夏空とヴァンパイア
4玩具のカメラ
ヴァンパイアである事は、晶にとって、重い足枷だった。
血を飲まなければならないというのは不気味だったし、それを誇っている両親も、晶には危うく思えた。
授業中晶は、自分がヴァンパイアじゃなくなっているという空想をした。
想像の中に、自分と一緒に昴が出てきそうになったので、晶は慌てて考えるのを止めた。
休み時間になって、生徒たちがパラパラと教室を出ていった。
その日はいい天気だった。
教室から庭へ出た晶は、壁に凭れて、体育座りをして花を眺めていた。
「あ、居た居た」
声がして振り向くと、ガラスのドアを昴が開けた。
昴は、晶の隣にしゃがんだ。
「よく日向に出てるのに、どうしてそんなに白いの?」
じろじろと晶を眺める。
「女だからっていうよりは、お前は特別だね」
ふう、と昴は小さくため息を付く。
「晶、玩具のカメラ、持ってきてやった」
ぽい、と緑色のカメラを放ってよこしたのを、晶はあやうく取り落としそうになった。
「貸してやる。使いな。それじゃあね」
それだけ言うと昴は教室に入ってしまった。
教室から男子の一団が騒ぐ声が聞こえる。
晶はカメラを手に取って、大事にハンカチに包んだ。
文房具屋に行くと琥珀は居なかった。
琥珀は、居る時と居ない時がある。
別の小学校で、琥珀がどんな風に生活をしているのか、晶はよく考えたが、実はさっぱり、見当が付かなかった。
琥珀は自分のことを話さず、いつも晶の事ばかり聞くので、琥珀の方は、逆に晶の事をよく知っているのかもしれない。
晶は手持ち無沙汰に店の中に入って、暗い店内の数が少ない商品を眺めた。
晶は、家に帰って、玩具のカメラに部屋を映してみた。
カメラを通してみると、部屋の物が何でも全部きらきらした万華鏡の模様になった。
晶は夢中になって、今度はキッチンを映そう、と思い立った。
あっと思った時にはもう遅かった。
晶は、鞄に躓いて、玩具のカメラを持ったまま、ばったーんと転んでしまった。
かちゃん、と音がして、玩具のカメラが壊れた。