極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
そもそも、私たちの間には愛情がないのだから、当たり前だろう。


色々なことが重なったあの夜が特別だっただけで、冷静になった今は樹くんと体の関係を持つなんてハードルが高すぎる。
今さらかもしれないけれど、彼の前で肢体を見せる勇気はなかった。


(だって、樹くんの元カノとかって美人でスタイルがいい人ばかりだったんだろうし、こんな体でごめんなさいって感じだよ……)


標準体型よりも細い、一六〇センチの体。それに合わせたような胸は、谷間は作れるものの少しばかり寂しい。
太りやすい上に仕事で甘い物を飲む機会が多いため、早番の日や休日には自宅でヨガや筋トレに励んでいるけれど、スタイルに自信があるわけじゃない。


友人や同僚から、『手足が長くて羨ましい』なんて言われたことはある。ただ、そんなものはお世辞だとわかっている。


やっぱり、樹くんにはなんのメリットもないと思う。


「早まったかなぁ……」


バスルームから出て着替えを済ませたあと、静かなリビングでため息を漏らした。


(樹くんが帰ってくるのは明日の朝だっけ……)


彼と顔を合わせないからこそ今のようにリラックスできるのに、ときおり寂しさを感じてしまう。


きっと、樹くんがいたら緊張する。
それなのに、ソファにごろんと横になった私は、早く明日になればいいのに……なんて思ってしまった。

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