極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
聞き間違えたのかと思った。
まだお酒が残っている頭がおかしいのかと、本気でそう思った。


「へ…………?」


だから、沈黙のあとで零れた私の声は、ひどくマヌケだった。


「けっこん……?」

「え? あっ、いや……」


言い出した張本人もなぜか動揺しているようで、再び室内が静まり返る。
さっきは謝罪されたことにショックを受けたのに、それを忘れそうになるくらいの困惑と動揺に包まれた。


「えっと……」


(どうしよう……? この場合、どう言えば伝わるの?)


樹くんに罪悪感を抱いてほしくないけれど、それが難しいのもわかる。
妹のように接してきた幼なじみと寝たなんて、真面目で優しい彼にしてみれば大事件に違いない。


もちろん、私にとってもそれは同じだった。
ただ、罪悪感から責任を取ってもらうなんて……。そんなこと、樹くんにはしてほしくなかった。


「あの、本当に大丈夫だよ?」

「芽衣」

「ほら、私だってもう子どもじゃないし! その……酔った勢いだったんだから、お互い様っていうか……」


これ以上、彼に謝ってほしくない。
そんな気持ちから、口が勝手に動いてしまう。

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