シャンプー~私と課長のハジメテの夜~
ぎろっと眼光鋭くその人――嶋貫課長に睨まれ、おじさん社員が小さく悲鳴を上げる。
そのままおじさん社員は腰が抜けたかのように這って、人のいない部屋の隅へと凄いスピードで去っていった。

「……あのさ」

どさっ、と嶋貫課長が私の隣へ腰を下ろす。
くるくると空いたグラスを弄びながら、彼は説教をはじめた。

「ああいうのにははっきり言わなきゃダメ。
でも、言う前に止めたのは俺だけど」

「……なんで」

「だって井町、あのままだったらあいつ、ひっぱたいてただろ」

図星なだけに言い返せない。

「それだと、井町に正当な理由があっても問題になっちゃうの。
過剰防衛ってわかる?」

「……はい」

嶋貫課長の言うことはもっともだ。
私が冷静に、あのおじさん社員へセクハラだと告げられていればよかっただけの話。

「あー……、それがダメだって言ってるわけじゃないの。
むしろ、よくやった! って褒めたいくらいだし」

くるくる、くるくる。
嶋貫課長はグラスを弄び続ける。

「でもさ、過剰防衛で問題になっちゃうと、あのおじさん、ますます調子に乗っちゃうでしょ?
だから、止めた。
それに俺には、それなりの権力もあるし?」
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