忘却の天使は溺愛に囚われて


「まあいい。今はただ、お前の無事が確認できて安心した。この俺に偽名なんか使いやがって」

 突然、朔夜さんに抱きしめられる。
 たくましい腕が背中にまわされ、ふたりの距離がゼロになり、ドキドキしてしまう。

「ちょ、あの……」

 その時ふと気付いた。
 私を抱きしめる朔夜さんの手が微かに震えていることに。
 きっとカンナさんとの間に、私が知らないようなことがあったのだろう。

 ただ、その震えている手からは、あまり良い別れ方ではなかったのだろうと察せられた。

「これからはこっちに戻ってくるのか?」
「あ、いえ……受験が早く終わって、冬休みに時間があったので地元に遊びに来ただけです」
「ふーん。で、この後はどうするんだ?」
「数日ホテルで泊まって帰る予定です」

 親の転勤で地元に家はもうない。
 そのため数日間、ホテルに泊まって地元の友達と遊び尽くした後、帰る予定だった。

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