忘却の天使は溺愛に囚われて
「じゃあ別にいいな」
「いい……とは?」
なんだか嫌な予感がする。
そう思った時にはもう、朔夜さんはニヤッと悪そうな笑みを浮かべていた。
「その冬休みが終わるまで、ここで泊まれ」
「なっ……は、話聞いてました⁉︎」
「文句あるのか? 本当はずっとそばにおきたいのに我慢してやってるんだ」
無茶苦茶で乱暴な人。
そう思う一方で、縋るような姿にノーと言えなくなる。
「……わかりました。ですが、条件があります」
「条件?」
「カンナさんに対する気持ちはわかりましたが、私はカンナさんではなく乙葉なので、別の人間として接してください」
朔夜さんの接し方からして、恐らくカンナさんとは親密な関係だったのだろう。
今のように抱きしめられたり、触れられたりするのは、あまり経験のない私にとって刺激が強すぎる。
この条件は飲んでもらわないとと思い、じっと朔夜さんを見つめた。
けれどあまりにカッコ良すぎて、すぐに目を逸らしてしまう。
「……乙葉」
「は、はい」
「じゃあ決まりだな」
どうやら朔夜さんは条件を飲むようで、あっという間に冬休みの自由を奪われてしまう。
けれど私は心のどこかで、予測できない今後に期待を抱いていた。