極上パイロットは偽り妻への恋情を隠さない
ここに来たときの樹くんは、私をからかうようにこっそり耳打ちしてくることはあるけれど……。周囲にバレないように気遣ってくれているし、ましてや誰かに内容が聞こえるように話したりはしていない。


彼は私の気持ちを汲み取り、配慮してくれているからだ。


「その様子だと、私の予想は当たりかな?」


にっこりと微笑まれて、答えに悩んだ。
樹くんと私の関係は、まだ親しい人にしか打ち明けていない。


彼自身も、社内では最低限の人にしか結婚の報告をしていないと聞いている。上司と人事部には報告済みだけれど、『同僚には折を見て話します』と伝えたのだとか。


その上、私たちの結婚は普通とは違う。もっと言うと、いずれは離婚する可能性が高いだろう。


樹くんの立場を思えば、私の口から勝手に話すのは憚られた。


「もしかして、恋人だったり――」

「幼なじみなんです」

「え?」

「実家が近所で、子どもの頃から家族ぐるみで付き合いがあって……」

「そうだったの」


馬場園さんの表情が、パッと明るくなる。そこには安堵が滲んでいる気もした。


直後、罪悪感と不安に包まれる。
幼なじみというのは本当だけれど、それでもこれでよかったのか……と戸惑いも生まれた。


けれど、笑顔を残して立ち去る彼女の背中を見つめることしかできなかった。

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