筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
「小夜子の知り合い? ……ああ、もしかしてあのキスマークの相手?」
虫刺されなんかじゃないことが理一郎さんにはしっかりバレていた。
「参るよな、世間知らずのお嬢様かと思ったらまさか傷モノだったなんて」
「キズモノ……」
私って傷モノなんだ。なんだか冷静に「そうなんだ」と思ってしまった。
だけど筒井くんはすごく怒っていて、理一郎さんの胸ぐらを掴んだ。
「彼女に謝れよ」
「筒井くん、やめて」
「終わってるのかと思ったらまだつながってたんだな。こんな若い男だったなんて、余計に品が無いな。」
理一郎さんの襟元にある筒井くんの手にグッと力が入る。
「やめて、筒井くん。私はいいから」
「でも」
「だって本当のことじゃない。音石さんと付き合うって言っておきながらずっと筒井くんとつながってた。それも私の意思で。私が最低で品が無いのは本当のことよ。音石さんは悪くない」
私がそう言うと、筒井くんは溜息をついて手を離してくれた。
「小夜ちゃんがそう言うならいいけど」
理一郎さんは不機嫌そうな顔で襟元を整えて帰ろうとしている。彼に対してはなんだかいろんな感情がぐるぐるしている。
「小夜ちゃんは部屋に入ってて。俺、この人に話があるから」
「え?」
私と理一郎さんは同じ顔をしていたかもしれない。
「話って何? 暴力はだめよ? 私は別に怒ってないし……」
筒井くんは笑顔で「わかってるわかってる」って言って、私をエントランスに押しやるように退散させた。
マンションの中に入っても心配になって、ついつい耳をそば立ててしまう。
理一郎さんの声で微かに「すみませんでした」と聞こえた気がする。やっぱり暴力を振るったんじゃないかと落ち着かない。
エントランスであわあわしてたら筒井くんが入ってきた。
「小夜ちゃんまだいたんだ、よかった。よく考えたら鍵持ってないから一緒じゃないと入れなかった」
彼は平然としている。
「な、殴ったの……?」
「そんなわけないじゃん」
筒井くんは私の不安を笑い飛ばした。
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