極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
二章　とんでもない提案
「ッ……！　頭、痛ぁ……」


ガンガンと痛む頭のせいで、上手く目が開けられない。


覚えのあるこの感覚は二日酔いで、昨夜はそんなに飲んでしまっただろうか……と考える。けれど、頭痛に邪魔をされて記憶をたどれなかった。


なんとか瞼を開けると、ぼんやりとした視界に自分の部屋とは違う光景が飛び込んでくる。


（え……？　ここ、どこ……？）


疑問が脳裏に過った直後には、顔が動く範囲の景色を確認していた。


知らない天井。馴染みのないベッドの感触。
シーツに染みついた心地好い匂いに、よく知った端正な顔。


「えっ……？　いっ――！」


ただ、大人になった樹くんの寝顔を見たのは、たぶん初めてだった。
彼の名前が飛び出しそうだった唇を咄嗟に手で塞ぎ、なんとか声を吞み込む。


それでも、呆然とした私がこの状況を把握するには、三分は必要だった。


（嘘……。私、樹くんと……）


放心状態から解放された途端、昨夜の記憶が一気に蘇ってくる。


ふらついた体を抱き留められて、甘い雰囲気に包まれた。そのままほとんど会話を交わすこともなく、タクシーに乗ってここに来たのだ。

< 25 / 143 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop