御曹司の初恋ーーお願いシンデレラ、かぼちゃの馬車に乗らないで
伯父様は壁に飾ってある家族写真へ溜息を吹き掛けた。
私を『姫香』と名付けた母とは死別しており、幼い頃であった為に思い出という思い出が残っていない。いわば屋敷が形見である。
「不安な顔をしないでいい、私に任せておけば大丈夫。浅田さんは姫ちゃんと結婚出来るなら援助は惜しまないと言ってくれているのだよ。おや、食べないのかい?」
フォークの先で私のケーキをつつく。どうぞと皿を押し出せば、抉るように一口。それから上に乗っている苺を突き刺した。
■
伊豆へは車でなく公共機関を使って向かっている。浅田さんとは現地で落ち合う段取りで、重い足取りはあえて長い移動時間を選択した。
父が倒れた日から転がり落ちるよう今に至り、電車に揺られながらでも考える時間が欲しかったのかもしれない。
家の為に結婚をする、それが私の出来得る恩返し。
意識を取り戻した父が聞けば怒るだろうが、伯父様が指摘した通り、世間知らずの私は浅田さんへ身を差し出す他なかった。経済的、精神的に自立した女性になりきれず不甲斐ない。
私を『姫香』と名付けた母とは死別しており、幼い頃であった為に思い出という思い出が残っていない。いわば屋敷が形見である。
「不安な顔をしないでいい、私に任せておけば大丈夫。浅田さんは姫ちゃんと結婚出来るなら援助は惜しまないと言ってくれているのだよ。おや、食べないのかい?」
フォークの先で私のケーキをつつく。どうぞと皿を押し出せば、抉るように一口。それから上に乗っている苺を突き刺した。
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伊豆へは車でなく公共機関を使って向かっている。浅田さんとは現地で落ち合う段取りで、重い足取りはあえて長い移動時間を選択した。
父が倒れた日から転がり落ちるよう今に至り、電車に揺られながらでも考える時間が欲しかったのかもしれない。
家の為に結婚をする、それが私の出来得る恩返し。
意識を取り戻した父が聞けば怒るだろうが、伯父様が指摘した通り、世間知らずの私は浅田さんへ身を差し出す他なかった。経済的、精神的に自立した女性になりきれず不甲斐ない。