筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
***

「合鍵返して」
翌日夜、いつも通りに家に来た筒井くんに語気を強めて詰め寄った。
「ひょっとして小夜ちゃん怒ってる?」
「当たり前でしょ? こんなイタズラ許せない」
怒る私を彼は可笑しそうに笑って「よしよし」と撫でた。
「怒っててもかわいいね」
「ふざけないで」
「ふざけてないよ」
そう言って筒井くんは私を抱き寄せると顎をクイッと上げて唇を奪った。
「……やっ」
「小夜ちゃんのこと、誰にも渡したくないから俺のだって印付けたんだよ」
真剣な目に、怒ったような声色。
「筒井くんが最初に言ったのよ? 恋人じゃなくてセフレって。私が眠るのに協力するって。ヒモって納得してたじゃない」
私はついつい焦ったように言ってしまう。
「気が変わったって言ったら?」
「だめ!」
「結婚できる相手じゃないから?」
「そうよ。筒井くんとじゃ……結婚できる相手じゃなくちゃ両親を説得できない。27歳まで、私には時間がないの」
筒井くんの眼差しが突き刺さって鼓動が落ち着かない。
「小夜ちゃんは親の決めた人生に自分から捕われてるね」
その言葉に一瞬ハッとして、それからムッとする。
「お金目当ての人に言われたくない」
「金目当て?」
「だって筒井くんは私のお金で——」
「俺が本当に金が欲しくて抱いてると思ってるの?」
私の言葉に被せるように彼が言った。
「だってそうでしょ?」
私と、他の誰かのお金で暮らしてるくせに。
筒井くんは私の問いに答えずにしばらく黙ってしまった。それから諦めたようにつぶやいた。
「そう思われてるならそれでいいや。」
実際そうじゃない。一回1万円、欠かしたことないでしょ?
「でも、ほんとに合鍵返していいの?」
「どういう意味?」
「〝それ〟が消えるまでは彼氏とデキないよね。それまで眠れなくていいの?」
「……でも、もう彼を裏切るようなことはしたくない……」
彼は小さく溜息をついた。
「わかった、じゃあ抱かない。けど一緒に寝させてよ。それが消えるまで」

それから筒井くんはホットワインを作ってくれて、眠るまで抱きしめていてくれた。

もうすぐ終わる関係なのに優しくなんてしないでほしいって思いながら、筒井くんの腕の中で情けないくらい安心して眠った。
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