極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
六月に入って間もなく、友人の西尾梅(にしおうめ)が家に来てくれた。


梅は高校の同級生で、結婚を報告した数少ない友人のひとりだ。その中でも唯一、彼女にだけは樹くんとこうなった経緯まで打ち明けている。


自室で梅と談笑していると、出勤準備を整えた彼が姿を見せた。


「芽衣、俺そろそろ行くから。数日間帰れないけど、ちゃんと戸締りしろよ」


樹くんは、今日からしばらく帰ってこない。
夕方の便でイタリアに飛び、向こうで三日間のオフを挟んで帰国するのは週明けになる。


「うん、わかってる。心配しないで」

「そう言われても、芽衣は意外と抜けたところがあるからな」

「そんなことないよ。子どもの頃よりちゃんとしてるでしょ」


ふっと笑った彼が、私の頭をポンポンと撫でる。そのあとで梅にも笑顔を向けた。


「西尾さん、もしよかったらゆっくりして行ってください」

「ありがとうございます」


彼女は微笑むと、樹くんは再び私を見た。


「じゃあ、行ってくる。うたた寝して風邪ひくなよ」


彼は冗談めかしたようなことを言うと、優しい眼差しを残して出掛けていった。

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