初夜で妻に「君を愛することはない」と言った私は、どうやら妻のことをめちゃくちゃ愛していたらしい
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それなのに、それなのに……!
マイケル卿ときたら、私が本邸に来てからというもの、毎日わたくしに会いにくるのです。そしてわたくしが直接会わないと分かると、物陰からチラチラとわたくしを覗き見しているようなのです。
「あっ、また兄様が覗いてる」
「ああなったらもう、ただの変態の域ね」
わたくしは今、マイケル卿の妹であるマリアリーゼ、ミリアリーゼとともに、朝の散歩の最中です。
ため息をつきながら、マクマホン本邸庭園の朝露に濡れた美しい花々を眺めていると、二人がそんなことを言ってきました。
どうやら本日も彼はやってきたようです。朝早いですわね!?
大体、彼は私に会って、何を言うつもりなのかしら。
離縁……白い結婚……愛人…………?
わたくしが不意打ちのようにパッと後ろを振り向くと、確かに本邸の壁際から、真っ赤なバラの花束を持ったマイケル卿がチラチラこちらを見ていました。
わたくしはそんな彼を見て一瞬固まった後、いつものとおり、すぐにプイッと顔を背けます。
「効いてる効いてる」
「姉様、兄様ががっくり肩を落としているわ!」
「あんなでかい図体で隠れきれる訳ないのに、あれで忍んでるつもりだったのかしら」
そうなのです。
マイケル卿ときたら、あんなに大きな体でこっそりできるはずがないのに、必死にこそこそしていたのです。
「か、可愛い……! 本当に酷いオトコですわ、脈なしのわたくしの心をここまで捻じ上げてくるなんて……大嫌い……っ!」
「姉様、どこにも可愛い要素なんてありませんよ!?」
「うーん、何というマイケル狂信者フィルター……これはこれでお似合いなのか……」
落ち込むわたくしに、義妹達が冷たい言葉をかけてきます。けれども、彼の魅力で頭がいっぱいのわたくしには届きません。
「そういえば、ステファニーお姉様。そろそろアレの結婚休暇も半分終わったみたいですよ」
「休暇が終わったら、今みたいに毎日朝から晩まで姉様をチラチラ見るのは難しくなるでしょうね」
そういえば、マイケル卿は結婚休暇中なだけで、普段はお仕事があるんでしたわ。
彼は次期侯爵なので、学園の卒業後は、お義父様の下で領地経営について学びつつ仕事をしているのです。
そして、マクマホン侯爵家の嫁であるわたくしも、休暇後は一緒に領民の皆様に顔見せをする予定でした。
そろそろ、その辺りについて話し合いをしないといけませんね。
義両親や義妹、義弟達のお陰でわたくしの気持ちも少し落ち着いてきました。
逃げ続けるのも、この辺りが潮時かもしれません。