今日から私は何かに夢中!

漫画に全てを教わった!

 むか~しむかし。
 北海道のある街に。

 じふちゃんという名の、少女が住んでおりました。

 じふちゃんはね、ちょっぴり変わった女の子。

 ある日ね、近所のおばさんがじふちゃんのおかあさんを呼び止めて、こう言ったんですって。

「おたくのじふちゃん、なにか悩み事でもあるの?」

「ええっ? いえ、そんな様子はありませんでしたけど~! あらあら、うちの子、どうしちゃったのかしら~?!! 」

 じふちゃんのおかあさんは、すっごく驚きました。

 近所のおばさんは、しんせつに教えてくれました。

「じふちゃんね、誰もいない公園のブランコに揺られて、空を見ながら、1時間以上も、……ぼ~っとしていたのよお~! 」

 近所のおばさんはそんなじふちゃんを見て、とっても《《シンコク》》な悩みがあってそうしているのではないかと、すご~く心配してくれたんだそうです。

 おばさん、優しいですねぇ~。

 それを聞いたおかあさんも心配になり、じふちゃんにこう尋ねました。

「どうしてブランコに乗って1時間も、ぼ~っとしていたの? じふちゃん」

「……」

「なにか悩んでるの? おばさん、心配してたわよ」

 じふちゃんは、首を横に振りました。

「じふちゃん、悩みなんてぜ~んぜん、ないよぉ」

「は?」

 じふちゃんはおかあさんに、こう答えました。

「漫画のお話を、考えていたんだよ」

「……は??」

 じふちゃんはブランコに揺られながら楽しく、物語の内容を考えていただけだったんですって!

 人騒がせですね~。

「……そ、そうだったの? な、なら良かったわ。は、ははは~」

 おかあさんは、あきれたようなホッとしたような声で、笑いました。

 そして、

「……恐ろしい子!!! 」

 ……ではなくてですね、

「我が娘ながら変な子!!! 」
 
 という感じのビミョ~な笑顔を、じふちゃんに見せてくれました~。

 ちゃん、ちゃん。

 あ、スイマセン。

 じふちゃんは、私です。
 フツーに話します、ハイ。

 9歳から19歳まで、漫画家を目指していました。

 目指していたといっても、『漫画家になった自分』をひたすら夢想していただけです。

 メチャクチャ楽しんで描いてはいたんですよね。漫画が大好きだったから。

 キリが無いのであまり買ってもらえませんでしたが、当時の人気漫画雑誌を買っては友達何人かと、楽しく回し読みしたりしていました。

 ドラえもんが一番大好きでしたから『コロコロコミック』に始まり、少女雑誌や少年雑誌、面白そうな漫画なら何でも読んだ少女時代でした。

 すごいですよね、漫画家さんって。

 ストーリーだけじゃなくて、絵まで描けちゃう!

 自分もこんな風な面白い漫画を描いて、○○先生って呼ばれてみたいー!!

 とまあ、こういう不純な動機で、夢中になって描いていました。

 ある少女漫画雑誌のふろくに『○○先生の、漫画の描き方』というのがついていて、それを見ながら必死に練習したのを覚えています。

 でも結局のところ全部、自己流。
 ひとりよがりでした。

 今ならそれがわかります。

 どんなに描いても『そこそこ』にしか上手になれなかった理由は何故か。

 『本当の漫画家』になりたくても、なれなかったのは何故か。

 根本的な(自分に足りない)技術力をUPするための研究や勉強、行動や段取りが決定的に足りないまま、ただ楽しく好きなように描くだけだったからです。

 雑誌に投稿できたのは一作品だけ。
 あとは完結しませんでした。

 なにしろ「あ~でもない、こ~でもない」を繰り返す人間です。

 ストーリーはおろか絵の方もコロコロ変わり、夢想家じふちゃんは迷走を繰り広げるばかり。

 そんな風に夢中で描いているうちに、自分と同じように絵や漫画を描く友達と、大変親しくなりました。

 絵そのものがとても上手な友達、コマ回しが上手な友達、動きをダイナミックに魅せるのが上手な友達、背景などの描写が上手な友達……たくさん出会いました。

 どうしてあの時の自分は、ベテラン漫画家さんの模倣をしたりとか、アシスタントへの道のりを真剣に考えたりとか、上手な友達の誰かをリスペクトしようという考えに、及ばなかったのでしょう。

 ただ楽しく描きたかったからに他なりません。

 本物の漫画家を目指していたのではなく、『漫画家を目指す自分』に酔っていただけだったんです。

 そのくせ自分よりはるかに絵が上手な友達に、強烈な嫉妬心を覚えたりもしました。

 ○○ちゃんも〇△ちゃんも絵が上手だけど、自分には『無敵の想像力』がある。

 自分の漫画が『一番面白い』はず!

 自分にしか思いつかない物語を、一生懸命描いているんだから!

 ……そんな感じでした。

 自己過信です。

 う~ん、切ないね。

 自分の幼少期、それは。

 自己客観視ができない、誇大妄想少女。ただの『夢想家』だったんです。
 
 そんな『妄想お花畑』状態で、10年間フワフワしていました。

 しかしついに、ある結論に達しました。

『どうも自分の絵はコロコロ変わるし、不器用過ぎるし背景が全く上手に描けない。だから絵を描くのを、完全にやめてしまおう!』

 ちょっぴり自己客観視ができた19歳で、やっと絵を断念。

 当時は、苦しかったですね。

 それから全然、絵を描かなくなっちゃいました。

 あんなに好きだったのに。
 
 描きすぎて飽きたのかな?
 それもあるかも知れません。

 絵を諦めたことを思い出すのが、今でも苦しいからなのかも知れませんね。

 でもね。
 財産はたっぷりと残りました。
 ただの夢想だったとしても。

 物語を作る楽しさや、何かに夢中になれる面白さだけは、自分の中に固く根付いたんです。

 全てを教えてくれた『漫画』。
 出会えた事に、心から感謝!

 今でも大好きですよー!

 少年漫画も少女漫画も!!
 そのほか様々な漫画も!!

 ……そんなわけで。

 頭の中はいつだって、大好きな『物語』で、ぐるぐるしております。

 妄想少女じふちゃんは、妄想爆発乙女になり、妄想おばちゃんWEB小説家になりましたとさ。


 ちゃんちゃん。


 
 
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