忘却の天使は溺愛に囚われて
「そういえば、時効ってことで乙葉に聞きたいことがあるんだけど」
「時効って何それ、怖いこと言うね。別にいいけど何?」
ユキが改まって言うものだから、何事かと少し緊張してしまう。
「無法地帯の男と関わってたって本当?」
「……え」
ユキの問いに目が丸くなる。
あまりにも予想外で、間抜けな声が出てしまった。
ユキの言う“無法地帯”とは、この街にある悪い人たちが行き交う危険な区域のことを指す。
平和に暮らしていきたいなら、決して足を踏み入れてはいけない危険な場所。
そこで生きる男の人と私が関わっているだなんて……そんなの答えはただひとつ。
「ふふっ、突然何を言い出すのかと思ったら……そんなの嘘に決まってるよ。どこ情報なの?」
「やっぱり嘘かあ。いや、噂として耳にした程度で、出どころはわからないんだけど……つまんないの」
「なーに、その残念そうな反応は」
生まれてから今日までずっと、そんな危険な場所には近づかないようにしていた。
無法地帯と評されるだけあって、そこで被害に遭った人も少なくない。
嘘か本当かもわからない黒い噂も多くあり、私は怖くて一切関わらないんだと避けていたのだから。