筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
***

「うれしいな、東条さんとこうして食事に来れて」
夜景の見えるレストランで音石常務は上機嫌。
「こちらこそ、誘っていただけて嬉しいです」
御曹司なだけあって音石常務のテーブルマナーは完璧だ。話だって最近の流行りから芸術や政治まで、こちらの興味のあることに合わせて広げてくれる。
ピザと一緒に指まで食べさせられるようなお行儀の悪さとは真逆ね、と思わずクスッと笑ってしまった。
「どうかした?」
「あ、いえ。楽しいなって思って」
笑ってごまかしたけど、本来この空間が私がいるべき場所って感じがする。私は私のいるべき場所で、ほんの少しだけレールの方向を変えるくらいがちょうどいいのよ。

「今日はごちそうさまでした。おやすみなさい」
「おやすみ」
音石常務は紳士的に自宅まで送り届けてくれた。

自宅のドアを開けた瞬間ドキッとする。朝出社するときに消したはずのリビングの灯りがドアから煌々と漏れている。消し忘れたのか、それとも……と足元を見ると見慣れた男物の靴。
「おかえり」
「ただいま……今日、来るって言ってたっけ?」
「言い忘れたかもね」
筒井くんはリビングでソファに座って映画を見ていた。
「字幕も無しで英語で観てるの?」
「英語わからなそうって意味? テキトーに流してるだけだから何でもいいよ別に」
たしかにそう思ってしまったけど、なんだかトゲのある言い方。画面を見たままだし、ご機嫌ナナメ?
「今日例の相手と食事だったんでしょ? どうだった?」
「それが気になって来ちゃったの?」
わざと子どもに言うような言い方をしたら、筒井くんは不貞腐れたように黙ってしまった。
「楽しかったよ。元々仕事ができるって知ってたけど、プライベートで話したのは初めてだったから新鮮だった」
「ふーん」
今度は私が「やれやれ」の溜息。慰めるのも違う気がしてシャワーを浴びることにした。
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