極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない

* * *


あの一件から二週間が経った。


相変わらず、答えは出ていない。さらには、樹くんからはまったく連絡がないまま今日に至る。


そもそも、彼は本当に結婚しようとしているのだろうか。


冷静になった今、樹くんの提案はやっぱり突飛だとしか思えなくて……。彼があんな冗談や嘘を言う人じゃないと知っていても、まったく理解はできない。


(それとも、樹くんは意外と結婚に焦ってるとか?)


あの日の様子を思い出す限り、樹くんにそんな素振りはまったくなかった。ただ、人の本心なんて簡単にはわからないものだ。


「お疲れ様です」


早番だった私が仕事を終えてバックヤードに入ると、店長が「ちょうどよかった」と微笑んだ。


「今、本社から異動の辞令メールが届いたところなの」

「そうなんですね。誰か異動ですか?」

「ええ。ものすごーく貴重な戦力がね」


目配せをされて店長のもとに行き、パソコンのディスプレイを覗き込む。

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