極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
樹くんからすれば、すれ違い生活になることが予想できていたから結婚なんて提案をしてきたのかもしれない。


一緒にいる時間が短ければ、ルームシェアみたいなもの。長時間顔を突き合わせることがないなら、気遣いも最小限で済む。


相手が私だから素性はわかっているし、親からの結婚の催促も避けられる上に、幼なじみという関係性がある以上は反対される可能性だって限りなく低かった。


(でも、樹くんと一緒に過ごせば過ごすほど、樹くんが今すぐに結婚したかったようには思えないんだよね……)


ただ、上手く言えないけれど、心の片隅にそんな違和感がずっとあるのだ。


もともと、彼は私みたいに両親から口うるさく言われていた様子はなかった。


おじさんとおばさん――つまり今は私の義両親にあたるふたりが、樹くんの仕事や意志を尊重しているのは明らかだ。
彼自身も焦っている素振りはなく、そこまで結婚が必要だったようには思えない。


それとも、私が考える以上に樹くんにもメリットがあるのだろうか。


「うーん……。でも、私といてもそんなものはないよね?」


虚しい独り言が、バスルームに小さく響く。

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