極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
「別に『今すぐ籍を入れよう』とは言わないし、契約結婚みたいな形でもいい。ほら、一昔前にそういうドラマが流行っただろ?」

「でも、さすがにそれとこれとは違うよ……」

「どうしても無理なら、一年か二年くらいで離婚したって構わない。もちろん、好きな人ができたら別れるって形もアリだ。芽衣も『肩身が狭い』って言ってたし、そのうち親が持ってきた見合いをさせられるよりもいい案だと思わないか?」


樹くんが名案だと言いたげに話すから、うっかりそんな気がしてきてしまう。
いくらなんでもめちゃくちゃだと思うのに、頭の中にある否定や拒絶の言葉がなぜか出てこなかった。


「返事は今日じゃなくていいよ。そうだな……とりあえず一か月くらいは待つ」


こんなこと、ありえない。
現実的に考えて、普通じゃない。


理性はそう語っていて、今すぐに断るべきだと思っているのに……。何年も好きだった初恋を捧げた彼の提案に、心がぐらりと揺らぐ。


「だから、まずは考えてみてよ」


昔よりもさらにかっこよくなった樹くんを前に、私はとうとう小さく頷いてしまっていた――。

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