夏空とヴァンパイア
6クッキー
晶は、花壇を見ずに昇降口へ入った。
教室に着いてから、晶は自分の席で本を開いた。
じんじんと疼くような頭痛がして、内容が頭に入ってこない。
痛みは永遠に続いて取れない気がした。
机に突っ伏していると、腕の中で、ふいに視界が影った。
「こら」
コツンと音がして、頭に痛みが走った。
顔を上げるとと真ん前に昴が立っていた。
「壊れてもまた直せるだろ。」
昴の手には、ゴムテープで取っ手がきれいにくっついた玩具のカメラがあった。
「アホウめ。何に遠慮してんだよ。まったく。」
ふ、と昴は晶の開いていた本に目を留めた。
「ヴァンパイアの本ばっかり読むんだね。好きなの?」
晶は首を横に振った。
「ふーん。」
昴は頷いた。
「白くてひ弱。お前がヴァンパイアだったら面白いのにな。」
そこへたまたま騒いでいた男子の一団がやって来た。
「昴!」
「今行く」
昴はかけて行ってしまった。
算数の授業。
教鞭を持った先生が、黒板を指して聞いた。
「この問題の答えが分かる人」
誰も手を挙げない中、昴だけがすっと手を挙げて、答えた。
「……です」
「大正解。難問だぞ。よく勉強しているね」
給食の時間、晶のクラスは机を合わせない。
調子が悪いから当たり前だが、晶はたった二口しか給食を食べなかった。
食器を片付けようか迷っていると、昴がやって来て、空いていた晶の前の机に腰掛けた。
一緒に男子の一団がいて、ガヤガヤ騒いでいる。
昴はポケットからクッキーの袋を取り出すと、口を左右に引っ張って開けた。
昴が言った。
「晶、あーんして」
晶は目を瞬いた。
「あーん。ほら早く」
晶が小さく口を開けると、その口に、昴はクッキーを摘んで押し込んだ。
「餌付け。」
昴が言った。
「お前は栄養取った方がいいよ。ガリガリじゃん。」
「昴、俺にもちょーだい」
「晶にやるために買った。こいつあんまり食わないから」
「西井がそんな気になるかあ?」
友達の一人がはやす。
「別に。食わなすぎるからなだけ」
昴はそっけなく言った。
続けた。
「細い女の子嫌い。」
「……」
「太れ。肉つけなよ。」
「セクシーバディにして、やらしいこと考えてんな、昴。」
「そーゆーこと考えてんなよ、昴」
「はは。まあね。」
晶が昴を見上げると、昴は怒り笑いした。
「嘘に決まってるだろ。」
晶は、甘いクッキーを黙って食べた。
「ちゃんと食えよ。僕それお前のために買ったんだからな」
晶の頭の中で、細い女の子嫌い、がリフレインした。