ヒートフルーツ【特別編集版第2部】/リアル80’S青春群像ストーリー♪
勃発/その5
砂垣



あの後も、諸星さんとは1時間近く話していたよ

結局バグジーはその場には来れず、今日夕方、火の玉川原に金城さんが連れてくるということになった

俺の方は、大場と蘇我も立ち会わせる段取りをとったわ

勃発は近いんだ

秘密兵器の使い方は、俺らでしっかり想定しておかないと…

なにしろ麻衣からのレッドカードには、要注意だからな


...



いずれにしろ、今日の諸星さんからはいろいろ聞けた

おかげで星流会とその後ろのお偉方については、概ねのハラが把握できたわ

手前みそだが、組外部の人間がここまで知り得るってのは、俺のポジションじゃなきゃ無理だわ

本郷麻衣は、その俺のポジションがもたらす諸々を、冷静に見切っていたってことになるな

その麻衣だよ…

憎たらしいガキだが、こうまで敵を本気させたんじゃ、ヤツもどうなのか…

それを、相和会…、とりわけ党の許嫁となった倉橋さんと新生相和会のナンバー2である剣崎さんは、どう捉えているんだろうか

...



他方で、今日の諸星さんの話からは、天敵の相和会に今回はかなり強気で構えている理由が理解できたわ

そこには、俺が微妙に関わっていたようだ

「順二よう…。今、世界中で紛争が絶えない中、日本だけが経済に集中でき、社会全体が急速に豊かになってる。この調子なら何年もしないうちに、その辺のガキもいっぱしの消費者として闊歩してる社会になってるよ。そこで生み出される”果実”を吸い上げられれば、実質、俺らの新しい市場だ」

確かに今、この国の経済力は諸外国が脅威に捉えるレベルだ

だが、日本が他の経済大国と違うのは、一部の金持ちが生まれるんじゃなく、”全体”が底上げで豊かになるってことだ

「…その吸い上げるポンプの役目を、お前らの層が担う。俺たちのいわば予備軍のお前らがこれからは、しのぎのエンジンになるんだ。ガキどもと俺らの中間に愚連隊として、お前らを囲ってきたのも、その試金石だった訳だ」

うん、おっしゃる通りだと思うよ


...


「これは俺が長年、抱いてきた仕組みだ。日本人は目先の損得へのめり込むことに、どこかためらいがあるから、損得優先のビジネス感覚に徹底できれば、これからに乗っかれる。この業界じゃあ、そういうドライな姿勢は仁義だとかきれいごとってことで、これまでの俺は邪道扱いされてきた…」

この人は在日で、考え方は実利優先の現実志向だ

それ故に、業界では仁義より金優先の拝金主義者と見なされ、関東の他の組からも蔑視を浴びてきたらしい

だが、時代はこの人の考えに急速にシフトしてきた

「…だがよ、ここに来てどうだ。いくつかの組が、俺のビジネスモデルを取り入れ始めたよ。いわば、俺はそのスキルのパイオニアとして評価されはじめたんだ。だからよう、今回、ガキのフィールドでエリア拡大を実現できるか、今の星流会には多くの組が耳目を傾けてやがるわ、ハハハ…」

なるほど…

俺あたりでも、従来とは違う実感はある

これまでの星流会は正直言って、親筋の東龍会以外に友好関係の組はほぼ皆無だったからな

それが、今回の方針には、関東直系の数グループが東龍会と協調姿勢をとっていると聞く

「いいか、ここは引けねえんだ。俺の勝負どころなんだよ。まあ、百歩譲っても、あの小娘に転がされたって絵は晒せねえ。万一、そういう場面に行きつくようだったら、最低限の”カッコ”はつける…。これが”俺ら”の暗黙事項となるはずだ…」

諸星さんからは、まさに気迫が伝わったよ

さあ、そこで俺の立ち位置もかなり難しくなってきたわ






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