極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
「も、もしもし……」

『芽衣? 今って大丈夫?』


樹くんと話すのは、あれ以来。メッセージのやり取りすらなかったのに、いきなり電話がかかってくるなんて思わなかった。


一応「うん」と返事をしたけれど、どこか身構えるような気持ちになってしまう。


『この間はありがとう。体調とか大丈夫だった?』

「え? 体調……?」


思わぬ言葉に、鼓動が跳ね上がる。


確かに、あの夜の彼との情事は激しかった。
甘くて優しいのに、激情に呑み込まれるくらいに甘美な一夜だった。


『ああ。結構飲んでたし、睡眠不足だったんじゃないかと思って』

「あ、そういうこと……」


ついぽろりと零したあとで、ハッとする。


『ふーん。芽衣はなにを考えたんだ?』

「なっ、なにも! 全然なにも考えてないから!」


頬が熱くて、声が震えそうになる。動揺していることはたぶん隠せていなくて、樹くんがククッと笑った。


『芽衣はからかい甲斐があるな』

「……樹くんは結構意地悪になったよね」

『そう? まあ否定はしないかな。芽衣限定だけど』

「えっ?」


その言葉の真意を尋ねる前に、彼の落ち着いた声が電話口で静かに響く。

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