忘却の天使は溺愛に囚われて
それに朔夜さんが私に優しすぎるから、ついついその事実を忘れて気が抜けてしまう。
「俺は乙葉相手に接してるつもりだったが……気に入らないのならすまなかった」
「あ、あ、謝る必要はないです! こんな風にもてなしていただけて嬉しいです!」
「……そうか。それなら良かった」
ふっと色気ダダ漏れの微笑みに、心臓を射抜かれる。
これは……危険だ。危険すぎる。すでに朔夜さんに夢中になってしまいそう。
意識しないように、私はご飯を食べることに集中する。
「このパン美味しい……!」
「好みは同じなのか」
「……? 何か言いましたか?」
口に運んだ塩パンのあまりの美味しさに感動していると、朔夜さんがボソッと呟いた。
うまく聞き取れず聞き返したけれど、朔夜さんは「なんでもない」と言って答えてくれなかった。
「乙葉、今日は友達と遊ぶって言ってたか?」
「はい! せっかく帰省したので、友達と遊びまくるんですよ!」
「はあ……その予定とやらはいつまで入ってんだ?」
朔夜さんは残念そうな、不機嫌そうにも受け取れる表情で私に質問する。
毎日遊びに出かけて、夜寝る時だけこの家に泊まりにくるはさすがに迷惑かなと思い、慌てて口を開く。