シャンプー~私と課長のハジメテの夜~
唇に僅かな笑みをのせたまま、嶋貫課長が私をじっと見つめる。
その挑発するような顔に知らず知らず喉がごくりと音を立てた。

「……はい」

「なー、井町、酔ってるみたいだから送っていくわー」

返事をした瞬間、嶋貫課長は全員に聞こえるように声を出した。

「ほら、行くぞ」

「あ、はい!」

促されて、荷物を持って立ち上がる。
慌てて立ったせいか足がもつれて、本当に酔っ払っているかのようだった。

「あぶねーな」

さりげなく、嶋貫課長が支えてくれる。
ふわっと香った、ムスクの匂いにどきっとした。

「ほら、こんな具合だから。
あと頼むなー」

気をつけてー、なんて声に送られて会場になっていた居酒屋を出る。
通りに出てすぐに、嶋貫課長はタクシーを拾った。

「――まで」

彼が告げた場所は最寄り駅でも私の住所でもないからきっと、彼が住んでいる場所なんだろう。

嶋貫課長はずっと、窓に頬杖を突いて黙って外を見ている。
私もどうしていいかわからずに、なにも言わずに俯いていた。

「なあ。
本当に俺でいいの?」

視線はずっと外、なので彼がどんな顔をしているのかなんてわからない。

「はい」
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