極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
バスローブの紐を固く結んで待っていると、樹くんが戻ってきた。
十五分と言いながら少し余裕を持たせてくれたのは、たぶん彼なりの気遣いだったんだと思う。


ただ、湯上りの樹くんもなんだか色っぽくて、目のやり場に困った。


「私も入ってくるね……」

「ああ。あ、ゆっくりでいいから」


彼の声を背中に受けながら、全力でバスルームに逃げ込む。
けれど、あまり待たせるのも気が引けて、心の準備ができるよりも早くシャワーを浴び終えてしまった。


(下着くらい、コンビニで買っておけばよかった……。いや、そんな暇なんてなかったんだけど……)


後悔を抱えながら下着と服を身に纏い、ナチュラルブラウンに染めた髪を乾かす。
肩下まで伸びたストレートの髪が、ドライヤーの風で揺れる。ヘアアイロンがなかったため、アメニティのブラシでどうにかブローをした。


次いで、コスメを並べる。
日帰りのつもりだった私のバッグには、メイク道具は一式揃っていない。なんとか手持ちのもので間に合わせるしかなかった。


サニタリーにあったスキンケア用品で整えた肌にクッションファンデを、二重の瞼にはお直し用にポーチに入れているプチプラのアイシャドウを乗せる。


マスカラとビューラーは持ち歩いていないけれど、まつげパーマに助けられた。アイブロウで眉も整え、最後にリップを塗った。

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