極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
「まだ一か月先だけど、引き継ぎとかで忙しくなると思うから覚悟しててね」

「はい」


帰り支度を済ませて職場を出たところで、ふと樹くんの顔が脳裏に過る。


(羽田空港店ってことは、樹くんの職場……だよね)


このタイミングで羽田空港店に異動命令が出るなんて、いっそ神様の思し召しのように思えてくる。


(って、職場が羽田になるなら引っ越さなきゃいけないんじゃ……)


今の家からでも通えない距離じゃないけれど、通勤時間はグッと延びる。


少なめに見積もっても、自宅から羽田空港内の店舗に着くまでは一時間半というところだろう。乗り換えの状況によっては、二時間は見ておきたい。


異動先の距離に応じて会社からは引っ越しの補助金が下りるため、それならいっそ羽田空港の近所に住んだ方がいいかもしれない。
そんなことを考えていると、バッグの中でスマホが鳴った。


着信画面に出ている名前を見て、ため息が漏れる。けれど、出なければ出ないであとで面倒くさいことになるに違いない。


仕方なく、通話ボタンをタップした。

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