まあ年が離れてたしな」と微笑む。


樹くんの言う通り、きっと当たり前のこと。むしろ、中高生になっても小学生の幼なじみと遊んでくれる方が珍しいだろう。
異性であれば、なおのこと一緒に過ごすのは難しいに違いない。


「そうだね。実は、今だから言えるけど……私の初恋って樹くんなんだよね。だから、樹くんが参加しなくなってからはつまらなく思えることも多かったの」


もう時効だという免罪符を盾に、少しだけ意地悪を言ってみる。
すると、彼は意表を突かれたように静止したあとで、すぐに笑みを浮かべた。

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