筒井くんと眠る夜 〜年下ワンコ系男子は御曹司への嫉妬を隠さない〜
筒井くんは理一郎さんと何を話したのか教えてくれなかった。
「どうして、今日来たの?」
リビングに入って荷物を下ろしながら聞いた。
「どうしてって、小夜ちゃんが来て欲しいって言ったんだよ」
「え? 言ってないよ」
最後の日、デートの話なんかをする私に筒井くんはただ呆れていたはず。
「あんな言い方して、本当は他の男に抱かれたくないって、止めてって言ってるようにしか聞こえなかった」
「そんなこと……」
「小夜ちゃんて本当に、意地っぱりで可愛いなって思った」
そう言って笑って、彼は私を抱きしめた。
筒井くんの胸はあったかくて、たったの十日ぶりなのに懐かしい匂いがして、心臓の音が穏やかで、なんだかすごく安心した。
「『仕事に一生懸命で気配り上手』って言ってくれたの」
「あいつが?」
筒井くんの胸の中で小さく頷く。
「だけど……本当は違ったんだね。私が東羽製薬の娘だって知ってて、やっぱり私の価値ってそれだけだったみたい……」
だけど、私だって音石さんを都合よくしか見ていなかった。
声が掠れてしまったから、泣いているのはバレてると思う。こんなことで泣きたくなかったのにな。
「小夜ちゃんの価値はそんなんじゃないよ」
彼がギュッとしてくれる。
「恋愛と一緒に仕事、ダメになっちゃった。きっともう会社も辞めなくちゃいけなくて、そうしたらもう……就職なんてさせてもらえない」
もう、私の仕事に斑目さんを待たせる価値なんてないもの。
「自由になりたいって言ったくせに、自分で自分の首を絞めちゃって、私、格好悪いね」
「そんなことない。自分の足で立とうとしてて、小夜ちゃんは格好いい」
筒井くんは私が落ち着くまで、優しく頭を撫でて、背中をさすったりしてくれた。お金でつながってたはずの彼が一番近くて優しいなんて、不思議。

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