シャンプー~私と課長のハジメテの夜~
無言の彼と、手を繋いで歩く。
気まずいような心地いいような、微妙な沈黙。
私より五つ年上の彼――嶋貫(しまぬき)課長は私がずっと、憧れていた人だ。
その彼の家に今日、泊まるだなんて誰が想像できただろう。

きっかけは些細なこと。
今日の飲み会で私は、おじさん社員からセクハラを受けていた。

「ほら井町(いまち)さん、お酌してよ」

「はぁ……」

曖昧に笑い、酒臭い息を吐きかけてくるおじさん社員のグラスへビールを注ぐ。
私が絡まれていても他の人たちは見て見ぬフリ。
自分に被害がおよぶのは嫌だろうし、――それに。

「井町さんっておとなしいよねー。
……あ、飲んでる?」

「はぁ……」

また、曖昧に笑って自分のグラスに口をつける。
おとなしい、というより地味な私がどんな被害に遭っていようと、関心がある人なんているわけがない。
部内のマドンナ、桃園(ももぞの)さんが同じ目に遭っているなら別だろうけど。

「ほら、ぐーっと飲んで、ぐーっと」

お酒はあんまり、得意じゃない。
断りたいけど断れない雰囲気。
意を決してグラスの中身を一気に空ければ、あたまがくらくらした。

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