シャンプー~私と課長のハジメテの夜~
がばっと勢いよく顔を上げたかと思ったら、目の前のビール瓶を掴んでグラスに注ぎ、嶋貫課長は一気に飲み干した。

「わ、私は、その、嶋貫課長にだったら、……襲われたい、って……いうか」

「……は?」

彼の目が、その眼鏡のフレームと同じくらい大きく見開かれる。
自分でもなにを言っているんだろうとは思うが、きっとさっき飲んだビールで少し、気が大きくなっている。

「なに言ってんの?
それ正気?」

冗談だとしか思っていないのか、笑いながら嶋貫課長はグラスにさらにビールを注ごうとした。
が、瓶は空だったらしく、テーブルに戻す。
そんな彼の袖を熱くて上げられない顔でそっと引いた。

「確かに酔っているかもしれません。
でも、本気、……です」

「あー……」

困惑した声と、がしがしとあたまを掻く音が聞こえてくる。
私はただ、彼を困らせているだけなんだろうか。
困らせるしかできないのならいっそ、取り消した方が。

「……なら、抜けようか」

唐突にぼそっと耳もとで囁かれ、驚いて顔を上げる。
レンズ越しに目のあった嶋貫課長は右頬だけを歪めて人の悪い顔でにやっと笑った。

「どうする?」

< 5 / 12 >

この作品をシェア

pagetop